ハプニングで動く「オレ嫁。」、キャラの感情で動く「キスない」
──先日「幼なじみと、キスしたくなくない。」(以下「キスない」)の4巻が発売されました。前作「オレ嫁。」は佐野さんにとっての初の長期連載作となりましたが、次々と新たな展開が巻き起こる「オレ嫁。」と、全編を通して幼なじみ3人の関係性を描いていく「キスない」とではストーリーの構成がまったく異なる印象でした。
「オレ嫁。」はもともと3回で終わる予定だったので、あんなに長く連載できるとは思ってなかったんです。なので早い段階でお互いにお互いしかいないというひなたと前の関係性ができあがっていたので、物語はハプニングで動かしていくようにしていたんですよ。担当さんとも毎度「次は何を起こします?」みたいな話をしていて(笑)、「じゃあアイドルは?」「アイドルですか……。じゃあそれで!」といった感じでアイデアをもらいながら決めていきました。新キャラもどんどん出していきましたし、そのおかげで何も考えずに楽しんでもらえるマンガになったかなと思います。
──次々とライバルが現れ、三角関係になったり記憶喪失になったり、留学や芸能活動など、絶えずハラハラドキドキさせられる展開が続くのが「オレ嫁。」の楽しいところだと思いました。あれだけいろいろな展開を描かれて、佐野さんご自身も楽しかったのではないでしょうか。
私はセリフでのやり取りやモノローグを考えるのが苦手なので、「オレ嫁。」のようにいろいろなハプニングに巻き込まれながら動きのある絵を描けたのはとても楽しかったですね。「オレ嫁。」と違って、「キスない」はもともとある程度の長さで連載をやらせてもらえると決まっていたので、最初からキャラクター同士が「好き好き」と言い合うのではなく、徐々に気持ちが動いていくように描きたいと思っていました。なので、その思いが通じ合うまでの微妙な気持ちの描写がとても難しくて。「きっとこのときはこういう感情なんだろうけど、それをセリフやモノローグにするのが難しい」っていう話を担当さんにもしていました。
──「キスない」はひよこ、千紘、伊輝(いぶき)の3人の幼なじみによる三角関係を描いていますが、なかなか思いを口にすることができない3人の姿に切なさを感じました。
「キスない」は「オレ嫁。」よりもう少し大人の層の方にも楽しんでもらえる作品を作ろうというところから始まったんですが、「オレ嫁。」のときと担当さんが変わったということもあり、それまでと物語の作り方がガラッと変わったんです。私はどうしてもハプニングでストーリーを回そうと考えてしまうところがあったんですが、キャラクターの気持ちで話を動かしていくという方向性も、新しい担当さんとの話し合いで決まったものだったんです。
──担当が代わると作り方も変わるものなんですね。
全然違いましたね。なので私も必死で付いていく感じでした。
男の子が血を流してがんばっているところが好き
──そんな「オレ嫁。」「キスない」で佐野さん自身がお気に入りのシーンを教えてください。
「オレ嫁。」は、2巻で火事になった條森家の屋敷から、前がひなたを助け出すシーンが好きですね。あとは3巻で記憶喪失になった前が、聖奈に雇われた男たちに殴られるところも。
──そのあと、ひなたが自身のロングヘアーを犠牲にしてまで前に駆け寄る場面も印象的でした。
そうですね。ああいうアクションシーンはネームもスラスラと描けていたような気がします。私、男の子が血を流してがんばっているところが好きなんですよね(笑)。
──わかります(笑)。傷だらけの男子にキュンとする女性は少なくないですもんね。
そこまでしてくれないと信じられないっていう気持ちもあるんですが、傷だらけなのに、それでも立ち上がる姿や表情を描くのがとても楽しいんですよね。だからボロボロになった男子を描くときは作画も力が入ります。
──前はヒロインのひなたよりも年下で背が小さいという、一見するとかわいらしいキャラクターですが、「オレ嫁。」のファンブックで「前は自分の好みを詰め込んだ」とおっしゃってましたよね。
そうですね。それこそ池山田先生の作品で自覚したような年下男子という設定や、金持ち、俺様、ツンデレ……。自分の理想をぎっしり詰め込んだキャラになっていると思います。8巻から留衣という男の子が登場するんですが、あの子もとてもお気に入りです。
──剣道部の主将でありながら、初めて出会ったひなたが女の子と間違えるほどかわいらしい容姿の男子ですよね。
あの子には私の“ギャップ萌え”が詰まってると思います。一見ほんわかとした、かわいい天使のような子なのに、実は性格が悪いという裏の顔も持っていて……。そのギャップは描くのがすごく楽しかったです。留衣は読者さんからも人気が高かったですね。
──いずれにせよ、やはりパッと見かわいらしい男の子がお好きなんですね。「キスない」ではどんなシーンが印象に残っていますか?
そうですね……。ファッションショーの最中、ひよこが怪我をしていることに伊輝が気付くけど、千紘が助けちゃうシーンとか。
──あそこは助けられない伊輝にとっても、気付けなかった千紘にとっても切ないエピソードでした。
あとは山で行方不明になったひよこを伊輝が助けに行って、無事だったひよこを見て涙を流すシーンもお気に入りですね。あそこは伊輝の泣き顔がうまく描けたなと思っています。
──佐野さんが描くキャラクターはとても表情が豊かというか、切ない顔をするときは体中からその切なさが溢れているように感じるくらい、表情に感情が表れていますよね。
私はあんまりストーリーに自信がないので、その分、絵でがんばろうと思っているんです。なので表情は結構こだわって描いてますね。伊輝は描くのが楽しいんですけど、千紘は大人なカッコよさを目指している分、すごく難しくて。作中でも「カッコいい」と言われているキャラクターなので、早くアシスタントさんに原稿を渡さなきゃいけないときでも、ついつい見せゴマは後回しにしちゃいます(笑)。
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負けず嫌いな性格が養われた高校時代
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- 2月7日生まれのみずがめ座で、血液型はB型。滋賀県出身。デビュー作はSho-Comi増刊2010年10月15日号(小学館)に掲載された「拾うな危険」。
2018年12月20日更新