ルイボスティーで着色? 常に新しい挑戦を

──毎回、カラーもモノクロもすごく美しいですが、こだわっている点はありますか?

“重さ”を出すことですね。人物が本当にそこにいるかのように、陰影をしっかりつけて、説得力を出すというか。やっぱり、リアリティが出ないとハマれないと思うので。どこから本を開いても、パッと見入ってしまうような没入感を出せるように工夫しています。

担当編集 それと、くまがい先生がすごいのは、カラー原稿も本当にたくさん描かれているのにいつも新しい手法を試そうとされているところです。例えばこの絵は、シーツの部分を紅茶で着色しようとされたんです。

ルイボスティーで色付けされたという「チョコレート・ヴァンパイア」のカラーカット。

──これ、紅茶で色を着けているんですか!?

ルイボスティーを煮出してインクとして使う、という手法を何かで知り、やってみたんですけど……めっちゃ臭くて、描いていて頭が痛くなりました(笑)。結局、あまりうまくできなくて、上から色鉛筆でちょっと塗り足したのですが。

担当編集 くまがい先生は、カラーの仕事がいわゆる“作業”じゃないんですよね。10年以上描いていて、まだ何か新しいことをしようとするのは、難しいことですし、すごいところだと思います。

新しいことを試していて「あれ? なんでこんなことやってるんだろう……」とか「やってしまったー!」と後悔することもありますけどね(笑)。少しでも新しいものを取り入れて、自分も飽きないようにしようと思っています。それに、自分の中で、絵をあんまり華やかにできないというコンプレックスがあるんです。

くまがい杏子による原画。

──私たちは完成したものを見ているので、「華やかではない」とは程遠い印象ですが、そんな努力や工夫が秘められていたのですね。

作業にしてしまうと、キャラにも読者にもなんだか申し訳なくなるんですよね。それと、カラーは苦手なのですごく時間がかかるんですよ。ネームが一番早いんですが、苦手なものはやっぱり遅いですね。常に、ちょっとでもいいので前よりうまくなりたいです。

固定観念をぶち壊したい

──くまがい先生の単行本では、どれを読んでも「ファンレターを返せてなくてすみません」というお詫びの一言が書かれていて、「絶対に返事を出す!」という信念を強く感じます。なぜでしょうか。

子供の頃、マンガ家さんにファンレターを送っても「どうせ返事なんか来ないだろう」「読んでくれているかどうかもわからない」とずっと思っていて、送ったことがなかったんです(笑)。でも、実際自分がマンガ家になってファンレターをもらってみると、全部読んでるんですよ。だから、「ちゃんと届いているし、読んでるよ」と証明するためのメッセージとしてお返事する、という感じですね。

──過去のご自身に対するメッセージでもあるんですね。ちなみに、くまがい先生が「マンガ家でよかった」と思う瞬間は、どんなときでしょうか。

くまがい杏子

私、自分の好きなことについて語るのが苦手なんです。例えば、自分が萌えるキャラについて「こういうところがいいよね」って友達とうまく語れなくて。言葉が足りないんですよね。でも、マンガだと自分が好きなことを描けば読者が反応してくれるので、語り合えているような感じがするのが、すごく楽しいですね。今までできていなかったことができている感覚になります。ファンレターやTwitterで感想を読むのも楽しいですし。みなさん、イラストもたくさん描いてくれるんですよね。

──それでは改めて、くまがい先生が感じるSho-Comiのよさはどういうところだと思いますか?

この連載のインタビューでほかの先生方も語っていますが、やっぱり、どの作品もクオリティがものすごく高くて、安心して読めるところですね。誰が読んでも楽しい雑誌ですし。あと、隔週発売の雑誌で忙しいはずなのに、作家さんがみんながんばり屋で向上心があって、カラーもたくさん描いてるのに、こんなに画面がキラキラしてるって、すごいことだと思います。私は気を抜くと、すぐにダークな画面になっちゃうので(笑)、少しでもキラキラさせようと、がんばってキラキラトーンをたくさん使っています。

2014年から2016年にかけて連載された「片翼のラビリンス」は、恋も勉強もうまくいかない女子高生・都がある日タイムリープするところから始まるラブストーリー。

──大人になった今でも心が躍る、年齢に関係ない面白さがある雑誌だと思います。それでは、ご自身のマンガを通してSho-Comi読者にどんなものを届けたいですか?

読者の“萌えの幅”を広げたいですね(笑)。キャラクターをいっぱい描いて、どのキャラも魅力を最大限に引き出そうとしています。だから、読者には「今までは○○なキャラが好きだったけど、作品を読んで、全然違うタイプのキャラも好きになりました」と言われるとうれしいですね。あと、「作品を読んで一緒に面白がれる友達が増えました」というのもうれしいです。作品をきっかけに、友達と語り合える機会を増やしてもらえるといいなと思っています。それと、悪役であっても、悪い面だけではなく、いろんな顔があるという描き方をしているので、「敵だけど憎めない……!」と思わせることができると、よし!と思います(笑)。固定観念をぶち壊したいという思いで描いていますね。

──確かに、「あやかし」でヒロインのライバルであった祇夕(ぎゆう)や、「片翼」で利害上敵対することになる大翔(ひろと)など、悪役であってもそれぞれ人間臭い事情があって、輝いていますね。

だから読者には、作品を通じて、何かそれまでの自分になかったものを得てもらえるといいなと思います。

──これからのSho-Comiに望むものや、理想像があれば教えてください。

私がデビューして「あやかし」を始めるくらいまでのSho-Comiは、“ファンタジーは人気が出にくいから歓迎されない”というムードが編集部にあったんです。でも、実際には「あやかし」でチャレンジしてうまくいったことで、ファンタジーもOKという流れができたので、ダメ元で描いてよかったと思っています。だからこそ今もいろんな挑戦ができる土壌ができていると思うので、これからもさまざまなジャンルの作品を受け入れるような、幅広くて面白い雑誌であってほしいなと思います。それに、最近はSho-Comiでデビューした作家さんはもちろん、他誌でデビューした作家さんもいたりと新しい風が吹き始めているので、どんどん進化していってほしいですね。

千代と雪のラブラブがさらに期待できる、「チョコヴァン」の今後

──では最後に、「チョコヴァン」の今後の展開を教えてください。

次に出る8巻で「白銀編」は決着します。そして新章が始まりますが、今描いているネームでは、ようやく千代と雪に日常が戻ってきます。2人のわだかまりがとけた状態になるので、今までなかったようなラブラブなシーンも期待してほしいです(笑)。

──大きい困難を乗り越えた2人が、どんな関係性を築いていくか楽しみです。

読者さんからはよく「両思いになったら連載は終わるんですか?」って聞かれますし(笑)、確かにこれまでの連載では、“両思いでハッピーエンド”というものが多かったのですが、「チョコヴァン」は終わりません。新キャラも登場して、新しい展開も始まります。私自身も千代と雪が「これからどういう2人になっていくんだろう?」と考えながら描くのが楽しみですし、読者さんも楽しみにしていてほしいです。

くまがい杏子

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くまがい杏子(クマガイキョウコ)
くまがい杏子
2月14日、山口県生まれ。O型。2006年に少女コミック(小学館)に掲載された「キミの手で、あたしを」でデビュー。2011年から2013年までSho-Comi(小学館)で連載した「あやかし緋扇」がシリーズ累計190万部を超えるヒットを飛ばし、同誌のファンタジー作品を牽引する存在に。2014年から2016年まではタイムリープものの「片翼のラビリンス」を発表し、現在は年下ヴァンパイアとの恋を描く「チョコレート・ヴァンパイア」を連載中。