丸かったキャラの顔を連載では引き伸ばして
──では作画についてもお伺いします。読み切りで発表された作品と「選択のトキ」では、絵柄がガラッと変化していますよね。
読み切り作品ではマンガっぽい絵を描こうとしてデフォルメしていたら、どんどん顔が丸くなってしまっていたんですよね。本当は等身が高いデザインのほうが好きだったので、「選択のトキ」では人物を縦に引き伸ばそうとはしています。
──トキは中性的な顔立ちで、宇宙人と言われて一般的に想像するようなビジュアルよりは人間に寄ったデザインですね。
よくある耳を尖らせたりするのは、テンプレートにハマりすぎていてあまり好きじゃなくて。最初は目ももっと大きくて、パッと見て宇宙人っぽかったんですけどね。
──どうして今のデザインに落ち着いたんでしょう。
トキのキャラクターが掴めてきて。ネームを描いていてもコマの隅でかわいい仕草をしたりして、だんだんと勝手に動き出すというか遊ぶようになってきたんです。そういうかわいらしい性格とキャラクターデザインをリンクさせて、あまり宇宙人風ではない、もっと柔らかいビジュアルで大丈夫なんじゃないかと。
1年間イメトレを続けて画力を向上させた
──「選択のトキ」ではキャラはもちろん背景なども読み切り作品より描き込まれていて、画力自体もかなり向上しているのではないかと思うのですが。
担当 (頷きながら)スクエアの作家さんにも「最近『選択のトキ』ってマンガが始まったじゃないですか。過去の読み切りも見たんですけど、たった1年でなんでこんなに絵がうまくなってるんですか?」って質問されますし、ほかの編集部の編集者からも「なにをやったの」って聞かれるんですよ。
(笑)。……でも連載までの1年間は模写もデッサンも全然してないんですよ。どちらかと言うと、イメトレですかね。
──イメトレ……ですか?
好きな絵柄を見て、頭の中で「こういう線を引っ張ったら、こういう絵になるんだ」っていうのを整理するというか。
──それは後ろの本棚に並んでいるような作品を見て?(インタビューは群千の仕事場で行われた)
そうですね。自分は桂正和先生や三浦建太郎先生、村田蓮爾先生の絵が好きなんですが、たとえば「こういう表情はこの顔の角度で描いているのか」とか「人物の線を1本だけじゃなく、重ねるとこういう感じになるのか」みたいなことをひたすら考えて。人のマンガを読んでいるときも、同じページを長い時間眺めて「ここはこうなっているんだ」と確認することが多かったです。
──マンガの教本には「模写やデッサンが大切」と書いてあるイメージがありますが、頭の中で絵について整理するだけで絵がうまくなるものなんですか?
確かに教本を読むと、量が大切って書いてありますよね。ただ自分の場合、模写をしていても何も考えないで描いてしまって、ただの反復練習になるというか量だけ増えてしまいそうだったので。
──マンガ家志望者にとっては、それまで言われてきたようなことと真逆に近いような話かもしれませんね。
担当 持ち込みに来る新人に言うことが変わるかもしれませんね(笑)。編集者の立場から画力の向上に関して言えるのって、「毎日デッサンと模写をひたすらやりましょう」ってことだったので。
もちろんたくさん描いたほうがいいと思うんですけどね。ただそれだけだとつまらなくなってしまうから、好きな絵を自分の中で咀嚼するというか、漠然としていたものを具体的にするのが大切なんじゃないかと。
──画力を向上させるのに、ほかにはどのようなことをされていたんですか?
自分で描いた絵を床にジャンルごとに並べて、「意識にできていること」「意識的にやっていたのに描き終えてみると全然できていなかったこと」なんかを分析したりもしました。
──具体的にはどういったセールスポイントや課題が挙がってきたんでしょう。
カラーイラストで言えば、「赤を使ったときにくすんだ色になってしまいがちなので、原色を生かした塗り方を考えよう」とかってことですね。あと自分は絵を細かく描くのが好きなんですが、連載が始まって毎月の締め切りができたらすべてを細かく描いているわけにはいかないので、どの部分を省エネでして描いたら全体を細かくできるかを考えたり。
──今後「選択のトキ」の絵がどのように変化していくのかも楽しみです。では最後に読者へのメッセージをいただけますか。
1冊読み終わった後に「読んだな」って満足感も出してもらえるようにがんばったつもりなので、ぜひ手に取ってもらえるとうれしいです!
- 群千キリ「選択のトキ①」 / 集英社
高校2年生の夏休み。ある日、自転車に乗っていた光晴は宇宙船と衝突し気を失ってしまう。目を覚ますと、目の前にはカーマイン星のトキと名乗る美しい宇宙人が座っていた。カーマイン星人は生まれた時には性別がなく、性を選ぶために地球を訪れたという。そして、その選択を光晴に任せようとする。トキを男「友達」にするか女「恋人」にするか、選択と青春の日々が始まる…!
- 群千キリ(グンチキリ)
- 千葉県出身。ジャンプスクエア(集英社)が主催するクラウン新人漫画賞の第30回で「レイヤーコールミー」が佳作を受賞。「とみとバラ」がジャンプSQ.CROWN 2016 WINTER(集英社)に掲載されデビューを果たす。その後「レイヤーコールミー」のほか読み切り「スリーサイズ」「Xの中で戦う」をジャンプスクエア、ジャンプSQ.CROWNで発表。2017年よりジャンプスクエアで「選択のトキ」を連載している。