コミックナタリー Power Push - 「新約Märchen」
愛がないとコミカライズできないSound Horizon 復讐劇を紡ぎ出す作家と編集者が語る秘話
私が描きたい「Märchen」に辿り着くために(鳥飼)
──「新約Märchen」は、「イドへ至る森へ至るイド」編と「Märchen」編の2部構成で描かれていますよね。本編の「Märchen」だけではなく、前日譚の「イドへ至る森へ至るイド」編も描くことを決めたのはなぜでしょう?
鳥飼 私が描きたい「Märchen」に辿り着くためには、その前日譚の「イドへ至る森へ至るイド」から描いていくのが一番自然な流れだと感じました。私自身、「この狭い鳥籠の中で」に特に思い入れがありまして、そこは必ず描きたかったというのもあります。
──連載スタートから約8カ月経ちましたが、振り返っていかがでしたか?
鳥飼 7キロ太りました。
──え?
鳥飼 1カ月ごとに1キロずつ、太ってしまって……。あ、ちょうど“7”ですね。7th Story CDの7(笑)。
──あはは(笑)。じゃあ7キロで止まりますね。
鳥飼 そろそろ止まってもらわないと(笑)。でも「Nein」(9th Story CD)が発売されてから1周年なので、9キロ増を目指そうかな……。
──そこで愛を発揮しなくても大丈夫です(笑)。過酷な連載生活だということがわかりました。「新約Märchen」に話を戻しまして、最初の準備期間で考えたストーリー通りに進んでいますか?
鳥飼 ええ、芯の部分は変わっていないですね。肉付けの部分での変更はありましたが。
担当編集 ストーリー作りに関しては、鳥飼さんに基本的にお任せしています。私が見ているのは、最後のシーンでしっかり盛り上がってマンガとして読後感がいいのかとか、感情を揺り動かされるのかということくらいですね。 私が結構プロットを緻密に組んで、間を埋めようとするタイプなんですが、「新約Märchen」はそれをすればするほど面白くなくなっていくと、準備段階でわかりました。
──「イドへ至る森へ至るイド」はストーリーラインや伏線、登場人物の思いを読者に伝わるよう十分に説明して、しっかりとマンガ化するとSound Horizonのマンガとしてつまらなくなるということでしょうか?
鳥飼 準備期間に作ったストーリーは「説明しよう説明しよう」という思いがあったので、うまくいかなかったんだと思います。この場面でこれをしゃべらせて、このときにこのキャラがきて、とやっていっても全くキャラが動いてくれなくて。もっと違う形で描いてみようと思ったのが現在の形です。
テレーゼが燃やされるシーンはうるうるしながら(鳥飼)
──「Märchen」には1曲目と9曲目以外にそれぞれモチーフとなったグリム童話がありますが、それをもとにいろいろ調べるのも楽しそうですね。
鳥飼 そうですね「Märchen」は童話というコンセプトですが、童話なのか本当にあった話なのかはちょっと曖昧な部分があると思うんです。そこがSound Horizonの面白いところなので、リアリティがなさすぎてもだめだし、リアリティがありすぎてもだめっていう部分を描いていきたいんです。虚実が入り乱れる雰囲気を、衣装にも背景にも反映できればと思っています。
──1巻の収録部分で「イドへ至る森へ至るイド」編がひと区切りしたと思いますが、ご自身の中で印象に残っているシーンはどこですか?
鳥飼 テレーゼが燃やされるシーンは、すごくつらくて……。うるうるしながら描いてました。「Märchen」コンサートのDVDを観ながら原稿をしているんですけど、テレーゼの場面が流れるといまだにいろいろなことを考えてしまって。
──テレーゼが戦うシーンは、迫力満点でした。
鳥飼 本当ですか? よかった! テレーゼの一番の見せ場だったので、気合を入れました。その分、締め切りが……。
担当編集 (遠い目)
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幻想楽団Sound Horizonの名盤Prologue Maxi「イドへ至る森へ至るイド」と7th Story CD「Märchen」を、鳥飼やすゆきが新たな解釈を加えたコミカライズ。 愛憎渦巻く第七の地平線に開かれた白い頁を、宵闇に染めていく──。
鳥飼やすゆき(トリカイヤスユキ)
8月27日生まれ、神奈川県在住。好きな食べ物は卵かけご飯とワイン。少年マガジンエッジ(講談社)にてSound Horizonによるアルバム「Märchen」のコミカライズを連載している。