10月より放送中のアニメ「先輩がうざい後輩の話」は、素直になれない性格の小柄な若手社員・五十嵐双葉と、ガサツで鈍感だが面倒見のいい大柄の先輩社員・武田晴海の関係を描くラブコメディ。原作はTwitterで発表されて話題を集め、ショートエピソード型マンガとしてしろまんたが連載をしている、SNSでも人気の作品だ。
コミックナタリーでは、武田役の武内駿輔と双葉のおじいちゃん役を務める大塚明夫による対談をセッティング。作品の印象や互いの演技について、さらに先輩・後輩関係における2人の向き合い方などを語り合ってもらった。対話は作品への熱い思いから始まり、さらには2人の貴重な声優論が大いに交わされることに。また、対談後半では原作者・しろまんたも参戦し、三つ巴のトークが展開された。
取材・文 / ナカニシキュウ
会社って、大変な場所じゃないんだよ
──「先輩がうざい後輩の話」の第一印象はどんな感じでしたか?
武内駿輔 Twitterに掲載されるマンガということで、1話1話をサクッと読めるんだけど、短い中にも充実感があるお話で。ものすごく現代的だし、バズる理由もすごくわかるなと思っていましたね。僕自身は学生時代からTwitterには触れてきていましたけど、明夫さんがこういうマンガを見てどういうふうに感じられたのかは僕も気になるところです。
大塚明夫 僕はもう老眼だから(笑)、Twitterのマンガは基本あまり見ないんだけど。ただ、この作品はどこかから流れてきたのを見たことがあります。そこですでに「おじいちゃんの声は大塚明夫がいい」みたいな声もあってね。確かに「さも来そうな感じの役だなあ」という印象はありました。
武内 ははは(笑)。それこそ僕の演じている武田なんかは、ファンの方の間で「この声優がいいんじゃないか」といろんな名前が挙がっているのを見たんですけど、おじいちゃんに関しては明夫さん以外の名前を見かけませんでしたから。
大塚 なんでだろうね?
武内 それくらいベストマッチだということですよね。声優をやっていて、「この人以外考えられない」というような役に出会える機会はめったにないですから、僕もいつかそういうふうに言われたいなと思いながら見ていました。
──演じるにあたっては、どんな心構えで臨みましたか?
武内 僕は、なるべく裏表を作らないように、取り繕わずに演じることを心がけました。武田はガタイのいいキャラクターなので、もうちょっと低くて男らしい声色を作るという方向性もあると思うんですけど、それをやりすぎたらウソくさくなっちゃうというか。だったら僕じゃなくて、もっと野太い声の人がやったほうがいい。
大塚 君は十分野太いでしょ。
武内 僕、野太くないですよ(笑)。それはさておき、なるべく自然に、かつ精神年齢を大人っぽくしすぎないように。あまりにも年齢相応の感じだと本当にうざくなってしまうというか、「やかましいことを言ってくるおじさん」みたいになっちゃうので、皆さんが想定している武田の年齢よりもちょっと下めを狙って、双葉と武田の精神的な年齢差をそこまで離さないようにしようとは思いました。
──実際、観ていてもその印象は受けます。ほかの同僚キャラも含めてみんなに同級生感があるというか。
武内 それが作品自体のテーマでもあると思うんですよ。「会社って、大変な場所じゃないんだよ」みたいな。会社という場が楽しいものに映るようには心がけましたね。
アニメの武田は柔らかいイメージ
──すごく身も蓋もない質問になっちゃうんですけど、武田って“うざい”んでしょうか?
武内 ははは(笑)。
大塚 僕は別にうざくないと思うな。
──アニメを拝見していると「先輩がうざい話のはずなのに、この武田先輩って普通に気持ちのいい青年だよな」と感じるんですよ。
武内 なるほど(笑)。僕が思うに、やっていることは変わらないんですけど、アニメのほうがしろまんた先生の描かれている原作の武田よりも柔らかいイメージになっていて「あんまりうざくないじゃん」みたいな見え方になっている部分もあるのかなと思います。
──なるほど。もちろん、武田を「うざい」と表現すること自体が双葉の照れ隠しでもあるとは思うんですけど、むしろおじいちゃんのほうがよっぽどうざいというか。
武内 ハハハハ!(笑) おじいちゃん、いいっすよねー!
大塚 おじいちゃんは、第6話に出番が集中しているじゃないですか。もっと出番を散らして、要所要所でうざさを出してみてもキャラクターとしては際立つのかなとは思いましたね。
──(笑)。その第6話ですけど、武田とおじいちゃんががっつり絡みますよね。収録は一緒にされたんですか?
武内 残念ながら別々だったんですよ。
大塚 別々なんだけど、面白かった。
武内 僕も面白かったですよ。僕の場合は特に、明夫さんが先に収録してくださっていたので。おじいちゃんのお芝居を聞きながらやれたのはありがたかったです。「助けられた」という言い方はアレですけど、“相手”が明確にいてくれたので。
大塚 相手が絵だけじゃなくて、ちゃんと芝居してくれているとやりやすいよね。
武内 そうですね。なので本当に、実際の明夫さんが横にいることを想定しつつ演じました。ありがたいことに以前、別の作品でも明夫さんと戦うシーンを演じたことがありまして。
大塚 あったな。
武内 そっちは本当に殺し合いをするキャラクター同士だったんですけど(笑)。そのときの雰囲気も思い出しつつ、とにかくひと呼吸たりとも聞き逃さないように臨みました。
大塚 武内くんが芝居をしやすいようにやっときました。ははは。
武内 ありがとうございます(笑)。
“おじいちゃん”と“お父さん”の違い
──何か印象に残っている第6話のシーンはありますか?
大塚 全部が印象的ですよね。ゴミを拾ったり魚釣りをしたり、土手でひっくり返ったり。
武内 僕はその土手のシーンですね。お互いが認め合うシーン。と言っても、完全に認めきるわけでもないという(笑)。結局2人は似たもの同士なので、何かにかける思いであったり、双葉にかける思いはある種同じなんですよね。
大塚 双葉に対しては、「あくまでもおじいちゃんであって、お父さんじゃダメなんだよな」というのをすごく思ってね。「おじいちゃんとお父さんの違いは何か」ということをいろいろ考えました。一般的にお父さんがよくやる「娘を溺愛するあまり娘の彼氏に嫉妬する」みたいなことを、普通のおじいちゃんはあまりしないけど、このおじいちゃんはしますよね。それは双葉と2人で暮らしていたからではあるんだけど、そのあたりの特殊さが“本当のうざさ”につながっていない理由なのかなと。
──具体的には、それをどういうふうにお芝居に落とし込んでいくんですか?
大塚 とにかく「教育しようとしない」ことですかね。親ってどうしても責任があるし、「ちゃんとした大人に育ってほしい」という思いが先行して物を言うじゃないですか。でもおじいちゃんはたぶんそんなことは考えていなくて、何か物を言うときも「お前はどう感じるの?」というアプローチから入っていく気がするんですよ。
武内 実際、そういうセリフも多かったですよね。
大塚 支配的じゃないところがいいのかなと思います。例えば娘が悪さをした場合、親は叱りますけど、おじいちゃんの場合は「怖い思いをしたな」とか、悪さをしたこと自体を受け入れてあげる気持ちが先に来る。その関係性が、親子よりもちょっとだけ素敵なのかなというのがありますね。
武内 なるほど……。
──技術論というよりは、実生活で感じたものをそのまま出すイメージですかね?
大塚 それが出ていると感じていただければ幸いですが。かつて手塚治虫先生が「マンガを描きたいんだったら、マンガばかり見てちゃダメだ」というようなお話をされていたそうですけど、同じようなことが我々にも言えるのかな。
武内 そうですね。僕らはあくまで世の中にあるいろんなものをアニメで表現するのであって、アニメで見たものをアニメで表現する仕事ではないですから。世の中でどういうことが起こっていて、どういう人がどういう思いをしているのか、それを代弁するのが演技だと思っています。演技って、ある種のウソなんですよね。エンタメってある意味では全部ウソだから、そこだけをお手本にしてしまうと、ウソをウソで表現することになってしまう。どんどん中身が薄まっていくというか。
大塚 はははは。
武内 声優として、アニメや吹き替えのお芝居を見て学ぶことももちろん大事なんですけど、それはあくまでアウトプットの手段なので。インプットはほかの物事でやるのも大事……で、合ってますか? 明夫さん!
大塚 そうそうそう。
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理想的な先輩後輩関係とは