アニメ「少年ハリウッド」特集 鈴木裕斗(大咲香役)×須貝駿貴(QuizKnock)対談|「少ハリ」はなぜ僕たちの心を掴んで離さないのか

2014年7月より第1期、2015年1月より第2期が放送され、全26話にて展開されたアニメ「少年ハリウッド」。放送終了から約5年が経つ今も多くのファンに支えられ、過去5回にわたって行われたクラウドファンディングプロジェクトには毎回500万円以上の資金が集まり、現在は12月24日に東京・池袋HUMAXシネマズで開催が決定した「少年ハリウッド-HOLLY STAGE FOR YOU-完全版」劇場ライブ上映に向け、新たなプロジェクト「目指せ!クリスマスライブ上映!2019年のイブも少年ハリウッドと過ごしたい!」を展開中だ。

コミックナタリーでは昨年公開した広瀬ゆうき(A応P)のインタビューに続いて、「少年ハリウッド」を愛する人物にインタビューを実施。アニメに初代少年ハリウッドのメンバー・大咲香役として出演し、また「少年ハリウッド」解説員としてファンからも親しまれる鈴木裕斗と、「少ハリ」のファンを公言する東京大学発の知識集団“QuizKnock”のメンバー・須貝駿貴という、異色の組み合わせが実現した。「少年ハリウッド」はなぜファンの心をつかんで離さないのか? その魅力を男性ファンの目線から語ってもらった。

取材・文 / 柳川春香 撮影 / 入江達也

「少年ハリウッド」の神髄は第1話にある

──今日は「少年ハリウッド」で大咲香役を務めた鈴木さんと、東大生であり人気YouTuberでもある須貝さんの異色の対談となりました。須貝さんはそもそも「少年ハリウッド」(以下、「少ハリ」)とはいつ頃出会ったんでしょうか?

須貝駿貴 僕はだいたい2007年頃からアニメを観るようになって、「少ハリ」が放送されていた2014年当時は今よりもう少し暇だったので(笑)、毎クールの深夜アニメを片っ端から観ていたんです。「少ハリ」もその中の1つとして出会って、リアルタイムで毎週楽しみに観ていました。

須貝は2018年4月27日に公開した動画「【事件】財布を盗まれたら、ありえないことが連続で起きた。」内で、「『少年ハリウッド』の上映会帰りに財布を盗まれた」というエピソードを披露している。

──当時も第1話からすぐにハマったんでしょうか?

須貝 いや、第1話のときはちょっと……「何者?」という感じでした(笑)。

鈴木裕斗 やっぱりそうなんだ! 広瀬(ゆうき)さんも前回のインタビューで同じことを言ってましたよね。

須貝 もちろんそこで視聴を切ったわけではないので、面白かったんですけど……その、当時の自分は大学の同級生たちと、「今期はこのアニメの作画がヤバいから、観るわ」みたいな、変なアニメの楽しみ方をしてたんですよ。

──はい(笑)。

須貝駿貴

須貝 だから「少ハリ」に対しても「お、問題作来たぞ」って。男性アイドルアニメだから女性向け、とかそういう意識はまったくなくて、むしろ「俺たちが観なかったら誰が観るんだ」くらいの気持ちでした(笑)。

鈴木 絵のタッチとかも独特ですしね。

須貝 でも第2話を観て「これは本物だ」と、「今期の覇権アニメだ」とすら思ったんです。

──そこまで印象が変わったのはなぜだったんでしょうか?(※ここからは作中のネタバレが含まれるため、新鮮な気持ちで「少年ハリウッド」を楽しみたい人は、全26話を観てから読むことをオススメする。)

須貝 第2話は、カケルくんがアイドルをやるかやらないかで迷っている様子を描いたエピソードなんですが、シャチョウのカケルくんへの語りがちょっと常軌を逸しているというか、いわゆるアイドルアニメっぽくなかったんですよね。

第2話「嘘が輝く時」

シャチョウにスカウトされ、流されるように新生少年ハリウッドのメンバーとなったカケルこと風見颯。ある日の放課後、高校の友達と限定品のスニーカーを見に行こうとした颯は、その様子を偶然見ていたシャチョウから「さっきの、あの冴えない、どこにでもいる高校生はお友達?」と言われる。その言い方を咎める颯だが、シャチョウは「どちらにせよ、あなたの方から彼らに別れを告げる瞬間は、どうしたって来るでしょう」と続け……。

──「間違っていたとしても、その間違った道しか歩まなければいいだけですよ。君の前には、間違った道しか存在しないのだと思えばいいんです」など、シャチョウのセリフは序盤からドキっとさせられるものが多いですね。

須貝 シャチョウは割と強い男の理論、勝っている人の理論でしゃべってるんです。つまり「弱くてもがんばろうね」とか「笑顔だけでも大丈夫だよ」とかじゃなくて、「君はアイドルなんだから、もっと本物にならなきゃ」という。それが僕にはマッチして。「これは本物のアイドルアニメが来た」と、ぐっと引き込まれたんですよね。

──部活ものっぽいアイドルアニメじゃなく、ってことですよね。

須貝 そうそう。目的のために本気になれるかどうかを、シャチョウはすごく問うてくるんです。だからジャンプ系のスポーツマンガのようなところもあって、どこか普通じゃない強さが端々から感じられるので、そういう意味では男の人のほうが楽しめるんじゃないかとさえ思いますね。強さを受けて感動したいという人、例えば「ハイキュー!!」とか「魔法科高校の劣等生」とか、ぶっ飛んで強いキャラクターが出てくる作品が好きな人にもおすすめだと思います。

鈴木 僕もオーディションを受けるときは「キラキラしたアイドルものなのかな」って思っていたんですが、その後原作を読ませていただいて、収録をする段階では「ただのアイドルものではないな」って感じていました。僕は「少年ハリウッド」の神髄は第1話にあると思っていて、シャチョウが新生少年ハリウッドの5人、1人ひとりに「こうなってください」って言うシーンがあるんですが、そのセリフがすごく胸に響くんですよ。

第1話「僕たちの自意識」より

「カケルくん。空っぽになり続けてください。君の中に湧き上がる感情をどんどん手放せば、空っぽになったその中に、未来が宿ります。君を見るたくさんのお客さんの想いが宿ります。少年ハリウッドの未来になってください。」(シャチョウ)

──このセリフは第1話の、まだキャラクターのこともよくわからない段階で出てくるので、最初はちょっと「?」ってなるんですが、話数が進むにつれてどんどん胸に響くセリフになっていって。最終話まで観たときに、この言葉にすべてが詰まっていたんだなってわかりますよね。

鈴木裕斗

鈴木 そうなんです。シャチョウが言うことって、自分の中で紐解いていかないと理解できない部分があったり、一見すると矛盾しているように思えたりすることがあるんですが、僕自身、声優という仕事はアイドル性が求められる部分もあるので、シャチョウの言葉にはすごく心打たれるものがあります。

──アイドルといえば、鈴木さんはハロー!プロジェクトがお好きでいらっしゃるんですよね。いちアイドル好きとしては、「少ハリ」をどう思いますか?

鈴木 ハロプロって特に、アイドルたちの裏側を映さないんですよ。ステージの上ではプロフェッショナルで、後になって「あのときそんな葛藤があったんだ」って知ったりする。そういった意味では、少年ハリウッドのみんなが感じているもどかしさをハロプロのアイドルも感じているのかな、という想像はします。そう思ってしまうくらい、「少ハリ」がリアルなんですよ。

──どんなところにリアルさを感じますか?

鈴木 不安を一旦は飲み込んでも、3日後にはまた別の不安が出てきたり、ちょっとしたきっかけで「やっぱり」ってその不安がまた顔を出したり。そういう行っては戻って、掴んではまた手放して、みたいな危うさが描かれている。特にカケルくんにそれを感じます。「少ハリ」はアニメという一言ではとても語り切れなくて、一歩進んで二歩下がるというような、人のもがく姿をリアルに映したドキュメンタリーだと思うんです。

広瀬ゆうきとの握手会で実感した「本物の握手」

──ちなみに須貝さんは、3次元のアイドルに興味はありますか?

須貝 めっちゃ好きですよ! 最近アイドルの現場にしか行ってないです。最近行っているのは、声優アイドルユニットのピュアリーモンスターっていう……。

鈴木 えっ、うちの会社(アミュレート)だ!

須貝駿貴

須貝 そうなんです(笑)。鈴木さんと対談するにあたって所属事務所を調べたらアミュレートだったので、「ピュアモンのところじゃん!」って(笑)。ほかにはi☆Risさんも好きですし、それこそA応Pの現場にも行っていた時期があって、広瀬さんとは握手会で「少ハリ」の話ばかりしてました。

──意外なところでつながりがあったんですね。

須貝 僕、初めて広瀬さんの握手会に行くときに、前もって「今日初めて行くんですけど、『少ハリ』の話をしましょう」ってTwitterでリプライしたんです。それで当日「『少ハリ』の話をしに来たよ」って言ったら、「あー!」って反応してくれたあとに、広瀬さんが「私、武道館とかドームとか大きいところに行っても、今日の握手のこと絶対忘れないから。このキラキラ、本物にしていこうね」って言ってくれたんですよ。

鈴木 うわー!! めっちゃ「少ハリ」イズム……!

須貝 「もーーーー!!!! 広瀬ーーーー!!!!」ってなって。そこで第16話「本物の握手」に登場するファンの気持ちを、すごく実感できたんです。

第16話「本物の握手」より

「俺たちは、今日した握手を宝物にしてもらうために……本物にするために、1回の握手をずっとずっと大切にしてもらうために、本物にならなきゃいけない……のかもしれない」(カケル)

──いい話すぎますね……。広瀬さんも前回「本物の握手」については熱く語ってくださいましたが、実際に現場でそんなことが起きてたとは。

須貝 だから、僕はまさに少年ハリウッドのような、劇場に行って、終わったら握手して写真撮ってっていうアイドルのファンなんですよね。その立場で観ると、少年ハリウッドのメンバーはプロ意識があって本当にすごく偉いなって思います。もちろん僕が行ってるアイドルさんたちもみんな偉いんですが。逆にシュンが調子に乗ったりすると、「ちゃんとやれ!」って思ったり(笑)。

鈴木 ガチなアイドルファンからするとね(笑)。

須貝 あとはシャチョウとマネージャーのテッシーがいるから、彼らはステージの上で本物でいられるんだろうなっていうのはすごく感じます。「やっぱり運営大事だな」って。

左から須貝駿貴、鈴木裕斗。

鈴木 わかる! 運営、大事! テッシーのケアは、なければならないものですね。

須貝 僕なんかはだいぶ大人になってからYouTuberになって人前に出るようになっているので、自分でコントロールできるんですが、アイドルって子供たちだから、大人がどう支えるかは大事だと思うんです。「少ハリ」では子供たちを導く大人の偉さというのもすごく描かれていて、そういう意味では、第9話で登場した香さんが最高なんです。