コミックナタリー PowerPush - 長谷川哲也「セキガハラ」
異能×武将=トンデモ戦国絵巻 作者と笑い飯哲夫の空想歴史放談
長谷川哲也インタビュー
昔のマンガみたいに、無茶苦茶な話を描きたい
──まずは「セキガハラ」が生まれたきっかけからお聞きしてもよいでしょうか。
もともとは「関ヶ原もので描いてみませんか」という編集部側からのオファーがきっかけなんですよ。僕の持ち込みとかじゃなくて。
──そうなんですか。
ただ引き受けたものの、もういろんな作家が関ヶ原を題材にし尽くしてますから、やることがないんですよね。なのでこれはもう、子供の頃読んでたマンガみたいに、メチャクチャな話にしてみようと。
──荒唐無稽というか、支離滅裂というか。
そうですね。当時のマンガって今みたいにきっちりしてなくて、読者が戸惑うような展開も多くてひどい作品も多かったんですよ。だからあの頃のマンガにちょっと戻してみようと思いまして。
──そういう作品がお好きだったんですか?
どっちかと言えば、そういうマンガのほうが好きだったんじゃないかな。当時はほんと、石ノ森章太郎さんクラスの方でも結構「なんだこれ?」っていう無茶苦茶なの描いてたんですよ。
──では「セキガハラ」のツッコミどころは、予め意識してらっしゃる。
もう、汚いマンガを目指そうと。ストーリーの顔してギャグを差し込んでいくという、一番生き残りやすい卑怯な手を使っています(笑)。ギャグが入ると口当たりもよくなりますからね。
史実として決まっている結末に、どう着地させるかで驚かせたい
──武将がみんな超能力者という設定をはじめ、「そんなバカな」な要素が盛りだくさんです。
でも最初はここまで超能力バトルものになるイメージはなかったんですよね。連載が始まった後にやっぱり徳川家康を主人公にしたいって言い出すぐらい、正直、最初は迷走してました。
──勢いが先行して始まったような。
先のことも特に決まってないので、未だに五里霧中なんですけどね(笑)。
──とはいえ、ファンタジー要素を多分に含みつつも、ストーリー展開や随所に仕掛けられた小ネタは史実に沿って描かれています。このまま史実通りに話が進むのであれば、大筋はすでに決まっているようなものなのかなと。
最終的には徳川家康と石田三成が関ヶ原で戦って、家康が勝つということになるんでしょうけど、そこに持っていく方法が全然見えてない……。ストーリーをずーっと考えてると、だんだん頭の中で話が関ヶ原の歴史から離れていったりして。
──タイトルで「セキガハラ」と言ってるのに(笑)。「セキガハラ」は煽り文にある通り「歴史なのに予測不能」な作品だと思うのですが、先生自身、先が予測できていないわけですね。
そうですね。でも決着がわかっているからこそ、先が見えない状態からどう結末に持っていくかぐらいのほうがいいんじゃないかなと思うんです。「そんな着地の仕方をするのか」っていう驚きが大きくなりますから。
徳川家康は「鉄人28号」がモチーフ
──先ほど昔のマンガを彷彿させるような、と仰ってましたが、当時読まれていたマンガが影響されているんですか?
かなりありますね。一峰大二さんとか、貸し本時代のマンガだったり。あとは横山光輝さんのマンガですとか。
──具体的には?
例えば筋肉バカの徳川家康は「鉄人28号」をモチーフにしています。横山さんは子供の頃からとにかく好きで。
──長谷川先生に影響を与えた作家なんですね。
横山さんっていうのはプロの仕事をする人で、あんまり自分というものを作品に出してこない人だったんですね。世の中で何が求められているかを考えて、ロボットや魔法少女、番長ものを描いたりして。最後は歴史ものをずっと描かれてましたけど。あそこまでクオリティが安定していた人も居ないと思うんですよね。そういうプロの仕事ぶりにも憧れましたし、時々ちょっとたがが外れるようなところが見えるんですよ。非常に残酷なシーン描いたりとか。そういうところも好きでしたね。
──そのほかに「セキガハラ」で、かつてのマンガらしさを意識されているところはありますか。
そうですね、あとは昔の永井豪をイメージして、エロ描写も入れていきたいなとは思っています。
「セキガハラ」で日本史を勉強しちゃダメですよ
──でも女性キャラが絶対的に少ないですね。
そうなんですよ。編集部にはもっと女性を出すようには言われてるんですけど。ただ女性を増やすとなると、ロリータ風のキャラを出したりクールビューティーを出してみたり、バリエーションを増やさないといけないのも大変で。僕は大概おっぱいの大きい人を描いてしまうので(笑)。
──紅一点といえる淀の方も確かにグラマーです。
しかも女のほうから迫ってくるし。非常に自分の趣味丸出しな(笑)。
──男性読者にはうれしい存在です。今後、史実を変えて話を進めることもあるんですか?
わかりません、今のところは考えていませんが。
──「セキガハラ」は人間関係や起きる事件などは史実通りの部分が多いので、勉強になるところも多々あって。
いやいや、これで勉強しちゃダメですよ(笑)。名前ぐらいならいいですけどね。読んでから後々歴史にふれた時に、「ああ、この加藤清正って『セキガハラ』でトラだったやつか」って覚えやすくはなるかも知れませんけど。
──「セキガハラ」は特にビジュアルが強烈なので、スッと記憶に結びつきそうです。
読んでみてバカバカしいなと思いつつ、どこかで歴史に興味を持つきっかけになったらいいですね。
歴史なのに予測不能の新“戦国”体験──!
本当の戦国は集団戦だけど、こっちはタイマン!
武将=超能力者が夢の対決を繰り広げる!
長谷川哲也(はせがわてつや)
1963年12月7日、長崎県生まれ。九州工業大学を卒業後上京し、マンガ原作者・小池一夫の主催する劇画村塾で学びデビュー。原哲夫のアシスタントを務めた後、歴史作品を数多く発表する。現在、ヤングキングアワーズ(少年画報社)にて「ナポレオン‐覇道進撃‐」、戦国武将列伝(リイド社)にて「セキガハラ」を連載中。