コミックナタリー PowerPush - 和久井健「セキセイインコ」
「新宿スワン」作者の新境地!物語は満州編へ 色鉛筆を用いて彩られるカラー原稿にも注目
「新宿スワン」で知られる和久井健の最新作「セキセイインコ」は、永遠の命を持つ少年・金田七の、“記憶”を巡るダーク・ファンタジー。現代の裏社会を描いた前作とはまったく違ったテーマに挑んだ、和久井の新境地だ。「自分は何者なのか?」。その謎を追い求め、七は自身の記憶を辿る旅に出る。
コミックナタリーでは、和久井健にインタビューを敢行。仕事場を訪ね、作画に対するストイックなまでのこだわりや、新たに取り入れたカラーの手法、さらに本作が誕生した経緯や裏話に迫った。
取材・文/増田桃子
絵本のような、現実感がなくなる絵にしたかった
──「新宿スワン」とはまったく違った題材の作品で、驚いた読者も多かったのではないかと思うのですが、まず絵の雰囲気が変わりました。特にカラーが絵画のように美しくて。
「スワン」の頃はアクリル絵の具を使ってたんですが、地味な絵だったので、「セキセイ」はもっと華やかにしたいと思って、色鉛筆を使い始めたんです。
──全然、地味じゃないですよ!
いや、色合いがね(笑)。現代が舞台の作品は、どうしても地味な色合いになりますから。それに「セキセイ」の世界観をすぐに受け入れてもらうには、今までと同じ手法使ってたらダメだなと思って。「スワン」を読んでない人にも、興味を持ってもらいたかったから。
──色鉛筆でイラストが上がってきた時は、担当さんもビックリされたそうで。
実はあんまりはっきりした絵が好きじゃなくて。色鉛筆って、塗り重ねていくと微妙な色合いが出せるので好きなんですよ。1巻のカバーで描いたメモリーは、赤と黄色と青の3色しか使ってませんけど、重ねて複雑な色も出せてる。それも色鉛筆ならではだなと思いますね。
──特にこだわっている部分はありますか?
目ですかね。2巻のカバーの七の目は、ビー玉のイメージで塗ってます。ちょっとメルヘンチックな、絵本のような、現実感がなくなる絵にしたかったんです。
良い描き方があればどんどん取り入れていきたい
──3巻では、1、2巻から着彩方法を少し変えられてますよね。
色鉛筆とアクリルを併せて使ってます。最初に色鉛筆で塗ってから、その上に水で薄くの伸ばしたアクリルを乗せると、色鉛筆も伸びるんで、混ぜながら塗ってます。で、その上からさらに色鉛筆で塗り足して。服の素材のタッチとか、キャラクターのアウトラインとか、細かいところは色鉛筆で描き足してますね。
──塗り方を変えたのは、どういう意図があったんでしょうか?
3巻のカラーは、担当さんから「パキっとした、キャラの一枚絵がほしい」っていうリクエストがあって。色鉛筆ってどうしてもふわっとしちゃうんですよね。なので、パキっとした絵ならやっぱアクリルかなと思ったんですけど、前の描き方に戻すんじゃなくて、なんか新しい事やりたいなと思って、色鉛筆とアクリルを組み合わせて描いたんです。
──パキっとしつつも、色鉛筆のカラフルさを活かした絵になってますね。
自分としても、いろんな描き方を試したいなと思ってるんです。より上手くなりたいですし。いい描き方があればどんどん取り入れていきたいんで。
全部線で塗らないといけない
──色鉛筆にして困ったことはありますか?
いやー、全体的に大変になりましたね。だって、全部線で塗らないといけないじゃないですか。
──確かに広い範囲を色鉛筆で塗るのは大変そうです。
絵の具なら一筆で塗れちゃうから早いんだけど。あと、これ結構でかい紙に描いてて。
──どんな紙に描いてるんですか?
紙は普通のマンガ原稿用紙の裏を使ってるんですけど、特別に作ってもらった大きいサイズの原稿用紙があるんですよ(と言って取り出す)。
──普通はB4サイズですが、それの2枚分ですね。こんなサイズのマンガ原稿用紙、初めて見ました。
元々は、マンガの見開きページを描くために作ってもらったものです。原稿2枚を合わせたものだと、つなぎ目にペンがつっかかっちゃうんですよね。
──和久井さんのお名前が入っていますね!
それは頼んでないんですけどね(笑)。
──この大きさだと、確かに時間がかかりそうですね。
3巻のカラーは、全部で1週間ぐらいかかってます。ただ、ずっと同じ絵描いてると飽きてきちゃうんで(笑)、飽きたらやめ、ノったら描き、みたいな感じですね。
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- 和久井健「セキセイインコ(3)」/ 2014年10月6日発売 / 610円 / 講談社
- 和久井健「セキセイインコ(3)」
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「新宿スワン」の和久井健が描く、新世紀ミステリーエンターテインメント!! 少年が失った "記憶"。それは、世界が恐れ、そして求め続けた "謎" 。 突如記憶を失った少年、金田七(かねだなな)。 そして時を同じくして、彼の通う高校で起きたとある殺人事件。 何もわからぬ少年は、自らとその事件になにやら関わりがあるコトを知る。 いったい、自分は何者なのか? 少年は、ただ己を知るため事件を追う決意をする。
己が“永遠の17歳”であるコトを知った金田七。その衝撃に再び七は記憶の世界へ。そして時は遡り、記憶の舞台は1938年の満州。そこには、変わらぬメモリーと共に、己をセブンと呼ぶ凛々しき七の姿があった。満州鉄道・特急“あじあ”に乗り込んだ七は、満鉄調査部に所属する赤犬、馬賊の頭領・ストラフと出会う。いったい、ここからの約80年の間に、3人に何があったのか。
和久井健(ワクイケン)
2004年9月期の月間新人漫画賞にて「新宿ホスト」で佳作を受賞。これが2005年別冊ヤングマガジン8号(講談社)に掲載され、デビューを果たす。同年ヤングマガジン17号(講談社)より、歌舞伎町で生きるスカウトたちを描いた「新宿スワン」を連載開始。2013年10月に完結し、2015年春には実写映画化を果たす。2013年12月より、早くも連載第2作目となる「セキセイインコ」をスタートさせる。