社会人だって、学生のような恋愛をしたっていい
──ここで、原作のしろまんた先生が対談の様子を見に来てくださいました。
しろまんた お邪魔します(笑)。
大塚 先生、ひさしぶりー。
しろまんた 明夫さん、ご無沙汰しています! 皆さんのおかげで、アニメもめっちゃ順調で。ありがとうございます。
大塚 評判いいみたいですよね。
武内 動画工房さんも本当に力を入れてくださっているのが伝わってきますし。しろまんた先生の作品が魅力的だからこそ、みんなが「もっといいものにしたい」という気持ちになった結果だと思いますよ。
しろまんた いやあ、めちゃめちゃいいことを言ってくれる(笑)。それこそ声優さんにしても、最初にオーディションとかで声を聞かせていただいたときに「よいかもしれないな」と思った方々ばかりがやってくださっていて。
武内 明夫さんに関しては最初から言ってましたよね。
しろまんた そう、おじいちゃんに関しては描いているときから頭の中では明夫さんの声で再生されていたので(笑)。
大塚 それは演じるのが楽なわけだ。
しろまんた あははは(笑)。視聴者の方の反応を見ても、「声に違和感がなさすぎる」みたいな感想がたくさんあって。
武内 ありがたいですね。
──作品の魅力がアニメ制作陣の意欲を高めているというお話が出ましたけど、武内さんと明夫さんからもそれは大いに感じます。正直、今日の取材でこんなに濃いお話がたくさん聞けるとは想定していませんでしたから(笑)。
武内 特に僕が脱線しがちっていう(笑)。語りたくなる作品であることは間違いないですね。
──具体的に、この作品ならではの魅力ってどういう部分だと思いますか?
大塚 しろまんた先生、どうですか?
武内 ハハハハ!(笑)
しろまんた 俺ですか?(笑) 自分ではあまりわからないですけど、基本的に「悪い人を出したくない」とは思っています。「不安のない世界がいいなあ」という気持ちで描いていますね。「社会人だって、学生のような恋愛をしたっていいんだよ」というような。
武内 僕が思うこの作品の一番いいところは、自分の職場を見直せるところですかね。仕事ってどうしても「大変なもの」という感覚があると思うし、実際つらいことのほうが多かったりもすると思うんですけど、この作品では仕事の楽しさであったり、周りの人との関係性をすごく魅力的に描いているので。この作品に触れることで、「そういえばあの人、こういうところで気遣いしてくれる人だったな」みたいに改めて気付けることがたくさんあると思うんです。
大塚 いいところを拾っていかないと、人生が嫌なことだらけになっちゃうからね。
武内 ご時世的にも、今ってけっこう攻撃的だったりするじゃないですか。その中でこういう作品が人々に刺さったというのは、「さすがにみんな批判し疲れたよね」みたいなことなのかなと。「人の揚げ足を取るよりも、褒めたほうがいい気持ちになれるよね」という部分で現代人に刺さりやすかったのかなと思います。
大塚 みんなが「隙を見せないように、見せないように」ってがんじがらめになっている世の中ですけど、この登場人物たちはみんな隙だらけだからね(笑)。
しろまんた 実際、「もうちょっと肩の力を抜いて過ごしてみてもいいんじゃないでしょうか」というような気持ちはありますね。
“悪いポイント”のない作品
──そういう作品が、それこそTwitterから出てきたというのもすごく示唆的ですよね。
武内 ああ、確かにそうですね。
大塚 Twitterなんて、毒があふれ返っているじゃないですか。
しろまんた 人のアラを探してばかりだと疲れちゃうだろうなと思うんですけど……。ただ、以前はTwitterで怒っていたような人が「先輩がうざい後輩の話」を見ていく中でいつの間にかまろやかになっていたりもして(笑)。それが作品の影響だとしたらうれしいなと思っているんですけど。
大塚 素晴らしい!
──ある種のワクチンみたいなものとして、今の世の中に必要とされているマンガなんだと思います。
しろまんた だとうれしいですね。
武内 今の話を聞いていてちょっと思ったんですけど、最近の大ヒット作の傾向として、「悪いポイントがない」というのが共通してあるなと思っているんですよ。それは「先輩がうざい後輩の話」も同じで、「悪いところを挙げろ」と言われても思い付かないんですよね。アラがないように作られているというのがすごく現代的だし、プラスの方向でしか語れないエネルギーを持っている作品だなと思います。
大塚 僕ら昭和世代の人間にとっては、アニメーションといえば「戦い」でしたから、世の中は変わってきているなと感じますね。僕なんかはそれで育っちゃってるから、平和なアニメーション作品が出始めた当初は「こんな話、ドラマチックじゃないじゃん」と思うようなこともままあったんですけど、最近は歳を取ったせいもあるのか「みんな仲良くしようよ」みたいな気持ちが出てくるものですから(笑)、こういうアニメは心地いいですよね。
しろまんた ただただ趣味で描いていたマンガがここまで大きくなったのは、本当にファンの皆様とアニメを制作してくださった皆様、キャラに命を吹き込んでくれた声優さんたちのおかげなので。関係各所には本当に感謝しかないです。
武内 でも、マンガ家って本当にすごいと思いますよ。全部1人でやっているんですからね。ストーリーから演出からセリフから、絵まで描いて。よくできるなあと。
大塚 見事なゼロイチだよね。
しろまんた いやあ……ありがとうございます。
大塚 しろまんたくん、また遊ぼうね。
しろまんた 遊びましょう! ぜひ武内さんも一緒に。
武内 そうですね。このご時世なので、オンラインゲームとかで。
しろまんた ゲームなら任せてください(笑)。
プロフィール
武内駿輔(タケウチシュンスケ)
9月12日生まれ、東京都出身。81プロデュース所属。主な出演作に代表作に「アイドルマスター シンデレラガールズ」(プロデューサー役)、「ダイヤのA」シリーズ(結城将司役)、「KING OF PRISM」シリーズ(大和アレクサンダー役)、「彼方のアストラ」(ザック・ウォーカー役)、「灼熱カバディ」(伊達真司役)などがある。
Jack Westwood (@jwamadeus) | Twitter
大塚明夫(オオツカアキオ)
11月24日生まれ、東京都出身。マウスプロモーション所属。主な出演作は「ブラック・ジャック」シリーズ(ブラック・ジャック役)、「攻殻機動隊」シリーズ(バトー役)、「モブサイコ100」(エクボ役)、「バキ」(範馬勇次郎役)、「Fate/Zero」(ライダー役)など多数。洋画の吹き替えではスティーヴン・セガール、ニコラス・ケイジなどを担当。
しろまんた
10月20日生まれ。2014年にSNSにイラストやオリジナルマンガの投稿をスタートさせる。2017年よりTwitter、pixivにて発表されている「先輩がうざい後輩の話」は、2018年から一迅社より単行本の刊行がスタート。同作は「次にくるマンガ大賞 2018」Web部門の1位、「WEBマンガ総選挙2018」の8位を獲得している。