理想的な先輩後輩関係とは
──この作品は、後輩・双葉と先輩・武田の関係を軸に描かれるお話です。この2人の関係性については、どんなふうに見ていますか?
大塚 女の子と男の子ということでああいう形になっていますけど、非常に自然な関係性じゃないですかね。
武内 お互いがある種自然体というか。双葉自身も自然体であるからこそ恥ずかしがったりするわけだし、武田はもともと裏表のない人間ですし。「先輩だから」「後輩だから」ではなく、お互いがフラットに接している。すごくいい関係だと思っていますね。
大塚 かわいらしい。
武内 そうですね! かわいらしいです。
──明夫さんと武内さんも、かなり離れてはいますけど先輩・後輩関係ですよね。おふたりはそもそも、先輩や後輩と接するのは得意なほうですか?
大塚 得意不得意とか、あるのかな? どの世界でもそうだと思うんですけど、対人能力が低い人は厳しいと思うんですよ。貪欲でありたいと思うならば、その壁は越えたほうが結果的に効率はいいですよね。そこを超えてこようとする後輩は僕もかわいがりたくなるし、自分自身も先輩に対しては「無礼かな?」というギリギリのところを意識的に狙っていってました。それで「バーカ」って言われたりね(笑)。
武内 僕なんかは逆に、近い年代の先輩に対する反骨心みたいなところでやってきちゃった人間なので(笑)。「なんでこうなんだ!」「俺がこうしてやる!」みたいなエンジンでがんばってきちゃったタイプなので、敵を作ってしまったところもあるんですけど……。
大塚 同時代にやっている人はね、やがて勝負がついて、消えていく人は自然に消えていくだけなんで。だったら、できるだけ仲良くしたほうがいいんじゃない?
武内 それ、3、4年前の自分に言ってやりたいです(笑)。逆に自分に後輩ができていくとなったら、明夫さんのように歩み寄ってくれた人に対しては拒絶することなく、なるべくコミュニケーションを取っていきたいなと思います。
大塚 そのほうが得だよね。損得で語ることでもないけどさ。
武内 そうですよね。あと、単純に新しい世代の話はすごく面白いというか。「時代は進んでるんだな」と思えていい刺激になるし、どうしたって時代を動かしていくのは自分より下の世代なんで、なるべく彼ら彼女らのやりたいことをサポートしてあげられる先輩になりたいなとは思いますね。
大塚 そうだね。今の時代、すぐ「空気読めよ」とか言われたりするじゃない。でもね、「役者がスタジオに来て、空気読んでどうすんだよ」と思うんだよね。バラエティ番組に出てるんじゃないんだからさ。むしろ我々は空気を作ったり変えたりしていくことを意識していないといけないんじゃないかなと思う。イベントとかだったらまた別の話だけど、作品と向き合うときにはね。
その人の“芯”で勝負しないと、つらくなっていく
武内 昔、とあるアニメ作品で初めて明夫さんとご一緒したとき……。
大塚 モブで来てたね。
武内 覚えていてくださったんですね! 端役で行ってたんですけど、そのときに明夫さんが「お前、いい声だな。大切にしろよ」と言ってくださって。それがすごくうれしかった。
大塚 そんなにカッコつけてないよ(笑)。でも、そこには落とし穴があってね。「声がいい」と人から言われることで、その気になると危ないんだよ。君は本当に立派な刀を持ってるから、その刀に振り回されないようにがんばってな。
武内 ありがとうございます! 僕も僕なりに葛藤しながらやるようにしています。ちょっと話が逸れちゃうかもしれないですけど、僕らの世代って技術力の高い人がすごく多くて。技術があればどんな現場でも一定のクオリティを出せるから、そういう人が起用されやすいし、求められている部分でもあるんですけど、逆に技術でどうにかしちゃいがちというか。「今ちょっと“うまくやろう”としちゃったな」みたいな……そこは気を付けています。
大塚 それなら安心だわ。いらんことをしないでそのまままっすぐ行けるかどうかが大事。
武内 明夫さんをはじめとした先輩世代の方々って、「普通にしゃべっている」と言ったら変ですけど、余計なことを何もしないすごさがあるんですよ。今はノウハウが確立していて、例えば吹き替えで「セリフが『ん』で終わってるけど役者の口が開いている場合は、こういう音を出したらいいよ」みたいな、ある種教科書的な方法論ができあがっているんです。だからそれをマネしちゃえばそれっぽくはなるんですけど、たぶん昔の方々はそこを自分なりの工夫でやっていたわけですよね。技術が先じゃなくて、「自分はこれをどう表現するか」が先にあるから自然なんだと思うんです。僕はそういう、普通にしゃべっている芝居のほうが「いいな」と感じるタイプなので……。
大塚 昔は録ったものを直すのも大変だったけど、今はパソコンでちょっといじればすぐ直せるし、あんまり余計なことは気にしなくていいはずなんだよね。だから、君が言ったようにやるのがベストだと思うよ。
武内 ああ、よかったです!
大塚 逆に言うと、“やらなくていいこと”を削いでいった結果何が残るのかというと、その人の“芯”みたいなものが残る。その部分で勝負しないと、この先どんどんつらくなっていくだろうなと思うよ。そこをどう鍛えていくのかが、若い人の課題になっていくんだろうな。
武内 今はコロナの影響もあって、先輩方と一緒の収録もなかなか経験できないじゃないですか。
大塚 やっぱり先輩の背中を見られないというのはつらいよな。
武内 つらいですね。
大塚 僕らが若い頃はそれこそ、大平透さんやら(納谷)悟朗さん、(小林)清志さん、羽佐間(道夫)さん、もちろん(山田)康雄さん、そういうきら星のごとき人たちがだいたいスタジオに5人くらいはいたからね。そういう背中を見て育っているから僕らは幸せだったんだけど、今の若い人はなかなかそういう経験ができないから、盗もうにも盗みにくいよな。
武内 あと、例えば人に何かを教えるとなったとき、教える側には責任が生まれるじゃないですか。教えたからには自分もちゃんとやらなきゃいけないし、「そいつが何かヘマをしたときは自分が尻拭いをしなきゃいけない」みたいな、そういう風潮が今は生まれにくい。わりと個人戦みたいになっていて。その分、よくも悪くも仕事はやりやすいんですけど、やっぱり人とのつながりの中で学ぶことが一番大事だし、自分自身で気付けることにはどうしたって限界があるので。そこらへんが僕らの課題だなと思います。
大塚 ただ、先輩に教わったからといってすぐに「なるほど」ともなかなか納得しがたいものなんだけどね。あとになってから「あのとき、あの人が言ってたのはこういうことか」と気付くことが一番多いんだろうなと思う。
武内 その経験もたくさんしていきたいです。
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