アニメ「しかのこのこのここしたんたん」太田雅彦監督インタビュー「とにかくシカにこだわる、シカ推しの変なアニメ」 (2/2)

とにかくシカに対してこだわりたかった

──オープニングはインパクトのある曲と映像で人気が高いですが、副監督の大隈孝晴さんが絵コンテを担当されています。太田監督から何か指定や修正はされましたか?

ほとんど何もしていません。自分の作品はほぼ大隈にオープニングやエンディングの絵コンテを描いてもらっていますが、原作の先生から「こんな絵を入れてほしい」という要求があればそれを渡して、あと自分が何か欲しい絵があれば入れてくださいと言うくらいで、あとは好きにやってもらっています。それでいつも素晴らしい絵コンテを描いてくれるので、毎回お任せで投げています。もちろん「しかのこ」も絵コンテができあがった瞬間にパラっと見てもう「オッケー」でした。

──おしお先生からのリクエストはどんなものだったのでしょう? いわゆる“きららジャンプ”とか?

確かそこは先生から入れてほしいという話がありました。あとはゲーム画面風の「YOU DEER」とか。

アニメ「しかのこのこのここしたんたん」オープニングより。

アニメ「しかのこのこのここしたんたん」オープニングより。

──なぜあれを入れたがったのか気になりますが(笑)。太田監督がお気に入りのカットはありますか?

のこたんの顔が朝日に照らされてグーッと上がるところは絵コンテ見て「うめえなあ」と。あとは冒頭の振り付けで手を振った方向にカメラが切り替わるところとか、さすがだなと思いました。

──振り付けも好評ですね。「しかのこ」に限らずですが、アニメのオープニングやエンディングでキャラクターを踊らせる際に振り付けは絵コンテ担当者と振付師さんのどちらが考えるのでしょうか?

どちらのケースもあります。今回は最初からメーカーさんから「踊らせたい」という話がありました。それでランティスさんが指定した振付師さんが踊った映像をもとに絵コンテに取り込んでいます。

──その振付師さんのクレジットって入っていますか?

(ツインエンジン担当者) 振り付けは小沢いくみさんという方にお願いしました。

──ありがとうございます。エンディングは太田監督が絵コンテ、演出、原画を担当されています。工場を映像のメインにしようというアイデアはどう生まれたのでしょうか?

シナリオの打合せ中に面白半分で「せっかくシカせんべいが作中に出るなら、コラボしたグッズとか出たらいいね」みたいな話になって。その延長で鹿せんべい屋に取材に行ったら面白そうという話から、それをエンディングで映すというアイデアが生まれました。それと僕の中にあった「アルプスの少女ハイジ」のエンディングの山羊のようにシカをずっと歩かせたいというイメージを組み合わせたんですけど、曲もできていない段階で鹿せんべいの工場に取材に伺って。そこで撮影したものをできあがった曲に合わせて編集しました。

──工場の取材は楽しかったですか?

はい。奈良公園から少し離れた、少数精鋭で作られている個人経営の小さな工場で。すごく老舗感があって、ご主人さんも取材を快く受け入れてくれました。出来立てで温かい鹿せんべいって、甘さを感じられて案外美味しいんですよ。アニメでは「パサパサ」とかばかり言ってて申し訳ないですけど(笑)。温かいと美味しいです。

──実写と言えば、アイキャッチでは全国各地のシカの名所にのこたんやこしたんが行っています。あの場所はどうやって決めたのでしょうか?

本編やエンディングと同じように、アイキャッチでもシカにこだわりたかったんです。だからシカと触れ合える場所を調べて、それを「サザエさん」みたいなノリで紹介するのも面白そうだと思って写真を集めました。とにかくシカに対してこだわって「このスタッフ馬鹿じゃねえか」って笑ってもらえるくらいにやりたかったんですよ、せっかくギャグアニメなんだし(笑)。そこを中途半端にやると面白くないでしょう。

アニメ「しかのこのこのここしたんたん」エンディングより。

アニメ「しかのこのこのここしたんたん」エンディングより。

──シカに対する強い思いがわかりました。ただアイキャッチの場所、すでに有名どころに行き過ぎていて、もし第2期があったら困りそうですね。

完全に困ります(笑)。もちろんシカがいる山とかはいくらでもありますけど、シカと触れ合える観光地みたいな場所は意外と限られているんです。もう少しあるんじゃないかと思ってたのに、終盤はけっこうしんどいなと思いながら続けてなんとか1クール乗り切れました。

──場所についてもう1つ伺いたいのですが、本作の舞台となっている日野にはロケハンで行かれたんですか?

2回行きました。ほぼ第1話冒頭のためにですけど。「のこたんがアルバイトをしている動物園から遠くなくて、坂の上にある学校だとこのあたりかな」みたいなことを考えながら歩きました。1980年代に「パンツの穴」という実写映画があって、そのロケ地として“パンツの穴坂”って存在していて(笑)。その坂の上に学校があると想定しています。

──過去におしお先生が「日野市を聖地にしたい」とポストされていましたが、その坂には行くしかないですね。

アニメでそのまま描いているというわけではないですけどね。たぶんアニメで一番登場するのは日野駅で、そこは同じ感じになっています。原作でも動物園は日野市にある動物園をモデルにして描かれていたし、アニメで全然行かずに描くのも問題があるかなと思って若干取材をしました。

楽しく作るほうがいいでしょう、特に「しかのこ」みたいなギャグは

──少し「しかのこ」から離れた話も伺わせてください。太田監督は2007年の「みなみけ」から数多くの美少女の日常コメディをアニメ化されています。違うジャンルもやってみたいと感じますか?

それは多分にありますよ。こういうジャンルだけをやりたくて業界にいるわけでもないので。ただ、よくわからないけど不思議な部活のアニメの話ばかりがくる。「今度はシカ部かー!」って(笑)。別に嫌でやってるわけではないし、変な部活の美少女もののエキスパートだと思ってくれているならそれはそれでうれしいですけど。

──それだけ業界から厚い信頼があるんでしょう。ちなみにアニメにおけるこのジャンルで変化を感じることはありますか?

変化とか進化……してるんですかね? 最近のアニメには疎くって。僕は原作を自分の中でできる限り面白くアニメ化することしか考えてないので、もし流行りとかあっても気にしないですね。それに合わせようとすると自分らしくなくなっちゃうし、「自分が面白ければいいや」くらいの感覚です(笑)。

──コメディやギャグのアニメを作る際に、その面白い面白くないの判断に迷うことはありますか?

当然ありますよ。ただ人によって好みは違うから、悩んでも正解はわからない。「しかのこ」の1話でスローモーションで壁の破片が飛んで血が吹き出すシーンを笑ってくれる人もいれば、「何これ?」となる人も当然いるはずで。だから判断基準は自分が面白いと感じるかどうか、です。僕は監督なので、面白いアイデアなら入れられる範囲で入れるし、面白くないならやらないという判断をし続けてきました。それに最終的にコンテの段階で決定権は自分にあるので、「やりすぎかなこれは」と思いながらもついつい血をブシャーって飛ばしたりして。それでメーカーさんの判断で放送できないとなったら仕方ないけど、面白いと思ったら必ずチャレンジはしています。

アニメ「しかのこのこのここしたんたん」第3話より。

アニメ「しかのこのこのここしたんたん」第3話より。

アニメ「しかのこのこのここしたんたん」第4話より。

アニメ「しかのこのこのここしたんたん」第4話より。

──自身が面白がって作っているから、これまで多数の美少女コメディの傑作を生み出せてきたんでしょうね。

だって楽しく作るほうが作品にとっていいでしょう。特に「しかのこ」みたいな作品は。ギャグアニメをつらそうに作るなんて地獄でしょうし(笑)。作り手が面白がって作ってるかどうか、視聴者もなんとなく伝わると思うんですよ。「こいつら、つらそうに作ってるな」って。よくわからないシカの世界を面白がって、「のこたんをより面白く見せるためにはこうしよう」とか変なアイデアをどんどん取り入れないとできあがりも楽しくならないですよ。

──そうしたアイデアが詰め込まれたエピソードが今後も期待できそうですね。

それで言うと、今後マタギが学校に襲撃に来るという話があって「銃を持った人間が学校に入るシーンをアニメにしていいのか」という話になったんです。それで一度はやめておこうという話になったんですが、ライターのあおしまが「どうしても入れたい。なんとか映像にできないか」と言って、委員会で改めて考えてその話を入れることにしたんですよ。すると脚本もノリノリで書かれた面白いセリフがあったりして、原作以上に馬鹿で熾烈な戦いができあがりました。そういった変なエピソードを、気軽に楽しんでほしいです。

──最後に「しかのこ」のBlu-ray BOXが12月18日に発売されるので、そちらのアピールをお願いします。

放送でパッと流れて気づかなかったような細かいことまで観ていただけるとうれしいかな。第1話でこしたんが「悪の組織の怪人!?」と言うカットって、ちゃんと背景が「某特撮映画作品」のダムになったりしてるんですよ。そういうことに気づくくらい、じっくり観てください。

プロフィール

太田雅彦(オオタマサヒコ)

1967年1月4日生まれ。アニメーター、アニメ監督。代表作に「みなみけ」「ゆるゆり」「みつどもえ」「干物妹!うまるちゃん」「おにぱん!」など多数。