「わかってなくても、納得してなくても、やる」
──アニメでは、解散した初代少年ハリウッドのメンバーの現在も描かれていて。ときどき新生少年ハリウッドのメンバーの前に現れて、彼らを導くような言葉をくれますね。
鈴木 そもそも“少年ハリウッド”って名前を若い子たちが引き継ぐっていうのが尊いんですが、最初は名前を使うことに対して初代のファンから批判されたり、つらいシーンもあって。でも初代のメンバーが大事なところで出てきて、経験があるからこそ言えることを、自分たちが負ってきた傷はうまいこと見せないように、新生少年ハリウッドに伝えてくれる。そういうやり取りが本当に、尊いという言葉でも語り尽くせないくらいですね。
──先ほど須貝さんが「第9話の香さんが最高」とおっしゃっていたのは、どういうところなんでしょうか。
須貝 香さんはほかの初代メンバーと違って、芸能人として出てくるじゃないですか。第9話では、やる気をなくしていたシュンに対し、香さんが「でも君歌ってないよね」って言うんです。「だって本当に歌いたかったら歌うでしょ」って。それもやっぱり強い男、成功している男の論理なんですよ。僕も、「勉強とか、本気でやればできるじゃん」……って言うと嫌な奴みたいですけど、でもちょっとそういう気持ちがあるんです。だから香さんがそう言ってくれることに、気持ちよさがあって。そう言って彼を諭して、恥ずかしいアイドル時代の自己紹介を本気でやってくれる香さんには、何回観ても鳥肌が立ちます。
鈴木 うれしいなあ……。
- 第9話「みっともない輝き」
-
テレビ出演の仕事が少しずつ増えてきた新生少年ハリウッドだったが、バラエティ番組で巨大貝塚を作ったり、体を張ったクイズに挑戦したり、中には顔すら出ないものも。「歌いたい」という自分の夢からほど遠い現状にうんざりし始めていたシュンは、テレビ局で初代少年ハリウッドのコウこと、大咲香と出会う。
須貝 僕、鈴木さんに1つ聞いてみたかったことがあって。第9話の放送当時にスタッフロールで「大咲香:鈴木裕斗」って名前を見たときに、正直「誰?」って思ったんです。ほかの初代少年ハリウッドのメンバーはみんな有名な声優さんで、その中で鈴木さんはすごく若かったじゃないですか。だから「どういう気持ちで演じているんだろう?」と思っていて。
鈴木 先輩方に囲まれて演じさせていただいたのは、すごくありがたかったんですが、香さんのセリフはいろいろ経験を重ねたうえでのものなので、実はそこまで実感が持てないまま発していた部分もあるんです。「少ハリ」はいろんなことを試行錯誤しながら作っていく現場だったので、新生のキャスト5人の空気感がすごくできあがっていて。それに対して彼らと同年代の自分が、先輩として導く役を演じるというのは、やっぱり難しかったですね。まだ自分も新生のほうが共感できる部分がありましたし。
須貝 そういう中で、第9話の香さんの迫力ってどうやって出されていたんですか?
鈴木 当時受けたディレクションで、「シュンのためだと考えなくていいです。自分が気持ちいい、自分がこういうふうに言いたい、後輩にこういうこと言ってる自分もカッコいいんじゃないか、って思いながらやってほしい」とおっしゃっていただいて。そこで一歩、香に近付けたというか。シュンに対してキャッチフレーズを披露しますけど、あれも香は“やりたい”んですよ。
須貝 うんうん。「ちょっと見せてやるか!」くらいの気持ちですよね。
鈴木 自分から言いましたからね、「観る?」って(笑)。そういうディレクションを受けて、香のカッコいいところを見せながら大切にしていることを言葉に乗せていこうとしていました。やっぱり、香は遊び心のある人だと思うので。今は30代になって香の年齢に近付いてきたことで、当時は実感が持てなかった部分も、理解できる部分が増えてきたなと思います。
須貝 これがまた「少ハリ」のよさなんですけど、彼らはシャチョウや初代メンバーのような大人たちの言うことを、理解できなくても1回聞くんですよ。
鈴木 わかるなあ。
須貝 「わかってなくても、納得してなくても、やる」っていうのが、僕は一番偉いと思っていて。それができてる子たちだから、すごく気持ちがいいんですよね。
「雨音の拍手」という表現に感動
──ここからはおふたりの特に好きなエピソードについて伺いたいんですが、須貝さんはさっきも挙げていただいた第16話ということで。
須貝 僕、現場でアイドル好きの友達にも「少ハリ」を薦めたりするんですけど、第16話だけでいいから観たほうがいいって言ってるんですよ。
鈴木 広瀬さんも同じこと言ってた(笑)。
須貝 オススメしたオタクは全員観てくれました。ファン目線ですごくいい話なのはもちろんですけど、カケルくんがマジの本物になる話なんですよね。僕は「本物」とか「天才」って言葉が好きで、それは生まれ持ったものという意味ではなく、才能って磨くものだと思ってて。磨かれ続けてきたカケルくんが、シャチョウが思っていた以上の高みに到達した瞬間に震えたんです。ここが「少年ハリウッド」のなかで一番のテーマだと思っていて、僕はカケルくん推しなんですが、それは彼からそういう部分が自発的に出てくるんじゃないかということが、1話から感じられたからかもしれません。
──カケルって、ものすごく“いそう”なんですよね。
鈴木・須貝 いそう!
鈴木 お父さん、お母さん、妹もいそうなんですよ。
須貝 いそう。「本物のお母さん!」と思った(笑)。
鈴木 お父さんも超リアルで、「カケルくんはこういうふうに育ったんだな」って思うんですよね。
──では鈴木さんの好きなエピソードを伺いたいのですが、鈴木さんはこれまでもイベントなどでベストエピソードを挙げていらっしゃるので、今日はまた違った観点で選んできてくださいました。
鈴木 初代を演じさせていただいた身としては、リュウが出てくる第24話ですね。クライマックス間際の24話でようやく登場したと思ったら、「俺は肉まんの妖精だ!」とかって言いながら、ただただ毒づいていくという。
- 第24話「まわりっぱなしの、この世界で」
-
シャチョウが姿を消し、初代少年ハリウッドのメンバー・シーマを新たな社長に迎えて活動することになった少年ハリウッド。誰一人として納得できない不穏な空気の中、遊園地での撮影を行うことになった。そんな中、遊園地のイメージキャラクター・シロートくんとティーカップに乗ったマッキーは、シロートくんから急に「くされアイドル!」と罵倒され……。
須貝 初代のメンバーはみんな、少年ハリウッドに対して何か諭したりアドバイスしたりしますけど、リュウからは直接的に学ぶことがないんですよね。
鈴木 そうそう。リュウの解散後のいきさつも気持ちも明かされないんですけど、最後に人のいないベンチで着ぐるみを脱いで、空を見上げて、にこっとする。そのワンシーンだけで泣けてくるんです。リュウなりに伝えられることがあると思ったんだろうなとか、その気持ちをいろいろ勝手に考えるんですよね。なんというか、最終回間近の第24話でやっと登場して、ほぼ笑ってるだけだったけど、このリュウの登場ってすごく大きな意味があるよな……って。
須貝 第24話のカケルのモノローグの中にある、「雨音の拍手」って言葉もすごいんですよ。雨音って確かに“バラバラバラ”って、拍手に聞こえなくはないですよね。でも雨って一般的には“悲しみ”の感情を表す描写なんです。このシーンではメンバーみんなの「少ハリがなくなっちゃうんじゃないか」という物悲しさが、雨で表現されている。一方で彼らは「ここにいれてよかった」とも思っているんです。普通ちょっとした幸せを描写するには、“雨が上がる”ことでそれを表現するんですよ。例えばセンター試験の現代文で、文章中に“雨が上がる”描写があったら、「気分が晴れたことを表現しているんだな、うれしくなってるんだな」と解釈して問題を解く。でもここでは、“雨が降ったままうれしい気持ちになってる”んですよ。「この表現はここでしか見たことがない!」と思って、すごく感動したんです。
──観客のいないハリウッド東京で、5人だけでライブをやった後の「もしも世界がまわらなくなったとしても、あの日、ハリウッド東京がくれた雨音の拍手を、僕は永遠に忘れない」というモノローグですね。
須貝 ハリウッド東京がなくなっちゃう、なんなら、もうステージに上がるのは最後かもしれないという状態にいる。ずっと悲しくて、気持ちは全然晴れてないのに、みんなと一緒にいれてうれしい気持ちが確かにある。その“うれしくて悲しい気持ち”、“最後の夏の大会で負けたときのような気持ち”が、「雨音の拍手」という一言で表されているのが、本当にすごい。「少ハリ」のセリフやモノローグのすごさ、作品の丁寧な作りが表れている部分だと思います。
「少ハリ」に教わったすべてが生きている
──ここまでおふたりにも熱量たっぷりに語っていただきましたが、「少年ハリウッド」は放送終了から5年近く経っても、いまだにファンの皆さんからすごく愛されていますよね。
鈴木 僕はアニメ放送時から特番やイベントに出させていただいているんですが、ファンの皆さんが尋常じゃないくらい熱くて。リアルなアイドルを追っかけるのと同じように、「カケルに幸せになってほしい」「マッキーに幸せになってほしい」とかって気持ちがすごく感じられるんです。スタッフさんも「少ハリ」愛に溢れていている方がすごく多くて、そのやり取りが成り立っているから、こうやって時間が経っても作品や人物が色褪せないんだと思います。
須貝 僕は去年池袋での「少年ハリウッド-HOLLY STAGE FOR YOU-完全版」も観に行ったんですが、ペンライトを忘れちゃって。そしたら隣の女性が貸してくださったんです。
鈴木 あったかい!
須貝 本当に初めましてだったんですよ。そのときに、「ハリウッド東京に初めて1人で行ったら、こんな感じなんだろうな」って思ったんです。おまいつ(※)がいて、ペンライトを貸してくれる現場なんだろうなって。みんながそういう気持ちになるアニメなんですよね。そういう雰囲気を作るアイドルだし、そういう現場なんだと思います。
※「お前いつもいるな」の略で、アイドルのライブ会場に通う常連ファンのこと。
鈴木 そういう1人ひとりの持つ声の力を「少ハリ」からはすごく感じていますね。僕自身、今でも観返したときに、全部が全部自分の感情に重ねられるわけではないのに、この世界観に、なんでここまで共感できるんだろうって。それは「少年ハリウッド」が持つ言葉の力の強さであったり、セリフの間尺であったり、細部まで丁寧に作られているからこそなんだと思います。何年経っても楽しめるし、楽しいだけじゃなくて、例えば「マッキーのこのつらさ、自分も今つらい気持ちでいるからめっちゃわかるなあ」とか、でもみんなとの気合い入れとかでカッコよくしているマッキーを見てると、それだけで泣けてきたり……。そういう姿を自分と照らし合わせながら、自分も小さな成長を積み重ねていったり、今は表ではこういう顔を見せようとか、自分を鼓舞しなくちゃって思ったり、取り入れられるところがいっぱいあるんです。「少年ハリウッド」という作品の輝きや、与えてくれるものの重要さ、尊さって、永遠なんですよね。
須貝 僕は今は自分が握手会を開く側でもあるので、ちゃんと「少ハリ」で学んだことを吸収してやっていますよ。“知識集団”だからアイドルではないけど、握手会のときはアイドルくらいの気持ちで、ちゃんと握手で喜んでもらいたい、ちゃんと楽しい気持ちで帰ってもらいたいって。シャチョウの考え方は、僕は本当に全部正しいと思ってて。第12話で「どんなに辛いことがあっても、悲しいことがあっても、アイドルになった人間しか知ることのできない幸せがあります」ってシャチョウのセリフがあるんですが、アイドルの部分をそのままYouTuberに変えて通ずる言葉だと思います。
──「ナイスガイの須貝」も、ちょっと少ハリっぽいフレーズですよね。
須貝 そうですね(笑)。これは「少ハリ」に出会う前から使ってるフレーズなんですが、それこそカケルの「僕は君に夢中」がファンにとっては絶対うれしいのと同じように、最近は僕が「ナイスガイの須貝です」って言うとみんな喜んでくれるし、僕もやるのがうれしい。だから僕は「ナイスガイの須貝」を毎回絶対やろうと思っています。
──本当に、「少ハリ」イズムは今もおふたりの中に生きているんですね。では最後に、まだ「少年ハリウッド」に出会ってないという人に、おすすめする一言をお願いします。
須貝 まずアニメファンは、アニメなので観てください。アニメ観たことないアイドルファンは、これなら絶対観れます。間違いない。
鈴木 逆にアイドルアニメを普段観ないという人にも、「少ハリ」は人間ドラマだし、ドキュメンタリーなので、「アイドルってよく知らないけどこういう感じでしょ?」って思ってる人ほど観てほしいです。アイドルである以前に人間としての描写が丁寧に描かれているから、そこに共感してもらえたら、「アイドルも人間なんだな」ってことに絶対気付くと思うので。本当に、押し付けてその場で再生して見せたいくらい(笑)。そのくらいの作品です。
──今年も12月24日にクリスマスライブ上映が決まったので、そこから入ってもらってもいいですしね。
鈴木 スタッフの方も恒例にしたいと思ってくださってるようで。また少年ハリウッドに会いに行ける喜びを、僕自身も感じながら大人になっていきたいと思います。