「SHAMAN KING ふんばりクロニクル」|日笠陽子(麻倉 葉役)×臼井草太(Studio Z)×吉田守芳(少年マガジンエッジ編集長) 鼎談 スタッフの愛が細部まで宿った、ファンによるファンのためのスマホゲーム

カードイラストのアイデアはスタッフが自主的に提案してくれる

──実際にゲーム制作を進めてみて、苦労されたポイントや、悩んだことはありますか。

臼井 武井先生の「SHAMAN KING」が好きだからこそ、オリジナルのストーリーやイラストを作ることの難しさはスタッフ全員が感じていると思います。ただそれでも愛情をこめて、「SHAMAN KING」に寄り添って作っていくしかない。そのために吉田編集長ともいろんな相談をしながら「ファンの方がもし『SHAMAN KING』の世界に行ったら、葉くんたちとどういうふうに接していくのか」というコンセプトを突き詰めて作っているところです。

──ファンであるからこその悩みですね。逆に「ファンだからここまでがんばれた」ということはありますか。

ゲーム「SHAMAN KING ふんばりクロニクル」より。

臼井 例えば竜さんの3Dモデルにはリーゼントが割れる仕掛けを施していて、実装するのはすごく大変だったんですけど、ここはこだわったところです。開発中は「これはちょっと無理じゃないか」「これは面白いけど、実装するには工数がすごいかかるな」と思うことが何度もありましたが、葉くんが言う「なんとかなるって なんでもやってみなきゃ始まんねえだろ?」など、作中の言葉やキャラの生き様に背中を押され、実現したものは多いと思います。

──小ネタがちりばめられていると、ファンとしてもうれしいですよね。ほかにゲームで注目してほしいポイントはありますか。

臼井 1つはシナリオの演出に“Mangatic”という形式を採っているところです。背景画とキャラクターの立ち絵を組み合わせた“紙芝居”でシナリオを展開するパターンはよくあると思うんですが、「SHAMAN KING ふんばりクロニクル」のシナリオパートではコマや吹き出しを使った演出を採用していて、ほかにはない没入感を感じられるようになっています。

──シナリオ面でいえば、キャラクターとの親愛度が上がると読めるようになる「したしみエピソード」というオリジナルストーリーも面白そうです。

臼井 「したしみエピソード」の中でも特にイチオシなのは、チョコラブと落語をモチーフにしたエピソードです。落語は人間の醜さや業を、面白おかしい話の中で描きつつ戒める側面があると思うんですけど、そういう落語の在り方とチョコラブの“笑いの風”をリンクさせるような話になっているんです。「チョコラブはただのギャグキャラだよね」で片付けず、キャラクターの内面を掘り下げたシナリオを作っています。

──また、バトル映像やカードイラストについてはすでに公開されているものもありますね。日笠さんはこういった映像やイラストをご覧になって、いかがでしたか。

日笠 取材前にも臼井さんからいろいろと映像を観させていただいたのですが、キャラクターのお洋服がいいなと思いました。アニメの中では、例えば葉は高校の制服と戦闘服がメインの服装ですが、ゲームでは私服姿を観ることができますよね。あとはアニメで描かれていないところで、葉とアンナがこっそりお忍びデートに行っているかもしれないじゃないですか。そういったシチュエーションでアンナがおめかししている姿なんかも、ゲームで観られたらいいですよね。

臼井 ここにちょうど設定資料がありますよ!(ファイルを広げながら)

日笠 女の子キャラの普段着がすごくかわいい。チャイナ服バージョンもあるんですね。あっ、メイデンの××姿もある!

臼井 はい。今後のイベントでは限定衣装を着た花組メンバーの実装を予定していたり、“らしさ”を大切にデザインしています。

日笠 デザイナーさんのセンスがすばらしいですね。こういったイラストやアナザーストーリーを描いてくださることで、それぞれのキャラクターの新たな一面が見られるのはうれしいです。

──今ちらっとカードイラストが見えたのでお聞きしたいのですが、イラストの構図はどのように決めているのでしょうか。

臼井 今はチームのみんなで考えています。当初は僕が「こういう構図がいいです」とイラストチームに依頼していたんですが、少年心で考えているので、葉や蓮󠄀が技を決めているときのイラストなど、どれも素直にカッコいい感じのものばかりになってしまったんです。そうしたらイラストチームから「もっとキャラの日常や関係性を描きたい」というリクエストが上がってきて、今の形に落ち着きました。そういうイラストの中にはホロホロがピリカと修業しているシーンを描いたものなど、作品にないシーンを題材にしたものもあります。

吉田 作品にないシーンでイラストを作るのは大変ですが、講談社としてもキャラの日常を垣間見られるような作品はファンに届けたいと思っています。

──スタッフが自主的にリクエストをしてきたというエピソードからは、制作現場の熱意がうかがえますね。

臼井 みんなこだわりがすごくて、イラストの最終チェックは僕が担当しているんですが、OKを出しても「これじゃまだホロホロっぽくないですよ」「この潤姉さん、色気足りなくないですか?」といった感じで、イラストチームのスタッフからNGが出ることもあるんですよ。

日笠 すごい、そんなことがあるんですね。

臼井 僕が見落としてしまうところも、スタッフのみんなが気付いてよりよい形にしてくれるんです。

たまおになりきってモジモジしていた

──キャラクターの3Dモデルは武井先生が細かくチェックしたそうですが、日笠さんはご覧になってみていかがでしたか。

日笠 アニメーションは平面ですが、ゲームは3Dなので「あ、なるほど、うしろから観るとキャラクターのここはこうなっているのか」という発見がありました。動いている映像を観ていると、愛情を込めて作ってくださっているのがわかります。原作を読んでいる人には、絶対にその愛が伝わると思いました。

臼井 ありがとうございます。個人的に3Dモーションを発注する仕事は初めてだったので大変でした。葉くんは普段どういうポーズを取っているんだろう、真空仏陀切りのときはどうやって斬っているんだろう、憑依合体のときはどんな顔をするんだろうといったことをしっかり考えて指示書を作らなければいけない。だからたまおになりきってモジモジしてみたり、蓮󠄀の真似をして傘を振り回してみたり……そういう自分の姿を夜な夜なスマートフォンで自撮りして動きを確認していました(笑)。

日笠 (笑)。私もやっぱり憑依合体の演技をするときに、動きをしっかりイメージするよう、音響監督さんにアドバイスされました。声のお芝居でも3D映像でも、キャラクターを表現するうえで動きは大事なんだろうなと思います。

──日笠さんはこれからゲーム音声を収録していくそうですが、アニメとゲームで収録の形もかなり変わるものなのでしょうか。

日笠 アニメのアフレコはほかのキャストの方々と一緒に録ることが多いのですが、ゲームの収録は1人で黙々と録っていきます。ほかのキャストとの掛け合いの中で初めてキャラクターが掴めてくることもあるのですが、幸い葉の演技は長い時間をかけてアニメで作ってきているので、ゲームの収録には自分とキャストの皆さんを信じて臨みたいと思います。

臼井 僕らが約1年半かけて作ってきた葉くんに日笠さんの声があたるだけでうれしいです。阿弥陀丸との掛け合いの箇所など、楽しみにしています。

──今日はたっぷりお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後にゲームのリリースを待っている皆さんへ、一言ずつメッセージをいただけますか。

吉田 すごく熱意のあるスタッフの方々が作ってくださって、ほぼフルボイスになっているなど、要素盛り盛りのゲームになっています。ファンだけでなくこれまで「SHAMAN KING」に触れたことがない方にとっても遊んでいて楽しいゲームになっておりますので、ぜひインストールしてください!

臼井 繰り返しになってしまいますが、3Dモデルもイラストもシナリオも、すべて愛情のあるメンバーが作っていて、その点については自信を持っています。吉田編集長や日笠さんをはじめとした方々の作品にかける覚悟を受け止めて、「SHAMAN KING」の新しい世界をしっかり作って、届けていきたいと思っていますので、どうぞよろしくお願いします!

日笠 アニメとはまた違った世界の新たな葉を演じる機会をいただけることがとてもありがたいです。今日初めて臼井さんからお話を伺ったんですけれども、ものすごい情熱と作品愛を感じて、私も安心して収録に臨めそうだなと思いました。私が資料を観させていただいて感じた「キャラクターの衣装がかわいいな」「アニメでは観たことのないイラストが観られてうれしい」という気持ちは、ファンの皆さんにも絶対に感じていただけると思うので、自信を持っておすすめしたいです。ぜひプレイしてみてください。

左から吉田守芳編集長、日笠陽子、臼井草太ディレクター。
日笠陽子(ヒカサヨウコ)
7月16日生まれ、神奈川県出身。主な出演作に「魔法科高校の劣等生 来訪者編」(アンジェリーナ=クドウ=シールズ役)、「はたらく細胞BLACK」(白血球<1196>役)、「呪術廻戦」(庵歌姫役)、「憂国のモリアーティ」(アイリーン・アドラー役)など。
臼井草太(ウスイソウタ)
Studio Z所属。「SHAMAN KING ふんばりクロニクル」ディレクター。
吉田守芳(ヨシダモリヨシ)
少年マガジンエッジ(講談社)の編集長。武井宏之の担当編集者。