コミックナタリー PowerPush - 新谷かおる「クリスティ・ロンドンマッシブ」×環望「ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド」

月刊コミックフラッパー看板作家の師弟対談

成人の男は全員、アキラのお手本か障壁でしかない(環)

──キャラクターを肉付けしていく、キャラの魅力の作り方で工夫されている点はどこですか。

新谷かおる

新谷 キャラクターをポンッと作るのはあんまりやってないです。まあ、世相からいけば、おさげ、メガネっ子、そばかす、色白、巨乳の委員長で家が神社で巫女さんもやってる……そういうキャラクターを出せば最強なんじゃないか、とか……(笑)。

 でもそれ、ウケないですよ(笑)。

新谷 だから、自分が何か言いたいこと、例えば「このマンガでは愛を高らかに謳うぞ!」という場合は、何かにつけて愛情に絡まるように、キャラクターの性格をつけていけばいい。ほかのことにはまったく反応しないくせに恋バナだけにワッと反応する、とかね。

 普通はやっぱり、ストーリーにおける役割からキャラクターを割り出しちゃいますよね。例えば「ヴァンパイアバンド」でいえば、主人公の少年アキラは成長させなきゃいけない。成人の男は全員、アキラのお手本になるか障壁になるキャラクターでしかない。それだけが役割なんですよ。役割から言ったら、戦って戦って最後に見せ場を作って、アキラに教えること教えたら、みんな最後死んでいっちゃうことになる。アクションマンガ、男の子の戦いのマンガってそれで正しいと思うんです。

新谷 うんうん。

「ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド」より、ニコル・エデルマン。

 だからそのためにだけ存在するといっても過言ではないんですけど、そこにやっぱり……描いてるうちにやっぱり愛着が湧いてきますからね。「どうせだったらカッコよく!」とか「泣かせるセリフを吐かせてみたい!」とか、いろいろ試行錯誤する。愛着が入ってくると、本来は役割だけだったキャラクターに、ちょっとずつ血肉が通ってくるって感じなんです。単行本1巻で、ニコル・エデルマンというニュースキャスターが実はテロリストで、自爆しちゃいますが、それを見た新谷先生が「ばっかだなー、あんな美味しいキャラクター殺しちゃって……」とおっしゃられた。

新谷 もったいなかった!

 僕も「そうですよねー!」って。なのでそのあと、彼女には後藤・ジョゼ・玲子というお姉さんがいた、ということにして後藤を活躍させました(笑)。

シャーロック・ホームズと新撰組は鬼門(新谷)

大人びた口調のクリスティ。

──「クリスティ・ハイテンション」と続編「クリスティ・ロンドンマッシブ」は、コナン・ドイルの小説のホームズものが一応の原案としてあるわけですが、その中でキャラクター作りやその動かし方で苦労された点はどこですか。

新谷 シャーロック・ホームズは、みんなが知っている世界一の名探偵ですね。最初に考えたのは、ホームズの時代よりちょっと新しくした年代のキャラクターが、ホームズとは違う事件の解き方をしていくって面白いだろうな、と。コナン・ドイル先生の作品は、深読みするとつじつまが合わないところがいっぱいでてきて。この小さい別のキャラクター(クリスティ)を使ってつじつまを合わせていこうとしたんです。それと私は、やっぱり「非常に大人びた口を利く、頭のいいこまっしゃくれた女の子」というのがすっごいツボにはまるんで。そういうのがいたらなんというかこう……ああ、もう食っちまえというくらい(笑)。

──目に入れても痛くないという比喩がありますが、それを超えて食っちまいたい、と。

新谷 ただ、女の子なんで、危険なアクションはさせられないんですね。

環望

──環さんは「クリスティ」のシリーズはどう楽しまれていますか。

 楽しみに読んでいますけど、始まった時はやっぱり「度胸あるな」と思いましたね。シャーロキアンみたいなマニアな方がいますから、迂闊なことやったら何言われるかわからない。

新谷 あのね、マンガ家にとってシャーロック・ホームズとね、新撰組、これ鬼門なんですよ。

 僕も新撰組のマンガを一時期描いたことあるんですけど、あのときは大変でしたもん。

新谷 読者が持っている人物イメージと違うと怒られるんだよ(笑)。

ホームズの姪クリスティがふとした時に出会った謎の紳士はモリアーティと名乗った。平然と悪すら肯定するその哲学に、妙な魅力を感じるクリスティ。舞踏会の後、彼女が耳にしたのは女王陛下暗殺の情報と、海外での爆破事件。2つの事件は「黒のゼウス」のキーワードで繋がって行く。そしてクリスティとモリアーティは協力してこの事件と対峙することに! 全7巻で発売された「クリスティ・ハイテンション」の続編第2巻。

ミナによるヴァンパイアバンド奪還から3カ月。深く傷つけられながらも、復興へと向かいつつある人間社会と吸血鬼社会だったが、そんな中バンド奪還の人間側の立役者・後藤元参事官が狙われる事件が起こる。 一方、彼女の右腕として活躍していた人狼の浜は、なぜか彼女の下を離れていた。10年前のふたりの出会い。2人が分かれた理由、その全てがこの事件で明かされる! アニメ化され、海外で高い評判を受け、7年にわたる第1部の連載を終えた「ダンス インザ ヴァンパイアバンド」。2部へと続く灼熱のブリッジストーリー開幕!

図らずも吸血鬼となった青年アキラと同じく不慮の事態で吸血鬼となったが人間へと戻った瑠璃。アキラはミナとアルフォンスの下でヴァンパイアバンドのトラブルシューターとして様々な事件と対峙する。様々な思いと過去を秘めた吸血鬼たち。そして人と鬼の垣根を越えた恋に、大きな事件が襲い掛かる! 2010年にアニメ化された「ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド」の好評スピンオフ、最新刊。「ダンス」本編の裏側を描きつつ、吸血鬼アキラの恋を描いた物語。

新谷かおる(しんたにかおる)

1951年生まれ、大阪府出身。1972年「吸血鬼はおいや!?」でデビュー後、松本零士のアシスタントを経て独立。1985年「エリア88」「ふたり鷹」で第30回小学館漫画賞を受賞。ほか代表作に「戦場ロマンシリーズ」「クレオパトラD.C」「砂の薔薇」など。精緻なメカニックと魅力あふれるキャラクター描写、新谷ゼリフと呼ばれるロマン溢れる台詞回しが人気を博している。月刊コミックフラッパー(メディアファクトリー)では、創刊号より「刀神妖緋伝」を連載したのち、シャーロック・ホームズの姪が活躍する「クリスティ・ハイテンション」、そして2011年からは「クリスティ・ロンドンマッシブ」を連載している

環望(たまきのぞむ)

1966年生まれ、東京都出身。少年サンデー大別冊(小学館)でデビュー。ダイナミックなアクションと品の良いエロティックな女性描写、ペダントリーに富んだドラマティックな物語作りに定評がある。幾多の雑誌での連載を経て、2005年より「ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド」を月刊コミックフラッパー(メディアファクトリー)にて連載。2010年にはアニメ化され人気を博す。同作は2012年9月に第1部を終えたが、同年11月より「ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド スレッジ・ハマーの追憶」として第2部へのブリッジストーリーを連載している。マンガ原作者としても活動中。