劇場版「SHIROBAKO」特集 堀川社長対談4番勝負 第1回 P.A.WORKS社長 堀川憲司×MAPPA社長 大塚学|「僕がやっているのは“尽くすこと”。作品に対してもクリエイターに対しても、社員に対しても」

劇場版「SHIROBAKO」が2月29日に公開される。コミックナタリーではこれを記念し、P.A.WORKSの社長であり本作のプロデューサーでもある堀川憲司と、カラーの異なる3つのアニメーション制作会社の社長との対談を実施。第1回で訪れたのは、「SHIROBAKO」の舞台・武蔵野アニメーションの丸川正人社長のモデル、丸山正雄が立ち上げたMAPPA。2代目社長・大塚学は「堀川さんに相談したいことがたくさんある」という。両者の語るアニメ作りへの思いや課題は、劇場版「SHIROBAKO」をより楽しむための一助となるだろう。

取材・文 / 柳川春香 撮影 / 佐藤類

「SHIROBAKO」は“アニメを作ること”以前に“働くこと”を描いている

──まずはおふたりの出会いから教えていただけますか。

大塚学 僕がMAPPAの仙台スタジオを作ろうと思ったときに、共通の知り合いを通じてP.A.WORKSの富山のスタジオにお邪魔したことがあるんです。地方でスタジオをやっていて質の高いアニメーションを作っている代表的な会社が、P.A.WORKSさんなので。そこで初めてお会いしたと思います。

堀川憲司 参考にとスタジオを見せたら、いつの間にかうちの倍ぐらいの規模になっていたという(笑)。社員も全体で100人以上いると聞いて驚きました。

──大塚さんは「SHIROBAKO」を放送当時にご覧になっていたそうですが、同業者としてどのような感想を持たれましたか?

左から堀川憲司、大塚学。

大塚 「SHIROBAKO」のいいところって、実際の経験から作られてるから、オリジナルなのにものすごく説得力があるんです。一方でカーチェイスのシーンなんかははっちゃけていて、あの振れ幅も本当にいい。あとは16話のゴスロリの子の過去のエピソードなんかがそうですが、“アニメを作る”ということ以前に“働く”ってことを描いてるんですよね。その目線が、個人的に「SHIROBAKO」を好きになれた部分なのかなと思います。

堀川 僕と監督の水島努さんは同い年なんですが、たぶん実体験を描くのにちょうどいい年齢だったんですよ。今まで業界を見てきた経験を、過去から受け継いできたことも含めて客観的に入れられたかなと思っていて、それはこの歳だからできたものではありました。

大塚 「今の僕の経験値では、まだ作れないなあ」と思いましたよ。

──大塚さんは2016年にMAPPAの2代目社長になられたわけですが、「SHIROBAKO」に登場する武蔵野アニメーションの丸川正人社長は、初代社長の丸山正雄さんがモデルなんですよね。

TVアニメ「SHIROBAKO」より、武蔵野アニメーションの丸川正人社長。現場を奔走する宮森たち社員に、いつもご飯を差し入れてくれる。

堀川 そうですね。水島さんと丸山さんの交流が深くて。

大塚 当時も「うちの社長が出てるなー」って思いながら観ていましたね。性格はちょっと違うけど、服が同じなんです(笑)。

堀川 そうだったんだ(笑)。僕が丸山さんにお会いしたのは「SHIROBAKO」の打ち上げが初めてで、そのときはカレーを持ってきてくださいましたね。

──そこはアニメの通りですね(笑)。ちなみに大塚さんから見た丸山さんは、どんな方ですか?

大塚 クリエイティブに対してものすごくエネルギーのある人だと思います。例えば「この世界の片隅に」を粘って粘ってヒットさせたこととか、そういうプロデューサーとしての丸山の能力には、今の自分ではまだ太刀打ちできない。でも丸山の真似ができないからこそ「自分はこうしよう」と考えて、どちらがどちらということはないですけど、光と影のような感じでやってきた結果、今のMAPPAがあるんだと思います。

堀川 作家性の強い監督やクリエイターと組むMAPPAのスタイルは、丸山さんの血を継いでいるのかなと思いますが。

大塚 ああ、確かにそうですね。作品も大事なんですけど、丸山は“人”を好きになるんです。だから監督やクリエイターに対して目をつぶっちゃうところもあって、それで僕たちは苦労もしたんですけど(笑)、やっぱり大事に継いでいきたいところでもありますね。

正解はわからないけど、決めなきゃいけない

──では、堀川さんはMAPPAに対してどんなイメージがありますか?

堀川 MAPPAというより大塚さんの印象なんですが、どうやってこれだけ暴れん坊の監督ばかりをコントロールしているのかが、謎すぎて(笑)。

大塚 あはは(笑)。

堀川 監督とガチで組んでくれる優秀なラインプロデューサー(※)が下にいないと、なかなか大変だと思うんです。1作品ごとに熱量がすごく高い。作家性の強い人たちに暴れてもらって面白いものを作るというスタイルは、僕のような石橋を叩いて渡る作り方とは全然違うので、同じことはできないけど面白いなって思います。「俺の話だけを聞いてくれ」って監督がいっぱいいるんじゃないですか?

※ラインプロデューサー…特定の作品の制作チームおよび制作現場を統括する役職。

大塚 そうですね(笑)。

堀川 それが楽しめないとできないですよね。

──確かにMAPPAの手がける作品は、まったく違う強い個性を持った作品がいくつも揃っている印象です。以前のインタビューでも、「MAPPAと言えばこれ、という色がないのが強み」とおっしゃっていましたよね(参照:MAPPA×「GRANBLUE FANTASY The Animation Season 2」特集)。

大塚学

大塚 基本的に僕がやっていることは、“尽くすこと”なんです。それは作品に対しても監督に対してもクリエイターに対しても、社員に対しても。堀川さんがおっしゃってくれた熱量の高さというのは、僕1人では到底実現できないものだと早い段階でわかっていたので、監督だったり社外のプロデューサーだったり原作者だったり、作品に対して強いエネルギーを持つ人たちがいて、そこにみんなが付いていけるという確信が持てたらやる、という考え方でやってきた。その結果、僕1人が持てる以上のエネルギーが会社に集まってきたんだと思います。

堀川 監督に尽くすことも大事なんですが、僕の経験で言うと、監督とどこまでも一緒に行ってしまうと不幸になるってこともあると思うんです。

大塚 そうですね(笑)。言うことを聞いて、気持ちいいことだけしてあげていても、監督と作品に関わるスタッフのためにならないことっていっぱいありますよね。

堀川 ありますね。

大塚 でも「この監督にはこうすればいい」という対処法はなくて、「これを言ったらどうなるんだろう」って常に考えていますね。正解はわからないけど、決めなきゃいけないから。自分には理解できない展開でも、監督を信じたことが成功に結び付いた例もありますし、逆に「あのときもうちょっと言える言葉があったかもしれない」と後悔することもありますし。

堀川 そういったケースで言うと、僕は監督と好みの部分が違っても、それが社会的にまずいものでなければ監督に任せてしまいますね。どちらかというと僕は数字で進行を追いかけて、「このまま行くとこういう結果になります」「妥協ラインをここにしましょう」といった提案をすることがほとんどですが、それも監督のモチベーションを下げることと紙一重なので、早く言いすぎても納得してもらえないですし、伝えるタイミングにはいつも悩んでいました。