「シキザクラ」監督 黒﨑豪インタビュー | 特撮ヒーローのような“王道”に CGディレクターが初監督作品のオリジナルアニメで目指したもの

これまでの鬱憤を全部晴らした「シキザクラ」

──今のお話しぶりからも伝わってきましたが、これが初監督作品で、しかもオリジナルとなると何をするのか戸惑われる方も多いと思うのですが、監督には明確にやりたいこと、作品のビジョンがあったご様子ですね。

黒﨑豪

僕の中ではやりたいこと、観てくださる人に伝えたいことは、とても明確にありました。とはいえ、それは全話納品を終えた今、振り返っていえることで、作っているときはそこまで考えてる余裕はなかったですね。ただただ、“俺はこれが好きか嫌いか”みたいなところで、判断していくばかりで。本読み(脚本の打ち合わせ)、絵コンテ、編集、声優さんのオーディション、アフレコ……何から何まで、初めての作業ばかりでしたから。これまでCGディレクターとしていろいろな作品に関わらせていただきましたけど、だいたい、絵コンテをいただいて作業したら、あとは終わりだったもので。

──ズバリ伺ってしまうと、監督のこの作品でやりたかったこと、伝えたかったことってなんですか?

“王道”です。この10年くらいのアニメは、“王道”からいかに外せば面白いかを追求しているように僕には見えていたんです。まっすぐなものを客観的に、鼻で笑うような感覚で捉えて、で、そのひねくれ具合を作るほうも見るほうも楽しんでいる、みたいな。そういう作品の面白さもわかるんですが、それだけになってしまっている気がして、それはイヤだなと。“王道”って、面白いから“王道”だと思うんですよ。僕はアニメで、「こういうのでいいんだよ」っていう感覚をすごく大事にしたい。その感覚になれるものを目指したかったんです。

──視聴者の裏をかくのではなく、直球で感動できるものを、と。

主人公の翔くんは初期のプロットだともう少し違う年齢感だったんですが、高校生にしたんです。それは今お話ししたような理由で、トロッコ問題ってあるじゃないですか。

ヒーローに憧れる高校生の主人公・三輪翔。

──「大勢の人を助けるためなら、1人を犠牲にしてもいいのか?」を考える倫理学の思考実験ですね。

最近は大勢を救うために1人を殺すような考え方が大人の発想でよしとされているように感じるんですが、僕が子供の頃って、ヒーローは全員を救ってたと思うんですよ。「トロッコなんか気合いで吹っ飛ばせ!」みたいな(笑)。そういう話が僕は描きたくて、それが許されるのは中学生や高校生の主人公かな、と。つらいことも全部飲み込んでしまおうとする大人たちと、それでも助けたい、全部を救いたいと考える子供たち。特に高校生ぐらいの、頭では全部わかってるんだけど、気持ちが追いついてない、現実を知る前のモヤモヤした思春期の感じをきれいだと感じてしまうんですよね。人間として。永川さんがシナリオでその、ある種の特撮ヒーローっぽい感覚を理解してくれて、めちゃくちゃ助かりました。プロデューサーもですね。

──吉平くんはオタクですけど、年齢の割に好きなものが昭和ノリなのはその辺りの皆さんの趣味が理由ですか?

そうですね……と言いながら、僕自身は平成生まれなんですけどね。

──ええっ!? そうなんですか。

31歳、平成元年生まれです。もともと親父が洋画をよく観る人で、そこからの流れで、なぜか東映版の「スパイダーマン」に辿り着いて。で、そこから、「アンパンマン」とかの普通の子供が観るようなものには目もくれず、「太陽戦隊サンバルカン」だとか、昭和の特撮ものばかりを見ていました。ちょうど幼稚園の頃に、「仮面ライダー」や「ウルトラマン」の最新作が放送されていなかった時期で……。

第7話に登場したデスコアラの名乗り口上やポーズにも、特撮作品のテイストが盛り込まれた。

──ああ、「ウルトラマンティガ」が1996年、「仮面ライダークウガ」が2000年で、ちょっと間に合わなかった。

そうなんです。ヒーローものはビデオを借りて観るもの。そしてそこには、昭和の作品しかない。そのときの体験が大きいですね。オタクとしてメインの趣味は特撮で、アニメからの影響という意味だとガイナックスはちょっと意識してますね。今石洋之さんが好きなんです。

──もしかして“王道”でイメージしているのは「天元突破グレンラガン」?

はい。あとはマンガだと、一番影響を受けているのが藤田和日郎さんで。世代的には「からくりサーカス」の連載がリアルタイムなんですけど、「うしおととら」からずっと好きですね。あの人の描くキャラクターの“眼”に表れているじゃないですか。まっすぐな、太陽のような少年の強さが。

──翔がイバラとパートナーシップを結ぶのも……。

そう、潮ととらです(笑)。

──いろいろと謎が解けました。「シキザクラ」は思いがものすごく強く込もったアニメで、監督として作り上げての手応えもあられた印象を受けます。

そうですね……ちょっと“禊ぎ”みたいな感覚があったんです。自分が今まで溜めてきた鬱憤を全部ぶつけてやった。映像的な部分もそうで、アクションシーンにすごく力を入れたんですけど、これまでセルルックの作品では手描きのアニメに寄せて、CG作品ならではの自由なカメラワークを封印してきたんです。でも個人的にはそれはちょっと残念だと思っていて。というのも、「進撃の巨人」のアニメで、立体機動のシーンは手描きアニメの枠を越えた凄まじいワイヤーアクション風のことをやっているじゃないですか。あれが衝撃的だったんです。手描きが枠を越えたことをやっているのに、CGが枠の中でやるのは悔しいなと。そこを、特に1話、2話のアクションでは全力でやってみています。ただ、それだけやっても、いろんな意味でまだくすぶっている思いもあるんです。今回に関してはやりきった自信がありますが、次だったらもっとこうする!という反省点はある。次の監督作があるならさらにいいものにしたいです。でも、まずは「シキザクラ」を最後までお楽しみいただければ。本当に僕の思い、名古屋の、愛知の、東海の方々の思いを詰め込んだ作品です。それを「面白い!」と感じてもらえたら、何よりもうれしいです。放送はもう終わりますが、「シキザクラ」をこれからもよろしくお願いします!!

「シキザクラ」第1話より。
黒﨑豪(クロサキゴウ)
3DCGのアニメーション制作会社・サブリメイションの取締役。TVアニメ「ラブライブ!サンシャイン!!」の1期と2期、劇場版「ラブライブ!サンシャイン!!The School Idol Movie Over the Rainbow」にCGディレクターとして参加し、2021年放送のTVアニメ「シキザクラ」で初監督を務める。