劇場版「SHIROBAKO」特集 堀川社長対談4番勝負 第3回 P.A.WORKS 堀川憲司×サンジゲン 松浦裕暁|「アカデミー賞に近づくには、1000人の組織を作らなきゃいけない」

アカデミー賞を獲れるアニメ制作会社に

──この機会に、お互いに聞きたいことは何かありますか?

松浦 堀川さんは基本的に富山にいらっしゃるんですよね?

堀川 はい。2年くらい前までは毎週東京の支社に来ては週末に富山に戻ってという感じでした。でも最近はようやく東京で何人かラインプロデューサーが育ったので、現場的なことは任せるようになりました。

松浦 僕も、最近はどこまで作品に関わろうかなって考えているんです。もちろん現場で作ることは嫌いじゃないし、考えることも嫌いじゃないけど、現場から離れるタイミングを悩んでいて。誰か任せられる人間が出てくるのを待つべきなのか、それは僕があえて現場を手放さないと来ないのか……。

──やはり現場には口を出したくなりますか?

松浦 口を出したくなるというより、僕がやりたいと言ったことではなく、社員がやりたいことを実現してほしいんですよ。最近だと「BanG Dream! 3rd Season」や「新サクラ大戦 the Animation」を作り終えて「ARGONAVIS from BanG Dream!」を作っていますけど、そこで僕は「質感にこだわろう」と言っていました。お客さんもCGをずいぶん見慣れてきたから、昔みたいなベタ塗りの質感ではなく、グラデーションやディティールを増やしてコマ数も増やそうと。これは一例ですけど、そういう作品作りを通じて挑戦するべきことを、社員が自ら考えてほしいんですよね。

堀川 以前は僕も「こういうものを作りたい」と言っていましたけど、最近は一歩引いて「自分ではなく、このプロデューサーの発想を活かして作りたい」と考えるように変えました。それが2年前ですね。

松浦 富山にいて、東京の方に任せられているのがすごいです。

堀川憲司

堀川 逆に僕からは、組織作りの面白さってどこにあるか聞きたいです。うちも3年前にクリエイターを含めて全員を社員にしたんです。それまで僕はずっと面白い作品を作ることばかり考えていたけど、最近は手描きのアニメ制作会社として、強い組織を作ることに意識をシフトさせなきゃいけないと思って。

松浦 あまり言わないようにしてるんですけど、サンジゲンが目指す方向にある目標として、アカデミー賞があるんですよ。これを言うと、クスッとされることが多いんですけど。

堀川 そうかもしれませんね。うちも、去年の忘年会で新人のアニメーターに「夢は何?」って聞いたら「P.A.WORKSの作品でアカデミー賞を獲りたいです」って答えた子がいたんです。笑い声が起きて、「そっちに向けての企画は僕にはできないかな」って思ったけど(笑)。

松浦 ただ、それがどういう意味かというと、アカデミー賞に近づくには1000人の組織を作らなきゃいけないんです。海外のアニメーションスタジオはほとんど1000人オーバーです。100人や200人では、彼らはスタジオだと認識してくれない。それに1000人規模の会社の運営ってたぶんとんでもなく大変なはずです。売り上げも人材管理も、仕事の管理や営業も技術研究も、1つひとつが今以上に大規模になる。とても難易度が高いだろうけど、だからこそ実現できればアカデミー賞に近づけるんじゃないかと思ってるんです。

──つまりアカデミー賞を獲る意気込みで組織を拡大していると。

松浦 サンジゲン単体だとあと800人くらい増やさなきゃいけないし、そもそもアニメ業界人は全部で1万人くらいだという話もありますけど(笑)。しかもサンジゲンでは、50人いれば8カ月から10カ月で1作品作れるので、そう考えると同時に何作品作らなきゃいけないのかという。

堀川 松浦さんは、そういう誰もやっていないところを切り開くことに喜びを感じられているんですね。そこには業界に対しての使命感みたいなものもあったり?

松浦 「業界を変えてやろう」みたいなおこがましいことは思っていないですけど、僕がやっていることをいいと思ってもらえたらうれしいですね。誰かに影響を与えられることに喜びを感じますし。

堀川 なるほど。確かにアニメ制作会社は規模が大きくなるとたくさんの作品を回さなきゃいけなくなる。そうして「俺にこれを作らせてくれ!」みたいな熱量が減っていくのを見てきたので、僕は150人くらいの規模で、雑音の少ない田舎でガラパゴス的に作るのが一番いいと思っているんです。それで世界に発信できるものを作りたい。自分が作ったものを観た人に刺激を与えたいからこの業界に入ったのもあるので、賞云々はともかく世界があっと驚くようなものを作るという熱量は持っていたいです。

松浦 規模こそ違いますけど、考えは似てますね。

左から松浦裕暁、堀川憲司。

堀川 松浦さんは、組織を効率的に動かすことできちんとアニメを作るという最先端の成功例を作られている方ですから、今日のお話はとても参考になりました。今、僕たちがやってるアニメ作り自体が「SHIROBAKO」のストーリーを作っているようなものなんですよ。だから今日聞いた話や読ませてもらった本を通じて、どう組織を作るか、どう育成をするか、何を変えなきゃいけないかといった話をいつか「SHIROBAKO」として、面白おかしく記録に残したいなと思いました。ただ、あまりにテーマがいっぱいありすぎるから、映画1本だと描ききれないかもですね(笑)。

松浦 この数年間をぎゅっとまとめるわけですからね。24話とか26話は欲しいですよね。

堀川 本当に、「SHIROBAKO」に次があればTVシリーズでやりたいです。劇場版のシナリオを作り始めたのはけっこう前ですけど、その頃はアニメ業界がグラグラとし始めてぐちゃぐちゃだった。その様子が何年か経って劇場版という形になったんだから、僕たちが苦労しながらやってきた意味もあったかなと思います。