2021年10月クールで放送され人気を博したアニメ「先輩がうざい後輩の話」が、現在TOKYO MXおよびBS11にて再放送中だ。小柄な若手社員・五十嵐双葉とその先輩社員・武田晴海の関係を軸に描かれるラブコメディで、本放送中はそんな彼らの姿に笑わされながらも癒される視聴者が続出。しろまんたによる原作マンガも好調で、5月25日には最新第9巻が発売される。
コミックナタリーでは双葉を演じた楠木ともりにインタビューを行い、改めて作品を振り返りながら魅力や見どころ、アフレコでのエピソードなどをネタバレ満載で語ってもらった。また、本作への出演が楠木自身にどのような影響を及ぼしたのかを現在の視点で分析。作品のみならず、そこに関わる人たちからも何か大きなものを得られたようだ。
取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / 曽我美芽
ヘアメイク / 大久保沙菜スタイリスト / 森俊輔
双葉は自分に深く刻まれたキャラクター
──放送が終わってけっこう経ちますが、改めて「先輩がうざい後輩の話」はどんな作品だったと思いますか?
私にとっては、五十嵐双葉というキャラクターを通して本当にたくさんの方に楠木ともりという名前を知っていただけた作品です。「双葉ちゃんの声をやっている人だ」と言ってもらえる機会も多く、いろんな意味で自分に深く刻まれたキャラクターだなと感じています。こういう、何か大きな使命を背負っているわけではない身近に感じられる日常を描いた作品を演じること自体がすごく久しぶりでしたし、自分自身の日常にも深く干渉してきてくれた作品だったなと思います。放送されている期間は、双葉たちの姿を見て私も楽しい気持ちになったり癒されたり、「お仕事がんばろう」と思えたりとか。
──確かに楠木さんは物語における“特別な女の子”を演じることが多いイメージがあります。双葉はどちらかというと親近感の持てるキャラクターですよね。
本当にどこかで生きているんじゃないか、糸巻商事が存在しているんじゃないかと思えるような日常感ですよね。ただ、これは武田先輩役の武内(駿輔)さんもおっしゃっていたことなんですが、そういう中にもどこかアニメやマンガでしかあり得ないような描き方も紛れていたりして、そのバランスがすごく素敵な作品だと思います。自分たちの日常にも、ちょっと非日常的なワクワク感があるような気がしてきます。
──そもそものお話も伺いたいんですけど、オーディションにはどんな心構えで臨まれたんでしょうか。
双葉は、気合いが入りすぎていない感じがいいというか、すごく自然体なところが魅力のキャラクターだと思うんです。なので、もちろん「絶対に双葉役を勝ち取りたい」という思いはありながらも、あまり気負わずに受けようと思った記憶があります。
──へえ、それは興味深いです。
変なところですごく適当だったり、逆にがんばりすぎて空回っちゃったりもする子ですよね。ある意味“遊べる”役というか、自分でいろいろ挑戦できるキャラクターという印象があったので、テープでもスタジオでも「自分が思いつく限りのニュアンスを聞いてもらおう」という感じで臨みました。すごく楽しんで受けられた気がします。
──いろんなパターンの双葉を用意して、その中からイメージに合うものを選んでもらった?
そうですね。ただ、オーディションでもアフレコでも「こうしてください」みたいなディレクションはそこまでなくて。持っていったものを割とそのまま受け入れてもらえたので、結果すごく自由度の高い、自然な演技になりました。こういうかわいい絵柄の作品だとついつい“アニメ芝居”というか、デフォルメしてアニメらしさを強調してしまいがちなんですけれども……もちろんシーンによってはそれが必要になる局面もありつつ、基本は素のしゃべりに近かったと思います。
──以前武内さんにお話を伺ったとき、楠木さんのお芝居について「技術でやってしまわずに自然な演技をしていたのがよかった」とおっしゃっていたんですが……。
うれしいです。
──そこはご自身でも意識していたことなんですね。
かなり意識していました。意識している時点で「それは自然なのか?」って話になっちゃいますけど(笑)。今のアニメってすごく自然なお芝居か、ものすごくデフォルメしたアニメ芝居かのどちらかを求められるものに分かれる印象があるんですが、その中で「先輩がうざい後輩の話」は比較的ナチュラルなものを要求される作品だったと思います。
──先ほど「ディレクションがそこまでなかった」というお話もありましたが、実際の収録中にも音響監督さんからの注文などはあまりなかったんですか?
もちろんあるにはあるのですが、大幅な方向性の修正ではなくて、ニュアンスの微調整をしていくような形でした。双葉は本当に表情がコロコロ変わるので、「このシーンはこの顔になる予定なので、この雰囲気で演じてください」といったように画からイメージを得てすり合わせることが多かったです。
──なるほど。「セリフの内容がこうだから」というよりは「表情がこうだから」という。
そうです。もちろんどっちもあるんですが、どちらかというと表情合わせの指示をいただくことが多かった気がします。自然にやっていると、たまに出てくるアニメっぽい表現に追いつけないときがあるので、「そこはもうちょっとデフォルメした表現に」という意味なのかなと解釈したりとか。
──実際に演じていて、何か苦戦したセリフなどはありました? あるいは逆に手ごたえを感じたものとか。
セリフとかではないんですが、キャッチーなダミ声が出せたときは「よっしゃー!」って思いましたね。双葉って、よく叫ぶんですよ。それも「キャー」とかじゃなくて、「イ゛ヤ゛ア゛ー」みたいに濁点が付く感じが多い(笑)。ただ、そこに濁点が付きすぎるとかわいくなくなっちゃうので、キャンキャンしてるんだけどうるさすぎないように、「また聞きたくなるようなダミ声になったらいいな」と思って演じていました。
──“聞きたくなるダミ声”って、すごくいい表現ですね。
ぜひ見出しに使ってください(笑)。全般的には、双葉のお芝居って武田先輩との掛け合いで成り立っている部分が大きいので、武内さんと一緒にアフレコができたのがよかった気がしています。私は基本、武内さんが出してくるニュアンスに返しているだけなんですよ。あまり深く考えすぎず、掛け合いの中で出る自然なリアクションを生かせるように、実はあえて明確な演技プランを持たずに現場に行っていたんです。武内さんに導いていただいたことでいいお芝居ができたのかなと感じています。
ずっとパフェを食べている感じ
──アニメ「先輩がうざい後輩の話」は現在TOKYO MXとBS11にて再放送中で、Blu-rayも今年2月までに全巻が発売済みとなっています。これから初めて観る方や改めて観直そうと思っている方も多いタイミングかなと思いますが、どんなところに注目して観たらより楽しんでもらえると思いますか?
この作品って、ずーっと日常ではあるのですが、ずーっとパフェを食べている感じというか(笑)。いいシーンが多すぎるので、ポイントを絞るのは難しいですね……。
──なんなら全部が名場面集みたいな作りになっていますしね。
そうなんですよ! その中で、双葉目線で言うとしたら……キャンキャンしていないときの双葉を観ていただきたい気持ちがあります。第1話のラストで武田先輩に「奥さんじゃダメなんですか?」と口走ってしまうシーンや、そこで照れちゃって何も言えなくなって、モノローグがうるさくなるときの双葉が本当にかわいいので。
──双葉目線以外だと?
作品全体で言うと、おじいちゃんがちょっと異質な存在で。私、おじいちゃんが出てくるとちょっと前のめりになって観ちゃうくらい大好きなんですよ。大塚(明夫)さんの演技も優しくて面白くて最高ですし。普段は双葉たちのかわいさを堪能していただきつつ、たまに飛んでくる爆弾のようなおじいちゃんを楽しんでいただきたいなと。
──風間&桜井ペアに関してはどうですか?
武田&双葉と違って、あの2人は“進展する2人”なんですよね。武田と双葉は“進展しない”ところが魅力で、ずっと変わらない距離感のもどかしさがいいなと思うんですけど、それに対して風間&桜井はちゃんとデートもしてくれるし、関係が進んでいくドキドキを味わえるんです。武内さんとも話していたんですが、あの2人のほうが双葉たちよりも主役カップルっぽいんです(笑)。
──あの2人は一般的な意味での美男美女でもありますし、確かに主人公感は強いかもしれないですね。
「ベタに」という言い方が合っているかわからないですが、視聴者の期待通りに進展してくれるカップルだなと思います。一番「そうなってほしかった!」を見せてくれる2人というか。双葉たちがまったく進展せずにいるモヤモヤを、あの2人を観ることでスッキリ晴らしていただければと思います(笑)。
──具体的におすすめのシーンはありますか?
風間と桜井はしょっちゅうイチャイチャしてますから(笑)、どこを観ていただいてもいいのですが……あえて挙げるとしたら第5話です。バレンタインのときの2人がなんと言ってもかわいいです。風間の勘違いから一瞬ケンカっぽくなるけど、最終的には「よかったねー」という流れに落ち着くっていう。あとは年越しのエピソード(第4話)もいいですね。桜井が風間を家に呼んで一緒に年を越すんですが、桜井にはそういう思いきったことをしちゃう一面があるんです。
──第8話の水族館回なんかは、ほとんどあの2人が主役でしたよね。
あれ、ずっと武内さんと文句を言ってて。「主役の座を返せ! セリフが少ないぞー!」って(笑)。
──(笑)。
武田と双葉はデートなんてしたことないですから。2人で行動することは多いんですが、デートらしいデートは一切してくれない。ごはんにはよく2人で行くし、家で映画を観たりもしていましたけど、お出かけするとなるとだいたいみんなで集まるパターンなんです。
──言われてみれば確かにそうですね。そんな武田&双葉のおすすめシーンはありますか?
そうですねえ……ありすぎて選ぶのが難しい(笑)。あ、第3話のクリスマス! あのときの双葉はとにかくいじらしくて、武田先輩へのプレゼントを買ったはいいものの渡すに渡せないという、なかなか行動に移せない女の子のドキドキ感が描かれていて好きなんです。それに対する武田先輩の手ごたえのない反応も含めて、あのエピソードはこの2人を象徴しているなと思います。
──双葉がなんとか渡したネクタイを、武田は最初着けてこないんですよね。
そう! そういうところも「あー、進まないなこの2人」っていう(笑)。そこがすごくいいなと思いつつ、そのあとの第4話ではお互いに風邪をひいてしまって看病をし合うんですよ。普段はあまり気を遣う素振りを見せない武田先輩がちょっと気を使ってくれたりと、お互いがお互いを大切に思っているところが描かれています。この第3話から第4話の流れが私はすごく好きです。
──アニメのあとも原作マンガは続いていますが、「今後、双葉たちのこういう姿を見たい」という願望は何かありますか?
原作では、双葉に後輩ができたんです。ブラック企業から糸巻商事に転職してきた奥寺もみじちゃんという、ちょっと人間不信気味の子なんですが、そんなもみじに対して先輩っぽく振る舞う双葉が私はすごく好きで。武田先輩から教わったことを今度は双葉が後輩に伝えるのって、エモいじゃないですか(笑)。そんな双葉も演じてみたいですね。
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キャストの取材に顔を出す原作者なんて聞いたことない