現代の女性たちの性にまつわる悩みがオムニバス形式で描かれる「セックスちゃん」。2022年12月よりコミックシーモアで先行配信され、各電子書店で順次展開されていく。原作を務めるのは、本作で初めてマンガ作りに挑む心理カウンセラーの五百田達成。ネームは「今際の国のアリス」「ゾン100 ~ゾンビになるまでにしたい100のこと~」などを手がける麻生羽呂、作画はさかもと麻乃が担当している。
コミックナタリーでは「セックスちゃん」の配信開始に合わせて、原作の五百田とネームの麻生による対談を実施。一見結びつきそうにないタッグがどのように本作を生み出すことになったのか。また、現代の女性たちが抱く性にまつわる悩みを題材にした物語は、いかにして誕生したのか。2人の作者に話を聞き、作品を深掘りしていく。
取材・文 / 太田祥暉(TARKUS)
「セックスちゃん」あらすじ
失声症を患ってしまい、言葉の代わりにコミュニケーションツールとしてセックスを駆使している史恵は、いろんな男と身体を重ねてきた。しかし、年齢を重ねるごとに相手が減少していく。そこでマッチングアプリを使うのだが、出会った男性は史恵に衝撃を与える考え方の持ち主で……。
友人同士から、物語作りの師弟関係に
──まず、「セックスちゃん」の企画を伺った際に、心理カウンセラーである五百田さんがマンガ原作を務めるということに驚きがありました。もともと創作には興味があったんですか?
五百田達成 そうですね。5年くらい前から創作活動に取り組んでいたんです。脚本の学校にも通って、小説を書いていたんですよ。その中で、友人だった麻生羽呂さんにお話作りを教えてほしいと弟子入り志願して。麻生さんとは共通の知人の結婚式のときに出会って、それ以来親交があったんですが、突然の弟子入り依頼にも麻生さんも快諾してくださった。まあ、麻生さんはお酒でべろべろだったんですけど(笑)。そこからは小説を書いては麻生さんに見てもらったり、脚本の学校での宿題を添削してもらったりしていました。麻生さんが物語作りをしているときに心がけていることを教えていただいたんです。
──麻生さんに弟子入りをしようとした理由はなんだったんですか?
五百田 麻生さんと話が合うことと、好きなものが似ていたことが大きいですね。もちろん麻生さんの作品は読んでいましたし、とてもロジカルな考え方で作品を作っていることを尊敬していました。なぜそういう構成にしたのか、僕の頭に入ってきやすい言葉で説明してくださるんですよ。そんなクレバーな方が近しいところにいるのだから、これは教わらないと損だなと。
麻生羽呂 五百田さんはとても人懐っこいですよね。何か興味を持ったらすぐに輪っかに入ってくる。フットワークも軽いので、すぐに仲良くなりましたよね。なので、五百田さんが「弟子にしてください!」と言ってきたとき、面白そうだったのでOKしたんです。僕にはこれまでマンガを描く中で構築してきたお話作りのロジックがあるはずで、それを五百田さんに質問されて改めて考える……という形でした。初めて言語化することもあったので、自分のマンガ作りにもフィードバックすることがある、楽しい時間でしたね。
五百田 僕が単純に教わりたい癖があるんですよ。教わったらなんでもできるんじゃないかと信じている節があるんです。うまい人から教わるとふむふむと納得して、それを再現する。その流れが好きだし、得意だと自分では思っているんです。
麻生 僕も質問癖があって、パートナーからも「なぜなに小僧」なんて呼ばれているくらいですから、その気持ちはよくわかります(苦笑)。
アイデアの根源は「コンビニ人間」
──そうして麻生さんの弟子となった五百田さんですが、書いていた小説の中の1作が「セックスちゃん」の原型になったそうですね。
五百田 はい。「セックスちゃん」という小説を書いて、麻生さんにお見せしたのが本作の始まりでした。その後、麻生さんに「これを僕がネームにしてみて、Twitterで反応をもらうのはどうだろう?」と提案を受けたんです。僕としてもどのようなマンガになるのか興味がありましたし、ぜひにという気持ちでした。
麻生 五百田さんが書いてきた作品の中で、「セックスちゃん」が一番キャッチーだったんですよ。人の気を引く掴みがしっかりしているなという印象を抱きました。読んでからしばらくして、「今際の国のアリス RETRY」の連載が終わった頃に、ゼロからマンガを作ることはできないけど1本くらい作品をやりたいという気持ちが沸いて。そこで「セックスちゃん」のことを思い出して、五百田さんに「ネームにしてTwitterに上げたいんですけど」と相談したんです。「野湯ガール」を描いたときも同じような流れで連載につながっていったので、もしかしたら出版社からオファーがくるかもと思いながら(笑)。そうしたら、いろいろ巡り巡ってGIGATOON Studioさんで商業連載という形に落ち着きました。
──そもそも、セックスによってコミュニケーションを取ろうとする女性の姿を題材にしたのは、どういった発想からだったのでしょうか。
五百田 僕は芥川賞を受賞した村田沙耶香さんの「コンビニ人間」という小説が大好きで、社会やフェミニズムに関してメッセージ性がありながら、こんな面白く書けるんだなと驚いたんですよ。それを読んだとき、麻生さんが「自分の好きな作品を別のアプローチで書いてみる、というように考えるといい」と言っていたことを思い出して。じゃあ、「コンビニ人間」の現代に生きる女性をエンパワーメントしたいという気持ちを改めて描くとしたら……と考えたとき、語ることがどこかタブー視されがちなセックスを軸にしたらどうかと思いついたんです。
──加えてそこに、五百田さんの心理カウンセラーとしてのコミュニケーション術も絡んでくると。
五百田 コミュニケーションについては、僕が抱えるテーマなんだと思います。普段の仕事では、心理……つまり心の働きとは、人と人が関わって言葉を交わすことで立ち上るということをずっと考えてきました。その中で「セックスが大好き」とおおっぴらに言うことは社会常識的にははばかられつつも、セックス自体は究極のコミュニケーションであると閃いたんです。そのアイデアが合わさって、「セックスちゃん」の物語を小説という形で書きました。
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ドラマ制作に例える作家3人の役割