コミックナタリー PowerPush - 和久井健「セキセイインコ」

「新宿スワン」作者の新境地!物語は満州編へ 色鉛筆を用いて彩られるカラー原稿にも注目

すんげー悩んで出来たのがメモリーっていうキャラ

七が失くした記憶の鍵となるメモリー。

──「満州を描きたい」という思いと、「記憶を操る少年」というアイデアが出来て、そこからはスムーズに。

いや、記憶にまつわる話を描くことになって、最初「記憶を失くした少年」みたいな話でプロットを書いたんですけど、担当さんに「つまんねえ」って言われて。まあ遠回しにですけど。

──ええ。

「こんのやろう」と思って(笑)。そんで、すんげー悩んで出来たのがメモリーっていうキャラ。

──七の記憶を管理している謎の存在ですね。このアイデアはどこから来たんでしょうか。

ロシア語とボクシングの記憶をメモリーから引き出す七。

七は永遠の命を持つ人間だから、それだけ長い間生きてると、記憶ってなくなってくんだろうなと思って。じゃあそれを管理してくれる存在がいたら便利じゃないですか。そんなノリですね。

──実体化した自分の幻覚と会話してるというのも、面白いですよね。

七とメモリーのやり取りを考えたときに、単に心の声との会話だと、独り言みたいになりますよね。それじゃつまんないなと思って、じゃあその幻覚、キャラにしちゃえばいいじゃん、と。

時代に合わせてメモリーのビジュアルを変えていっても面白い

──メモリーのデザインはかなりインパクトありますよね。

メルヘンチックなデザインにしたいなと思っていて。僕、ブライアン・ワイルドスミスっていう絵本作家さんが好きなんですが、その人が「月」をモチーフに色々描いてるんですね。それで僕の中で、メルヘンといえば「月」っていうイメージがあって、そこから。

──満州編では月ではなく猫の姿をしているシーンもあります。

時には猫の姿をしているメモリー。

1、2巻は、現代が舞台なので、ファンタジー感を出すのにメモリーのビジュアルは重要だったんですけど、満州編は衣装とか道具、背景とかでも、ちょっとしたファンタジー感が出せるので、いいかなと。あとメモリーは常に七の隣にいるので、初期のデザインだといちいち存在感がありすぎるんですよね。満州編ではマスコットぐらいの感じで充分かなって。

──でも、すごく可愛いです。

そもそもメモリーは七の幻覚なので、どんな造形でもいいんですよ。むしろ時代に合わせてビジュアルを変えていっても面白い。

七は記憶を得ることで、どんどん変化していくキャラ

──登場人物のデザインも独創的で、こだわりを感じます。

あんまり最初にかっちりデザインを決めることはないんです。ネームを描きながらイメージが固まっていくことが多いので。

──描きながらデザインを考えてるんですか?

ネームの段階でデザインがほぼ決まっている場合と、原稿に入ってから変更する場合と、2パターンありますね。たとえば、5話の最後に出てくる濔時と彌兒は、ネームと原稿で髪型が入れ替わってるんですよ。濔時がおかっぱヘアで。

ネーム 原稿

ネーム(左)と原稿(右)。ネーム時は、濔時と彌兒の髪型が逆だった。

──あ、本当ですね。執筆中に「なんか違うな」って思うんですか?

キャラとしてもうちょっとハキハキした感じにしたくて。おかっぱだと女っぽすぎるなと。

──内面が外見に反映するってことでしょうか。

それはあります。実際にキャラを動かしてみるまでわからないんですよね。ネームにすると性格もつかめてくるので、そうすると自分の中で完全にキャラが走り出すんですよ。

──七のときはどうだったんですか?

七は最初、結構ブサイクというか……もっとクセのある感じで描いてて。担当さんに駄目出しされて、イケメンにしたので。原稿を描き直したこともありました。

──できあがった原稿を描き直したんですか?

そうです。1話目の七が振り向いている絵は、もっと目が細くて表情も暗かったですし、髪もこんなにふわっとしてなくて、病んでる感じでしたね。多分、最初は「スワン」の時の絵に引っ張られてたと思うんですよね。ネームと原稿で見比べてみても顔が違うんですよ。

──あ、ほんとですね。ちょっと表情が乏しいというか…。

七が記憶を亡くした直後でもあるので、表情は難しかったですね。

──記憶が戻ったことで、七の表情も変わっていくんでしょうか。

そうですね。七は記憶を得ることで、どんどん変化していくキャラであってほしいので。実際、最初の頃と満州編とだと、全く顔が違うんです。特に目は、実際にこんな人がいたら気持ち悪いくらいの大きさになるんだけど、満州編ではこれが七なんですよ。

初期の七。 満州編の七。

初期の七は暗い表情だが(左)、満州編の七は自信に満ちあふれた表情(右)。

和久井健「セキセイインコ(3)」/ 2014年10月6日発売 / 610円 / 講談社
和久井健「セキセイインコ(3)」

「新宿スワン」の和久井健が描く、新世紀ミステリーエンターテインメント!! 少年が失った "記憶"。それは、世界が恐れ、そして求め続けた "謎" 。 突如記憶を失った少年、金田七(かねだなな)。 そして時を同じくして、彼の通う高校で起きたとある殺人事件。 何もわからぬ少年は、自らとその事件になにやら関わりがあるコトを知る。 いったい、自分は何者なのか? 少年は、ただ己を知るため事件を追う決意をする。

己が“永遠の17歳”であるコトを知った金田七。その衝撃に再び七は記憶の世界へ。そして時は遡り、記憶の舞台は1938年の満州。そこには、変わらぬメモリーと共に、己をセブンと呼ぶ凛々しき七の姿があった。満州鉄道・特急“あじあ”に乗り込んだ七は、満鉄調査部に所属する赤犬、馬賊の頭領・ストラフと出会う。いったい、ここからの約80年の間に、3人に何があったのか。

和久井健(ワクイケン)
和久井健

2004年9月期の月間新人漫画賞にて「新宿ホスト」で佳作を受賞。これが2005年別冊ヤングマガジン8号(講談社)に掲載され、デビューを果たす。同年ヤングマガジン17号(講談社)より、歌舞伎町で生きるスカウトたちを描いた「新宿スワン」を連載開始。2013年10月に完結し、2015年春には実写映画化を果たす。2013年12月より、早くも連載第2作目となる「セキセイインコ」をスタートさせる。