コミックナタリー Power Push - マーガレットコミックス特集 あの頃も、これからも!一生少女マンガ宣言 第12回 椎名軽穂「君に届け」
“孫”みたいにキャラクターを愛でる
和音さんは先輩であり親友であり家族でもある
──先ほどもお話に出てきましたが、河原和音先生とはお家も近くで、仲良しでいらっしゃるんですよね。
和音さんは、同期であり先輩であり親友であり……家族みたいでもあり。愛情深くて、とても優しいんですよ。なんていうか、無償の愛を感じるんですよね。私は実生活でも末っ子で、子分肌だと思うんですけど、和音さんがお姉ちゃんみたいな人なので、一緒にいると気持ちよく子分でいられるというか。割と好き放題やってるんですけど、よく付き合ってくれるなあと思います(笑)。例え私がすごく悪いことをして刑務所に入ったとしても、「軽穂には軽穂の事情があるんだろう」と思って刑務所から出てくるのを待っててくれると思うんですよ。……というようなことを和音さんに言ったら「たぶん私、軽穂は宇宙人に操られたんじゃないかっていう結論を出すと思うんだよね」って言ってて、私が思う以上に私のことを信頼してくれていました(笑)。人のことをよく見て、人のことをいっつも考えている、本当に愛のある人です。
──河原先生の作品についてはいかがですか?
和音さんの作品は「先生!」とか「青空エール」のような、“きらめき”を感じる、青春度の高い作品が本来の姿のような気がするんですけど、「高校デビュー」や「俺物語!!」であんなキレッキレのギャグや気持ちのいいキャラクターを描いていて。なんというか……本来は剣士だから武器は剣が得意なはずなのに、この人はブーメランで闘ってもすごいんだ!みたいな……全体攻撃なのにすごい攻撃力!!みたいな……すみません、ゲームに例えてもわかりづらいですよね(笑)。つまり尊敬しかありません! 天才だと思う。
──ゲームの例え、とてもよくわかりました(笑)。ほかに同年代の方だとどんな方がいらっしゃいますか?
高梨みつばさんと中原アヤさん。デビュー自体は私の方が早いのですが、連載は私より2人ともずいぶん早いので、やっぱり先輩ですね。みつばちゃんは、お互い高校生のときにデビューして、同じ別マスペシャルっていう分厚い雑誌に載ったりしていて。みつばちゃんが別マ本誌に読み切りで載って、続けて本誌に読み切りが載って、ついに「悪魔で候」で連載が始まったときは、ワクワクしましたねえ。すごくうれしかった! 猛くんがドーンとカッコよくて。みつばちゃんのマンガは熱くて、色気がありますよね。みつばちゃんが描いてるなあ、って感じがします。本当に熱くてまっすぐで真面目な人なので。昔は悩んだときによく長電話したりして、「CRAZY FOR YOU」のときには「軽穂ちゃんつらそうだね」って言ってくれて。「うん。わかる?」って言ったら「わかる」って……わかってくれるんですよね。懐かしいなあ。
──まさに仲間という感じですね。中原アヤ先生の作品はどう思われますか?
中原アヤちゃんは、うちの母が「中原アヤさんはデビューから違ったよね!」って言ってたんですけど、本当にその通りだと思う。じーんとしたりキュンとしたり、でも明るくて、ものすごく愛嬌があってキャッチーで……アヤちゃん本人もすごく面白くてめちゃくちゃ感じのいい人なので、なんかやっぱりみんな、描くマンガと似ているなーと思います。なんとなく顔もキャラと似てるし!(笑)「ラブ★コン」はもちろん大好きなんですが、その前の読み切りを集めた「青春のたまご」という単行本が大好きで。「幸せ南向き!」とか、作品のタイトルから本当に好きだなあ。思い浮かばないですよ、こんな感じのいいタイトル! 「CRAZY FOR YOU」の連載1回目のネームができたとき、たまたまアヤちゃんと、和音さんと一緒にいたので、担当さんに見せる前に読んでもらったんですよね。1回目のラストの引きの部分を、私は「主人公、ショック!」というかちょっと悲しい感じで描いていたんですが、そうしたら、確か2人が「もうちょっと前向きに終わってもいいかもね」と言ってくれて。で、アヤちゃんが「1回目だしね」って言ったんです。なるほどそういう姿勢で描いているんだなって感動して。やっぱり2回目を読みたくなる主人公の方がいいですもんね。せっせとその晩、描き直しました。
──なんと素敵なアドバイス!
あと美森青さんとも同年代なんです。青ちゃんが「B.O.D.Y」を連載しているときに私は「CRAZY FOR YOU」を連載していたので、ずっと青ちゃんとメールしながら描いてましたねえ。ネームだろうと下絵だろうとペン入れだろうと、メールの内容は「進まない」とか「できない」なんですけどね。どっちかが先にネームが終わると、片方が片方を励ましつつ、「後に続け!」とまた粘るんですけども。戦友みたいな存在。青ちゃんも言ってたけど、あのときが「マンガ家青春時代」って感じなんですよね。青ちゃんもデビュー作が本当に鮮烈で、ウワーすごい人出てきた!好き!って思っていたので、仲良くなれてうれしかったですねえ。青ちゃんのマンガも、主人公がどんなに勝手なことをしてても嫌味じゃないというか、ものすごく正直で。青ちゃんは全然勝手な事するような人じゃないですけど、やっぱり似ていますね。体育会系っていうか男前っていうか……でもすごく柔らかいんです、何に対しても。結局みんな、描いてるマンガみたいだなって思います。
──いいエピソードばかりですね……。
若手の別マ作家さんとは、私が家庭を持って時間もなくなったため、あまり会う機会がないんですけど、会ってお話しできるとうれしいですね。水野美波ちゃんは同じ札幌なので他の作家さんよりは会う機会があるかな? でも全然足りないなーという感じです。もっといろいろマンガのこととかも喋りたいけど、短い時間だとなかなかマンガの話になるまでエンジンかからないというか……美波ちゃんと渡辺カナちゃんには、前にちょっと手伝いにきてもらったことがあって。でも仕事中だと私も普段以上に話を回せないので、もっと話したかったなと。美波ちゃんやカナちゃん、目黒あむちゃんや和音さんなど北海道組みんなで会う機会を作れたらいいなあ、と勝手に思ってます。夜にならないとエンジンがかからない気がするので泊まりがけで(笑)。別にマンガの話をしなくてもいいんですけどね。幸田もも子ちゃんも、札幌に来るときには声をかけてくれるんですよ。
──「センセイ君主」の弘光先生について悩んでいたとき、椎名先生の「原点に戻ったら?」という言葉で勇気が出た、と話されていました(参照:マーガレットコミックス特集 第9回 幸田もも子インタビュー)。
ももちゃんはすごく愉快な人で、むしろ会った途端にももちゃんのエンジン全開なので、面白いです(笑)。大変かわいらしい人ですね。やっぱり描くマンガに似てる……!
自分が気持ちのいい「きれいごと」を描きたい
──今、別マの中で特に注目している作品はありますか?
「町田くんの世界」と「宇宙を駆けるよだか」を毎月楽しみにしています。「町田くん」は、「いいなーかわいいなーみんな大好き!」って思いながら読んでます。いいですよねえ……ほのぼの、じーんとします。恋愛事情の方はどうなるのかなあ。あるのかな? ふわっとしたままなのかな……? どっちでも、なんでもいいです。あの世界を見ていられたら満足だなあ。安藤ゆきさんの作品が大好きなので。「よだか」は、1回目から「わーどうなるんだろう!」って思ってワクワクして。回が進むごとに、それ以上にキャラクターたちが好きになりました。主人公がかわいいし、男の子たちもすごくカッコいいんですよね。でも1人としか付き合えないよね、困ったなあって思いながら読んでます。ストーリーの方も佳境で、ますます楽しみです!
──ご自身が別冊マーガレットという雑誌で描くことで意識していることはありますか?
意識というより、思春期のころに別マを読んで育ったので、影響が大きいですよね。あのキラキラした青春な感じは憧れでしたから。だから今でも、校舎にこう光が差し込んで、とか、木漏れ日で、とか、夏の影の濃い感じとか、夕方の伸びる影とか、冬は息が白かったりキーンとした冷たい空気の感じだったり……そういう空気感を別マに強く感じて、しびれていました。
── 以前、2008年頃にあるインタビューで「(長くマンガを続けてきても)結局根っこの部分はずっと変わらない気がします」とおっしゃっていて、その「根っこ」 とは「“少女マンガ”であること、ですかね。結局自分の気持ちのよい方向で描いていくと私はこういう形になるのかなと。“きれいごと”を描きたい」という話をされていたのがとても印象的でした。今もその思いは変わらないでしょうか。
変わっていませんね。「きれいごと」は、自分が気持ちよく描けるのがそっちの方向なんですが、自分にとって気持ちよくないきれいごとだったら描く意味がないかなと思います。気持ちのよいきれいごとが描けたらいいなと思っています。
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- マーガレットコミックス特集 あの頃も、これからも!一生少女マンガ宣言 特集一覧・連載作品年表はこちら
- 第1回 河原和音
- 第2回 咲坂伊緒
- 第3回 神尾葉子
- 第4回 中原アヤ
- 第5回 森下suu
- 第6回 あいだ夏波
- 第7回 やまもり三香
- 第8回 水野美波
- 第9回 幸田もも子
- 第10回 宮城理子
- 第11回 佐藤ざくり
- 第12回 椎名軽穂
- 第13回 小村あゆみ
- 第14回 いくえみ綾
- 第15回 ななじ眺
- 第16回 八田鮎子
- 番外編 マーガレット&別冊マーガレット編集長インタビュー
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椎名軽穂(シイナカルホ)
10月23日北海道生まれ。1991年、別冊マーガレット(集英社)にて「君からの卒業」でデビュー。同誌での読み切りを活動の中心にしていたが、2003年に長期連載「CRAZY FOR YOU」が開始すると、天然で冴えないヒロインが懸命に恋する姿が読者の共感を呼び話題に。2005年、同誌にて「君に届け」を読み切りとして発表。好評を受け翌年より連載開始となった。陰鬱な外見とは裏腹に純粋なヒロインに魅せられたティーンエイジャーが続出し大ヒットを記録。2008年度第32回講談社漫画賞少女部門を受賞したほか、アニメ化、実写映画化もされた。
2016年1月22日更新