アニメ「SHY」実樹ぶきみ×安藤正臣 | 女子中学生ヒーローを等身大に描くためのこだわりは?

TVアニメ「SHY」の放送が10月にスタートする。これを記念して、コミックナタリーと音楽ナタリーでは連載企画を展開。初回となる今回は、週刊少年チャンピオン(秋田書店)で原作「SHY」を連載しているマンガ家の実樹ぶきみと、アニメの監督を務めた安藤正臣によるインタビューを実施した。戦争がなくなった世界を舞台に、恥ずかしがり屋の少女ヒーロー・シャイの成長を描いた「SHY」。インタビュー初登場となる実樹が原作に込めた思いや、安藤がアニメ化するにあたりこだわった数々のポイントについて語ってもらった。

取材・文 / はるのおと撮影 / 武田真和

最初の印象よりは“シャイ”ではなかった(安藤)

──おふたりが初めてお会いした際の印象は?

安藤正臣 最初に見かけたときは、失礼ですが「どこの専門学生が紛れ込んできたのかな」と思うほどお若く見えて(笑)。自分が通っていた御茶ノ水の専門学校の近くで初めてお会いしただけに。当初は全然しゃべらない方なのかなという印象でした。ただ、何度かお会いする内に敵意がないのが伝わったのか(笑)、だいぶ話してくれるようになって。原作もののアニメは、特にアフレコ現場でわからないことがあると原作者にすぐに聞きたくなるんですけど、逐一答えてくれて助かりました。だから最初の印象よりは“シャイ”な方ではなかったです。

実樹ぶきみ 私のほうはかなり親しみやすい監督だと思っていました。現場に足を運んだ際も、みんなを指導するというよりは肩を組んで全員で一緒に作業するような印象があって。

安藤 肩を組んでというか土下座してお願いして回ってるだけですよ。

実樹 いやいや、みんなの背中を後押しするリーダーみたいでした。

安藤 むしろ下からくぐって肩車して作業してもらっていた感じです。

実樹ぶきみと安藤正臣。

実樹ぶきみと安藤正臣。

──今ではすっかりいいコンビになったのが伝わりました(笑)。ちなみに初めて会われたのはいつ頃ですか?

実樹 2021年の9月あたりです。

安藤 まだシナリオに入る前で、先に先生にお話を聞こうという段階でした。原作ものは極力先に先生とコミュニケーションを取って、どういう作品なのか齟齬がないようにするのが基本かなと。

実樹 実際に監督をはじめスタッフの方々とお会いするまで、アニメ化の話はなくなるかもしれないと思っていました。最初に話を聞いたときから「よくあることで、ほかの作家にもこういう話が来ているんだろうな。知らない間に消える話なんだろうな」くらいに思っていて。

安藤 確かにそういうこともなくはないですけど(笑)。ちなみにアニメ化の話があったのってどれくらいのタイミングだったんですか?

実樹 連載が始まってから、数カ月でお話は出ていたと聞いています。単行本で言うと1巻が出る前後くらいです。

安藤 そんなに早かったんですね!

──安藤監督は原作をどう読まれましたか?

安藤 「なるほどな」と思いながら楽しく読ませていただきました。作品の内容で言えば海外だとマーベルやDC、日本でもいくつかの作品が思い浮かぶヒーローものですが、主人公を中学生の女の子にするというアプローチが非常に面白かった。自分が海外のヒーローものが好きなんですけど、最近はマーベルのシリーズが一段落して、先行するヒーローのフォロワーとして若い世代の「ミズ・マーベル」なんかが作られていますよね。「SHY」も、それらと同じように今の中高生の共感を得るような作品で面白かったです。

実樹 僕も海外のヒーローものは映画で観ていて好きなんです。そもそも「SHY」が、自分がそういう作品のヒーローの立場だったらどんな奴になるのか、という発想から始まった作品で。目立ちたくないけど目立っちゃうという矛盾を抱えたときに、その主人公がどうなるかをキャッチーに描いたら誰か共感してくれるんじゃないかなって。それを読み切りで描いて新人賞に応募し、それをもとに連載が始まりました。

シャイが成長するたびに自分から離れていく(実樹)

安藤 もう1つ、原作で一番クレバーだと思ったのは冒頭で「ヒーローの活躍で地球から戦争がなくなりました」と説明するところです。海外のヒーローものだとどうしても「ヒーローはなぜ現実世界にある戦争に関わらないのか」という厄介な話題が出てきて苦しくなるけど、「SHY」は最初から「この作品はそこにはいきません」と宣言しているという。

実樹 それは意図していました。ヒーローがなぜ戦争を解決しないかという厄介な問題に踏み込むと、「SHY」でやりたいことができなくなるという思いがあったので。

TVアニメ「SHY」場面カット。

TVアニメ「SHY」場面カット。

TVアニメ「SHY」場面カット。

TVアニメ「SHY」場面カット。

安藤 おかげで、この作品が何と戦うかというのを明確にしていると思うんです。等身大の主人公である中学生の女の子の心の葛藤みたいな、日常にある身近な感情のドラマを解決していく話なんだよって。非常にうまいですよ。

──その等身大の主人公であるシャイこと紅葉山テルですが、ヒーローだけど恥ずかしがり屋で人見知りという珍しいキャラクターです。彼女を描くにあたって難しいことなどはありますか?

実樹 シャイを描くときは恥ずかしがり屋な自分の本心をそのまま描けばいいんですけど、物語上シャイが成長するにつれて自分から離れていくんですよね。最近は彼女が私のわからないところにいってしまっているように感じて、どう描いたらいいのか考えてしまうこともあります。シャイは恥ずかしがり屋だし個人的にはその部分は残っていてほしいけど、いつまでも恥ずかしがってられないだろうし。そのあたりが難しいです。

安藤 アニメは大勢が分業して作業を進めるので、シャイのキャラクターがブレてしまうときがあるんですよね。コンテマンだったり原画マンだったりがシャイをヒーローらしく、能動的に描いちゃうことがあったり。あとシャイが女の子のヒーローというのも難しいところで、作業者が男性だと、ついつい男の子っぽく描いちゃうんですよ。例えば、知り合いの女の子が家に来てお風呂に入っているシーンを見て、テルがドギマギする。それは恥ずかしがり屋だからなのに、男性がコンテを描くとテルが違う感じで恥ずかしがっちゃう(笑)。自分はそういったところを注意しながらチェックしていて、逐一修正してもらっています。ただ逆に言うと、そういう作業者が手癖でやるとおかしくなるようなところが「SHY」の個性というか類似作品がない理由なんでしょうね。

──原作側とアニメ側で特に調整したことはありますか?

安藤 何かありましたっけ? 特になかったような……。

実樹 私もあまり細かく口出しするほうではないので、基本的にはお任せしていました。

安藤 あー、スピリッツをあまり酔っ払いとして見せないでくださいとは注意されましたよね。アニメで動かす際に、人によってはもつれ足で描いたりする可能性もあるので。

──スピリッツについて、気になっていたのが頬の描写です。原作のキャラクターはみんな頬の斜線が多くアニメもそれを踏襲していますが、それと酔っ払いの記号として頬を染めることのバランスはどう考えられましたか?

安藤 確かにシャイの照れに代表される、頬の斜線をどう処理するかは悩みどころでした。自分のなかではアニメ化にあたっての1つのテーマだったとも言えるかもしれません。結果的にはシャイは必須で、ほかのキャラクターにもできるだけ入れるようにし、酔っ払ったスピリッツはさらに赤みを差すという形に落ち着きました。

TVアニメ「SHY」より、スピリッツ(CV:能登麻美子)。

TVアニメ「SHY」より、スピリッツ(CV:能登麻美子)。

実樹 原作は好きで入れているだけですけど(笑)。斜線があったほうがかわいさが増す気がするんですよね。

安藤 アニメだとさらに色が付いてしまうので、頬の斜線が入ると意味を持ち過ぎちゃうんですよね。恥ずかしい、照れている、惚れている……そういったニュアンスが出てしまう。そういう感情表現をするときにできる手数が減ってしまうから、本当はデフォルト時は斜線がないほうが都合がいいんですけど。でも原作で斜線が入っている場面はできるだけ入れるようお願いしながら作業しています。

2023年9月27日更新