負けず嫌いな性格が養われた高校時代

──先ほど「ストーリーに自信がない」とおっしゃっていましたが、少し意外でした。佐野さんの描く物語はいつもテンポがよくて楽しいですし、マンガに対するエネルギーみたいなものが画面から満ち溢れているように感じていたので。

「何が面白いと思ってもらえるんだろう?」って考えだすと、だんだんわからなくなって、徐々に自信がなくなってくるというか……。マンガ家になる前は考えようとしなくても妄想でいろいろと世界が浮かんできていたんですけど、最近はそんなこともなくなってしまって(笑)。

担当編集 ストーリーに限らず、佐野さんは自分に厳しい部分があるんだと思います。例えばこの絵も私は大好きなんですけど、本人にしてみるともっといいものを想像して描いてたらしく、「私の力ではこの程度でした」とおっしゃってて(笑)。

下絵から着色まで、10時間ほどで完成したというイラスト。カラーを描くときは完成するまで休憩や食事をとらず、集中して作業するという。担当編集曰く、作画のスピードはかなり速いとのこと。

──原画を拝見させていただきましたけど、すっごくきれいでした。

担当編集 私が「すごくいいですよ!」と言っても「いやいや、もっとうまく描けるはずだったんですけど」「こんなはずではなかった」みたいな感じで。逆に佐野さんの本当に描きたい絵が描けたときはどんな絵になるんだろうと。

──ご自身では自分に厳しいという自覚はありますか?

うーん……。私、高校は美術の専門校に通っていたんですけど、特に私の友人は絵のうまい人が多かったんです。中学校までは「私は絵がうまい」って思ってたところもあったんですけど(笑)、そういう学校に通って、うまい人に囲まれたら急に自信をなくしてしまって。もともと負けず嫌いな性格だったので、コンクールとかがあったら絶対1位が欲しかったんです。だから何かのコンクールに応募して、佳作だったり4位だったりすると、「私、明日学校行かない」みたいなことを言ったりして。……まあ、結局は行くんですけど。

「幼なじみと、キスしたくなくない。」より、千紘とひよこ。

──(笑)。

そんな理由で休むっていう勇気はないので、結局登校するんですけど(笑)。それくらい負けず嫌いで。しかも、ちょっとでも順位が落ちると先生にも「下手になったんじゃないか?」とか言われてたんですよ。

──煽られていたと(笑)。

そういう環境で過ごしてきたので、すごく刺激を受けましたし、どうやったらもっと上にいけるかっていう精神面も鍛えられましたね。だから今思うといい経験ができたなと思います。

女子はバレリーナの体型を参考に

──佐野さんはマンガを描くうえで何かを参考にしているものってありますか? 例えば佐野さんが描く女の子って、スッとした細さもあるけど柔らかさも持ち合わせているところが女の子らしくていいなと思っていました。

「幼なじみと、キスしたくなくない。」より、ひよこ。

女の子に関しては、バレエを観るのがすごく好きなので、バレリーナの体型は参考にしてますね。まだトウシューズを履いてない小学校低学年ぐらいの子から、高校生くらいまで。特に足が好きなので、曲線とかじっくり見ています。

──佐野さん自身もバレエをやられていたと、単行本の中で描かれていましたよね。

私がやっていたのはもう大昔です。でも未だにバレエの動画は好きでよく観るんです。ローザンヌの大会(スイスのローザンヌで毎年行われる15歳から18歳までのバレエダンサーを対象としたコンクール)とかも観ますし。すごくきれいな足や体をしてる子が多いんですよ。

──では、男の子を描くうえで参考にしているものはありますか?

電車に乗っていてスタイルのいい男性を見かけると、ついつい見ちゃいますね。服で隠れていてもわかるスタイルのよさというか、服に対して骨格がきれいに収まってるときとかは目で追っちゃいます。あと、男性は手が好きです。

「幼なじみと、キスしたくなくない。」より、モデルとして活躍する千紘。

──ああ、手を描くのが好きっていう女性のマンガ家さんって結構いらっしゃいますよね。手フェチの女性も多いですし。

担当編集 佐野さんは手を描くのがすごく上手ですよね。手に表情をつけるのがうまい作家さんだと思います。

──確かに、改めてじっくり見るとしなやかで美しいですね。

いろいろマンガを読んでいても、手を描くのがうまい人は絵も上手なんだなって私の中では思っていて。だから自分も気を付けて描くようにしてますね。

読んでくれた人の一番になりたい

──ここまで作品についてお話しいただきましたが、最後にお伺いしたいのですが、佐野さんはどんなふうに読者に作品を届けていきたいですか?

もちろん楽しんでもらえたらうれしいんですけど、一番の欲としては、読んでくれた方にとって私のマンガが、一番好きな作品でありたいっていうのがどこかにあって。読んでくれたその人の一番になりたいと思っちゃうんです。だからあんまり純粋な気持ちで描いていないのかもしれません……。

「幼なじみと、キスしたくなくない。」より、左から千紘、ひよこ、伊輝。

──いや、むしろ一番純粋な答えに感じますよ。

そうでしょうか。もちろん私の描いた作品が、ずっと大切な、心に残るマンガになってもらえるのもうれしいです。でも、その人にとって一番面白いマンガを描きたいって思ってるんです。とにかく、読んでくれた人の一番になりたい。

──それも絶対1位を取りたかったという、学生時代の名残を感じますね(笑)。

ふふふ(笑)。でも、皆さんに楽しんで読んでもらいたいですね。できれば、一番に楽しんでほしいですが(笑)。そういう気持ちで描いています。

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2月7日生まれのみずがめ座で、血液型はB型。滋賀県出身。デビュー作はSho-Comi増刊2010年10月15日号(小学館)に掲載された「拾うな危険」。

2018年12月20日更新