今年で創刊50周年を迎える小学館の少女マンガ誌・Sho-Comiの連載企画も、いよいよクライマックス。最終回となる第10回には「あやかし緋扇」「チョコレート・ヴァンパイア」のくまがい杏子が登場した。女子の“萌えのツボ”を心得たような、かわいさとカッコよさを兼ね備えた男子キャラと怒涛のストーリー展開で常に読者の心を捉えて離さないくまがいは、長らくSho-Comiのファンタジー路線も牽引している。そんなくまがいが、デビューから初期作品、そして連載中の人気作「チョコヴァン」の秘話まで、縦横無尽に語り尽くす。

取材・文 / 的場容子 撮影 / 入江達也

マンガへの入り口は、ホラー好きの母と読んだ「陵子の心霊事件簿」

──くまがい先生の思い出のSho-Comi作品を教えてください。

思い出に残っているのは、篠原千絵先生の「闇のパープル・アイ」ですね。小さい頃から読んでいたのもあって、当時の少コミ(現:Sho-Comi)作家さんでは篠原先生が一番好きです。基本的に心霊ものとかホラーが好きで、たぶん初めて買った篠原先生の作品は、小学生のときに読んだ「陵子の心霊事件簿」のノベライズ版でした。

──マンガではなくノベライズなんですね。書店でたまたま手に取ったのでしょうか?

母と一緒に書店に行ったときに、「これ面白そう」って買ってみたんです。その頃、母と一緒にマンガを読んでいたんですが、母もホラーが大好きなんですよね。そこからマンガのほうも読むようになって、篠原先生以外の作品も読んでいくようになりました。とはいえ、私はあまり少女マンガを読んでこなくて、どちらかというと少年誌系が多かったんです。姉と弟がいるんですが、全員で分担していろんなマンガを買い、みんなで回し読みしていました。少年ジャンプ(集英社)、少年サンデー(小学館)、少年マガジン(講談社)や、青年コミックもたくさん読んでいました。

──少年・青年マンガでハマった作品はありますか?

いっぱいありますが、特に「寄生獣」(岩明均)と「名探偵コナン」青山剛昌)ですね。今でも大好きです。それから高校生くらいになると、萩尾望都先生や竹宮惠子先生の作品を友達と貸し借りしながら読み始めて、夢中になりました。

──萩尾先生や竹宮先生の作品は、多感な時期に読むと、人生観が変わりませんでしたか?

はい。いろんな作品を読みましたが、男女間の恋愛じゃないものもたくさんあったりと、すごく刺激が強くて。「こんなマンガ初めて読んだ……!」と衝撃を受けていました。特に印象に残っているのは萩尾先生の、「残酷な神が支配する」。まさにカルチャーショックを受けてハマりました。竹宮先生はやはり「風と木の詩」ですね。

新條まゆ先生のプッシュでマンガ家デビューするまで

──そんなマンガ好きな子供時代と、マンガ家としてのデビューは直結しているのでしょうか。

いろんな作品に影響される中で、自分も人の心を動かしてみたいと思うようになり、小学4年のときくらいには「マンガ家になる!」と思っていました。その頃には、イラストというか、マンガ風の絵は描き始めていて。あまり勉強も運動もできない子だったので、絵が唯一褒められる長所だったんですよね(笑)。だから「これで生きていくんだ」と子供ながらに思っていました。

──決意するのが早いです。その後、マンガの専門学校でも勉強されたということですが。

実は、専門学校に入るまでマンガを描いたことがなかったんです。マンガを読むことに関しては寛容な家だったんですけど、描くことについてはそうでもないムードだったので、描く度胸がありませんでした(笑)。

──現在はお母様もお仕事のサポートに協力的であることがおまけページなどで明かされていますが、デビューしてから状況がガラッと変わったのでしょうか。

そうなんです。デビュー前は「絵で食っていくなんて無理」という雰囲気だったのですが、実際にデビューしてプロでやっていく、となって初めて認めてもらいました。

──専門学校時代から、デビューまでの経緯を教えてください。

くまがい杏子

最初は、ぼんやりと少年誌にいこうとしていたんです。でも、絵柄なども含めて、当時の専門の先生にも「(少年誌は)ちょっとどうかな?」と言われたので方向転換し、とある少女マンガ誌に投稿し始めました。家族を説得するためにも、卒業するまでにデビューしたいと思っていたのですが、その雑誌だとちょっと難しそうだったので、もう一度先生に相談したら、Sho-Comiを勧められて。そこで絵柄もストーリーもSho-Comi向けにガラッと変えて描いてみたら、準入選をもらえたんです。そのまま次の作品を描いて、大阪の移動スクールに持ち込んだのがデビュー作「キミの手で、あたしを」(「お嬢様のごほうび」に収録)です。

──当時、東京以外の各都市でも、直接編集部に投稿作を見てもらえる機会があったのですね。

しかもちょうどそのとき、新條まゆ先生が講師でいらしていたんです。それで、新條先生が私の作品を推してくださって、準入選からだいたい半年くらいでデビューとなりました。

学園ものから一転、ファンタジーの名手へ

──「放課後オレンジ」「空色アゲハ」「Stand UP!!!!」などでは主にスポーツをテーマにした作品や学園ものを描かれていましたが、「あやかし緋扇」以降はファンタジー路線を貫いています。何かきっかけがあったのでしょうか?

きっかけというより、いろいろ試してうまくいかなかったから、というのが大きいです(笑)。中学の陸上部を舞台にした「放課後オレンジ」のあと、学園ものの「苺時間」を描いたときに、「自分には正統派の少女マンガは描けないんじゃないか」と感じました。それでも、スポーツものに再チャレンジしてテニスがテーマの「空色アゲハ」を描いたり、「Stand UP!!!!」で学園コメディを描いたりして、とりあえずいろいろ挑戦してみていたんです。……私、もともと描きたいキャラクターはあるんですが、描きたい世界観やテーマが明確にあるわけではないんですね。だから、いろいろ試していく中で、今度はファンタジーをやってみようと思ったときに、ちょうど新しく担当になった方からOKが出たので、「あやかし緋扇」に挑戦できたんです。

2011年から2013年まで連載された「あやかし緋扇」。突如霊感に目覚めた勝ち気なヒロイン・唐沢未来と、除霊ができる神社の跡取りの息子・神山陵を中心に描かれていく。

──学園ものとファンタジーでは、作り方が全然違いませんでしたか?

私としては、ファンタジーはスポーツものより全然描きやすいんです。ホントに運動音痴で、スポーツを全然やってこなかったので、ルールがさっぱりわからないんですよ(笑)。覚えようとしても頭に入ってこなくて。だから、スポーツものをやっているときは、ルールが合っているかをその都度確認しながら描いていました。その分、ファンタジーは全然気にせずに、自由に描けるのがいいですね。

──もともとホラーやSFにハマってこられたということなので、描くのもやはりファンタジーが向いていた、ということかもしれませんね。

そうかもしれません。

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くまがい杏子(クマガイキョウコ)
くまがい杏子
2月14日、山口県生まれ。O型。2006年に少女コミック(小学館)に掲載された「キミの手で、あたしを」でデビュー。2011年から2013年までSho-Comi(小学館)で連載した「あやかし緋扇」がシリーズ累計190万部を超えるヒットを飛ばし、同誌のファンタジー作品を牽引する存在に。2014年から2016年まではタイムリープものの「片翼のラビリンス」を発表し、現在は年下ヴァンパイアとの恋を描く「チョコレート・ヴァンパイア」を連載中。