アニメーターの育成が今後の課題
大塚 会社としては、アニメーターを含めた若い人の育成も重要な課題だと思っていて。昨年、平松禎史さん(※)にMAPPAの社員になってもらったんです。ベテランの方に社員になってもらい、教育の場を独自に作っていこうと。
※平松禎史…アニメーター。「新世紀エヴァンゲリオン」をはじめとするガイナックス作品への参加や、「彼氏彼女の事情」や「ユーリ!!! on ICE」などのキャラクターデザインで知られる。
──「SHIROBAKO」でもベテランアニメーターの杉江さんが、若いアニメーターにレクチャーをする場面がありましたね。
堀川 あれは平松さんならできるでしょう?
大塚 まさにそうで、平松さんは人に教えることも好きだし、仙台のスタジオにも何度も行ってくれて。今度は杉並区の中学生にも講義をします。
堀川 素晴らしいですね。
大塚 そういった活動がこれからすごく大事になってくるんじゃないかなって。中学生の頃からアニメ業界を職として意識できるような、そういう機会を作ることは、僕らにとっても重要なことだと思います。
堀川 ただ、MAPPAにもたくさん優秀なクリエイターがいるから、技術を教えようとしても人それぞれ方法が違う、ということはない?
大塚 山ほどありますよ(笑)。動画(※)の考え方ひとつとっても全然違う。数年かけて動画をやってきた人と、短期間で原画(※)に行っちゃった人で全然考え方が違うので、面白いっちゃ面白いですね。だから作画の教え方も、何度も繰り返す中で変わっていって、だんだん土台ができていっています。
※原画、動画…動き始め、節目になるポイント、動き終わりといった動きの要所を描いた絵素材を「原画」、原画と原画の間の動きを描いた絵素材を「動画」と呼ぶ。一般的に、アニメーターは動画としてのキャリアを経てから原画を担当する。
堀川 MAPPAもそれをカリキュラム化するといいんじゃないかな。うちもアニメーターの養成所を作ったときに、2年くらいかけてカリキュラムを組み立てて、テキスト化したんです。かなり細部にわたる、すぐ実践に対応できるようなもので、作るのにはすごく労力と時間がかかりましたが、効果があったと思います。
大塚 今はそういう動きもしているんですが、やっぱりこれまでは育成に時間を割ける、専属の人間がいなかったんですよね。それで今年からは初めてアニメーターじゃない人間を作画部の部長にして、組織立って育成をやっていこうとしています。
「SHIROBAKO」が「島耕作」になったらいいな
──せっかくの機会なので、大塚さんから堀川さんに何か聞いてみたいことはありますか?
大塚 たくさんあるんですが……そもそも堀川さんは、なんで社長をやろうと思ったんですか?
堀川 僕は単純に、田舎に帰ることになったとき、制作会社を作る以外にできることがなかったんです。制作の延長できてしまったので、アニメーション業界という狭い部分の知識はあっても、企業やビジネス的な経験値が非常に少ないし、作品に集中してしまうと経営との両立ができなかったので。今は作品の企画なんかはラインプロデューサーに任せて、経営のほうをしっかり考えているんですが、大塚さんは両方やられていますよね。さらにこれだけのスタジオ数で、100人以上の社員を雇用しているというのは恐ろしく大変なことで、ちょっと1人の仕事量とは思えない。
大塚 やっぱり1つの作品に対する集中力みたいなものは、制作をやっていた頃よりも圧倒的に減ってしまいますよね。「これやろう!」って最初に言うことはできるんだけど、どこにこだわって形にするかといったところまでは、社長をやっている限りは絶対できない。ちょっともどかしさはありますが、そのぶん周りの社員ががんばってくれているので、そこに期待している部分もあります。
堀川 逆に大塚さんに聞いてみたいんですが、うちの会社は少ない人数で家族的に始まって、50人を超えたくらいで「会社としてしっかりしなきゃ」っていう転換期を迎えたんです。MAPPAはいきなりドーンと大きくなったけど、その規模の変化に大塚さんが戸惑うようなことはなかったの?
大塚 僕はMAPPAに設立メンバーとして入ったときから、「企業として強くなりたい」と思っていたんですよ。だから最初はもっと尖った感じで、全然和気あいあいとしていなかった(笑)。それは業界のトップを獲りたいというより、アニメ作りでどれだけ企業が強くなれるのか、ということに関心があったんです。僕はもともとSTUDIO 4℃にいて、すごく好きなスタジオだったんですが、ある意味ガラパゴスな会社だったんですよね。それがMAPPAに移籍したら業界内での交流が増えて、世界が急に広がって。いろんな人の成功を見ながら「自分だったらどうやって会社を強くしていこうか」と、自然に考え続けていました。だからと言って「社長になろう」とまでは思ってなかったんですが(笑)。
堀川 今日の話を聞いてると、大塚さんは楽しそうなんですよね。これだけの仕事量をコントロールしながら、楽しそうに仕事をするってなかなかできない。その「アニメを作ることが楽しいんだ」という大塚さんの姿を、ほかの制作陣も受け継いでいくんでしょうね。
大塚 単純にひょうきんな性格なんですよ(笑)。
──では、もしも宮森が「社長になりたい」って言ったら、おふたりは勧めますか?
大塚 勧めるでしょうね。「なりたい!」って彼女が言うのであれば。そしたらきっと、アニメ業界の未来を変える存在になると思います。
堀川 僕は「SHIROBAKO」が「島耕作」的に続いていったらいいなと思っているんです。宮森がいずれは社長になって、会長になって……。
大塚 いずれは相談役に(笑)。
堀川 でも宮森の場合、自分から望むというよりは、知らないうちにそのポストに座らされてる気がしますね。制作デスクになったときもそうでしたし、渡辺プロデューサーから、「あとはよろしく」って言われているうちに、いつの間にか社長になっているんじゃないかと思います(笑)。