芦原妃名子 画業25周年特集「セクシー田中さん」横澤夏子インタビュー|あの頃「砂時計」に夢中になったあなたへ捧ぐ 女性にかかった“私なんて”の呪いを解く最新作

「おばさん」という呼びかけにグサッと来た

──田中さんが、朱里を介して知り合った男性・笙野(しょうの)に「おばさん!!」と呼びかけられるシーンは、歳を重ねた女性ならドキッとするシーンです。

「セクシー田中さん」より。笙野に「おばさん!!」と呼びかけられてしまう田中さん。

グサっときました……。私、姪っ子がいるんですが、親戚に「夏子おばさんだよ」って紹介されたときに「私、“おばさん”なんだ!」って、すごく悲しくなったのを思い出しました(笑)。

──おじ・おば関係という意味での「おばさん」呼びにも反応してしまったんですね(笑)。

それと、私が小さい頃はモーニング娘。さんが「LOVEマシーン」などで人気を集めていた頃だったんですが、その頃って、中澤裕子さんのことはみんなグループの“姉御”だと思ってたじゃないですか。そのモー娘。時代の中澤さんの年齢を超えたときに、「ええっ!」って思ったんですよね。メンバーの辻ちゃんや加護ちゃんのみならず、「うたばん」内でもあんなに「おばさん扱い」されていた中澤さん以上の年齢になったんだと衝撃を受けたことも、なぜか思い出しました(笑)。「おばさん」呼ばわりは悪気がなくても女性は傷つくので、笙野にはデリカシーを学んでほしいですね……。

──笙野は36歳独身で、「女性とはこうあるべき!」というバイアスにガチガチに固められていますね。

彼の女性に対する凝り固まった視点やダメっぷりは、これから田中さんや朱里との関係性の中で変わっていきそうなので、どんなふうに成長していくのか楽しみですね。

婚活に焦りまくっていた頃に読んでいたら、人生変わったかも?

──朱里の学生時代からの友人で、友達以上・恋人未満な進吾との関係も、男女間のあるあるを描いていてリアルに感じます。朱里はずっと彼が好きだったけど、酔った勢いで一度身体の関係を持ってしまい……という。

「セクシー田中さん」より。朱里と進吾は、長らく友達以上・恋人未満の関係を続けていた。

わかります。朱里は“本当の田中さん”を知ったことがきっかけになって、少しずつ彼女の中でも変化が起きて、進吾にはっきり物申すんですよね。「私と進吾は 昔 友達だったけど 今は友達じゃないと思う」「ずっと認めたくなかったけど 認めることにした そしたら LINEの返事が返せなくなった」と。

──こういう微妙な関係に悩む女性はものすごく多い気がします。「好きという気持ちを利用された」という現実への直面の仕方を教えてくれるシーンのように感じました。

この作品には、ホントに学ぶべきことがたくさんあります。私も婚活パーティに狂ったように行っていた20代前半で読んでいたなら、人生変わってたかもしれないと思いますね。あんなに切羽詰まってではなくて、もう少し余裕を持って恋愛ができたんじゃないかと(笑)。……だけど同時に、実際にはその頃読んでもたぶん響かなくて、この年齢になったからこそだというふうにも感じます。難しいですよね。

──確かに。朱里は23歳で年齢の割にはまったく夢を見ておらず、リスクヘッジのための“サイアク不幸にならない”レベルの結婚を目指して、合コンばかり行っています。そういえば横澤さんが婚活を始めたのは21歳のときだったということですが、かなり早いですよね?

血迷ってましたね……(笑)。私は新潟出身なんですが、とにかく地元の友達の結婚が早くて、結婚話についていかなきゃと焦りに焦って婚活していました。その頃が朱里の考えているような「女性の年齢と市場価値」みたいなものに一番敏感でしたね。今から考えると、私も朱里のように「自分なんて」って思っていたところがあって。自分が好きな人とはなかなか付き合えない人生だったので、あくまで相手主体で、“気に入られるように”を一番に考える恋愛しかしたことなかったんです。だから朱里の気持ちがよくわかるというか、そのあたりもうまく描かれていて、心がえぐられました。

両極端な女性2人、どちらにも共感できる

──朱里と田中さんは、いろんな意味で対照的な2人ですよね。

まず表面的に“若くてモテる”朱里と、“アラフォーで地味”な田中さんということで両極端なんだけど、中身は別の意味でまた対照的ですよね。キラキラ女子に見えるけど無力感に襲われて世間的な価値に抗わず生きている朱里と、はっきりと目指すところがあってストイックに努力している田中さん、という。

──その2人が出会って、お互いの存在が刺激になって成長していくという化学反応が見どころの1つです。

横澤夏子

さすが芦原先生!と思うのは、自分はどちらのタイプでもないけど、どちらにも共感できるところ。2人とも全然タイプの違う女性なのに、朱里の気持ちも田中さんの気持ちすごくわかる。それがまた不思議ですよね。なんでこんなにも心に響いて、突き刺さるんだろうと思います。「砂時計」もまさに、女の半生を優しくも厳しく描ききった作品ですが、芦原先生がどんな人生を送ってこられたらこんなに響く作品が描けるのか、とても気になりました。

──横澤さんも、さまざまなステージにおける女性の生き方に敏感な方だと感じています。最近では、埼玉の大宮ラクーンよしもと劇場に簡易託児所が設置されたことが話題になりましたが、これは横澤さんが以前から構想されていたことが形になり、横澤さんも実際にそのお手伝いをされたそうですね。

ありがとうございます。今まで劇場でネタをやっていたときに、子連れで来てくださっているお母さんたちが、本番中に子供が泣き出したりして「すみません、すみません」と申し訳なさそうに会場を出ていくのを何度も見ていたんですよね。だったら、劇場にちょっとの間でも預けて、子供のことを気にせず笑ってもらう時間が作れるだけで一気に楽になるんじゃないかと思って。もちろんお父さんも大歓迎ですし、新しいお客さんの層が来てほしいなと思って、お手伝いさせていただきました。