「シキザクラ」監督 黒﨑豪インタビュー | 特撮ヒーローのような“王道”に CGディレクターが初監督作品のオリジナルアニメで目指したもの

東海エリアを舞台に、東海出身のスタッフ・キャストが中心となって作るオリジナルTVアニメ「シキザクラ」が間もなく最終話を迎える。コミックナタリーではこれに併せ、監督の黒﨑豪にインタビュー。これまでサブリメイションで主にCGディレクターとして活動し、「シキザクラ」が初監督作品となる黒﨑。同作で目指したものを聞くと、幼い頃からずっと見ていたという特撮ヒーローの影響があった。黒﨑が「今まで溜めてきた鬱憤を全部ぶつけた」と語る「シキザクラ」の最後を、このインタビューを読んだうえでぜひ見届けてほしい。

取材・文 / 前田久撮影 / ヨシダヤスシ

名古屋スタジオ設立の狙いとは

──サブリメイションはもともと東京のCG会社で、2016年に名古屋にもスタジオを立ち上げ、それが「シキザクラ」……というか、ナゴヤアニメプロジェクトにつながった形ですよね。そもそも名古屋にスタジオを構えたきっかけはなんだったのでしょう?

当時の経営陣の考えをすべて把握しているわけではないので、あくまで僕の感触としてお話しすると、今、東京ではクリエイター不足の感覚がすごくあるんです。地方にスタジオがないわけではないですが、アニメの制作会社の所在地は、やはりまだまだ東京に一極化している。だから東京で新人を雇おうとしても、うまい子は取り合いになってしまう。そうした状況の中で、ここ3、4年ぐらいでしょうか。地方にアニメスタジオを作る流れが、年々強くなっています。名古屋にも今ではその波がきているのですが、弊社の名古屋スタジオが立ち上がったときは、まだ競合相手がいない状況でした。しかも名古屋にはアニメのことを教える専門学校が多いんです。

黒﨑豪

──そこは大事なんですか?

はい。せっかく専門学校がたくさんあっても、受け皿がないと結局、卒業生は東京やほかの土地に出て行くしかない。でも、地元で就職したい人も多いんですよ。実はもともと東京のスタジオにも、名古屋から上京してきて働いていた子がいたのですが、聞いてみると「どこかのタイミングで名古屋に戻ってやっていきたい」という子もかなり多くて。これって、あまりほかの出身地だとないんです。面白いですよね。そんなところからも、東海地方の魅力を感じます。

──なるほど。そうした気持ちに応える形で、優秀な人材を確保するという狙いが、名古屋スタジオの設立にはあった。

そういうことです。そしてそれが、東海地方からアニメを発信する、ナゴヤアニメプロジェクトにつながった。関連各社さんとの出会いは、運命みたいなものだったと、今では思います。

日本らしい古風さとSF要素のハイブリッド

──ちなみに監督ご自身の名古屋とのご縁は?

それが……これは申し訳ないんですが、この作品までなかったんです。生まれは長崎で、育ちは神奈川。実はそのことは、企画の初期の頃に議論にもなったんです。ただ、やはり地元の人には当然のことが、外から見るとユニークに見える。そういう視点が大事だと思ったので、僕が監督として進めさせてもらいました。

第7話では、翔がシロ組一同を引き連れて岡崎にやってくる。翔の後ろにあるのは岡崎城。 パワードスーツをまとった翔。パワードスーツは、凶悪なオニ“イバラ”が宿っている。

──この作品を通じて関わってみて、名古屋の、東海地方のどんなところが面白かったですか?

東京とほとんど変わらない、少し道路が広いことが違うくらいの都会的な街並みの中に、歴史を感じるものが混在しているところですね。例えば、名古屋の近辺には城がとても多い。ほかにも東京だとなくなってしまう歴史的なものが、本当に、フラッと立ち寄れるところにある。あとは……郷土愛の持ち方でしょうか。地元の方に名古屋のいいところを聞くと、「いいところなんかないよ」みたいなことをおっしゃるんですけど、ほかの土地の人間がそれに乗っかってふざけるとちょっとムッとする。

──実は私も名古屋の生まれなので、その感覚はわかります(笑)。ストレートに褒めないけど、愛が深いんですよね。ところで、今おっしゃったような古いものと新しいものが混在した魅力とは、まさに「シキザクラ」に通じるものがありませんか。鬼などの和の、伝統的なテイストと、パワードスーツなどのSF要素が混ざっている。そこは意識されていたのでしょうか?

しました。僕が監督としてこの企画に参加した段階で、キャラクター原案とパワードスーツのアイデアがすでにあったんです。パワードスーツを出すことが決まっている以上、SF感はある。そこに古さをどうにかして関連付けたかった。それで巫女だとか、鬼といった要素を掛け合わせていきました。豊田市が近いからか、名古屋には最先端の車がよく走っている印象があって、それとも結びついていますね。

吉平は「スパイダーマン」のネッドがモチーフに

──そうやってイメージを地域性と結びつけながら、過去の因縁と現代がクロスオーバーしていく作品世界を作り上げておられたんですね。

そうですね。実はキャラやスーツの設定とセットで物語の初期プロットもあったんですけど、それは僕が参加してからかなり変えさせてもらって、それに合わせて設定もいじらせてもらいました。大きな変更点だと、実は初期段階だと吉平はいなかったんですよ。

──ええっ!? ものすごく重要なキャラじゃないですか。

翔の親友・永津吉平。

彼にあたるキャラクターは、まったく存在していなかったですね。僕とシリーズ構成の永川成基さんで話し合って、戦いの連続で描かれる物語の中の、翔くんの日常の象徴として生み出したキャラクターでした。女の子だったら、完全にヒロインになってしまっていたでしょうね。“俺の帰る場所”みたいな(笑)。

──彼がいないと、中盤以降の展開はかなり殺伐としますよね。裏切りにつぐ裏切りの連続なので……。

そうそう。めちゃくちゃ殺伐としてますよ(笑)。僕の中では翔くんは“ヒーローになりたい男の子”で、吉平はもうすでに“ヒーロー”なんですよ。実際にはヒーローに変身できるわけじゃないけど、心はヒーロー。この作品の中でのヒーロー像の象徴であり、日常の象徴である。MCUの「スパイダーマン」シリーズに出てくるネッドが最初のモチーフなんですよ。

──あいつ、めっちゃいい奴ですもんね。

適度な距離感で、くだらないことばかり言ってるけど、スパイダーマンの心の支えになっている。いい奴ですよね。彼がいるから、今の「スパイダーマン」シリーズがちょっとコメディチックに回せているところがあるでしょう? 「シキザクラ」も設定は重たくても、重たい物語にはしたくなかったので、吉平にはだいぶ助けられました。放送が進むに連れて、“Cパート職人”なんて一部では呼ばれていますけど(笑)。