コミックナタリー PowerPush - 長谷川哲也「セキガハラ」
異能×武将=トンデモ戦国絵巻 作者と笑い飯哲夫の空想歴史放談
「ナポレオン‐覇道進撃‐」で知られる長谷川哲也の「セキガハラ」2巻が、12月26日に発売される。本格歴史マンガを思わせる画風ながら、その実態は超能力者の武将たちがタイマンで歴史を動かすという、予測不能な戦国物語だ。
コミックナタリーでは2巻の発売を記念して、長谷川にインタビューを実施。また歴史に仏教に官能と、幅広い知識を持つ笑い飯・哲夫との異業種対談をセッティングし、妄想が妄想を呼ぶ歴史放談が実現した。
取材・文/井上潤哉 撮影/笹森健一
長谷川哲也×笑い飯哲夫 歴史放談
僕は関ヶ原を戦った人の苦労を身を以て知ってるんです(哲夫)
長谷川 初めまして、今日はよろしくお願いします。
哲夫 よろしくお願いします。
長谷川 哲夫さんは歴史好きでいらっしゃるとお聞きしたんですけど、好きになるきっかけは何だったんですか。
哲夫 僕は戦国時代とかより古代が得意なんですけど、なんかね、「天皇マニア」なんですよ、僕。天皇さんって125代居られるんですけど、その125代全部言えるんですね。
長谷川 へえ。
哲夫 高校のときに総理大臣を覚えなあかんっていう試験勉強があったんですけど、僕試験前日まで忘れてて。で、今から覚えるのか……ってなったときに、資料集開いたら天皇さんの系図があって。「せやな、今から総理大臣を中途半端に覚えるんやったら、一生懸命天皇覚えたほうがおもしろいな」と思って。
長谷川 ははは(笑)。より多いじゃないですか。
哲夫 より多いんですよ。めちゃめちゃ多いんですけど、それ覚えたことによってね、歴史に強くなったんですよ。天皇さんがこういうところにおったらこういう時代、こういうところにおったらこういう時代。天皇さんを中心に、頭の中に系図ができたんで。だから関ヶ原の時代って言っても、どっちかって言ったら天皇さんが隠れたような時代なんですよね。なのでそんなに専門的な話はできないんですけど。
長谷川 なるほど。
哲夫 でも僕ちょっとだけ、この関ヶ原の人間はね、どれだけ身体が重かったかっていうのがわかるんですよ。
長谷川 それは実体験で?
哲夫 実体験で。めっちゃ重いのに俊敏に動かなあかんみたいなね。小学校のときの先生が、すごい歴史好きな先生で「鎧っていうのはめちゃめちゃ重かってんぞ」っていうのを教えてくれたんですよね。砂袋みたいなので鎧と同じだけの重りを作って、それを背負って戦争ごっこしようと。
長谷川 いい先生ですね。
哲夫 合計30kgぐらいの砂袋を着けるんです。それで「重い重い」とか言いながら戦争ごっこをして。だから僕は関ヶ原を戦った人の苦労を、身を以て知ってるんです。
偉人たちの能力パラメータは全部、喧嘩の強さに変換する(長谷川)
長谷川 この時代の戦は実際のところどうだったんでしょうね。ナポレオンの時代は割と記述もしっかり残っててわかりやすいんですけど。実は騎兵が馬に乗ってなかったみたいな話もあって。馬には荷物だけ乗せてたんじゃないかというような。
哲夫 へえ。やっぱりみんな相当走って動きまわってたんですかね。あんな重いの背負って。
長谷川 大変だったでしょうね。関ヶ原は武勇が必要だった時代だと思うんですけど、槍で戦うのは怖いでしょうし。
哲夫 怖いですよね。
長谷川 「セキガハラ」だと2巻から加藤清正って人が出てくるんですが、彼は敵が槍を持ってるのを見て、「刀で戦え!」って言って自分も刀を抜いて、敵が槍を捨てた瞬間その槍を取って刺し殺したっていう。そういうユーモラスな汚い話もあるんですよ。
哲夫 名前は「清く正しく」言うてんのにね。全然正しくないですね。
長谷川 武士道がまだ確立してなかった頃なんですよね。まあユーモラスと言えばユーモラスだし、バカ正直に相手してるほうがいかんというか。でもそれでよかった時代なんですね、関ヶ原は。
哲夫 加藤清正は「セキガハラ」だと人じゃなくて、虎になってますよね。姿そのものが。虎に喰われてしまうけど、不思議な力によって虎そのものを乗っ取ってて。
長谷川 加藤清正には虎退治をしたという逸話が残っていて、それが元ネタなんですけど。
哲夫 虎退治の話を知ってるとよりおもしろいですよね。「喰われてもうてるやん」って。そういうユーモアな登場人物ばっかりなんで、読みやすいんですよね。
長谷川 ありがとうございます。なるべくツッコミどころを多くしておこうと思っていて。
哲夫 徳川家康なんか、こんな「筋肉健康バカ」みたいな描き方は珍しいですもんね。家康って一般的に、頼りない雰囲気か、たぬきっぽいポチャッとした感じが多いですもんね。
長谷川 「ナポレオン」を描いてて思ったんですけど、人より何かが秀でてる奴は、単純に強そうに描いたほうがいいんじゃないかと。権力持ってるとか、人格が優れてるとか、頭がいいとか。
哲夫 ああもうストレートに。「偉人度」みたいなものを肉体的な強さに変えるっていうか。
長谷川 はい、そういう能力パラメータを全部喧嘩の強さに変換するんです。で、結局殴り合いで決着をつけるっていう。戦うマンガってとどのつまり、全部腕力に行き着くんじゃないかって思って。
哲夫 「セキガハラ」も武将同士が直で戦いますもんね。先生の中で好きなキャラクターとかいてはるんですか。
長谷川 描きやすいのはやっぱり家康ですかね。筋肉バカなんでそんなに喋らないし、すぐ殴りかかったり、動かすのが楽です(笑)。
肌質ええのが中大兄皇子なんですよ。ザラっとしてるのが鎌足(哲夫)
長谷川 歴史好きということでお聞きしますけど、「歴女」についてはどうですか。
哲夫 ああ、やっぱり、ちょっとでも歴史を喋れる女の子って、すぐ好きになってしまうんですよね。
長谷川 ははは(笑)。
哲夫 こっちが歴史のうんちくみたいなのを言うたときに、めっちゃ真面目な顔で「うんうん」って聞いてくれてるだけで、「あ、この子いい子やなあ」ってほんま思いますね。
長谷川 とある風俗店の女の子のプロフィールを見てたら、尊敬する人に浅井長政って書いてる子がいたんですよ。
哲夫 先生は風俗がお好きでいらっしゃる……。
長谷川 そういうサイトを見て回るのが好きなんです(笑)。
哲夫 その子はいい子っぽいですね。なんとなくね。
長谷川 ちょっと惚れますよね。多分ね、浅井長政好きな女の子はデブに優しいと思うんですよ。それで行ってみたいなという(笑)。逆に信長好きとかいう女の人がいたらちょっと引きますけどね。
哲夫 ははは(笑)。
長谷川 そういう人はブラック企業とか批判したらダメですよね。
哲夫 僕の場合はやっぱり、もうちょっと時代が古にいってほしいんで、中大兄皇子がタイプとか言ってくれるほうが、ええ子やなって思いますね。
長谷川 ははは。中大兄皇子のイメージはどんな感じですか? その腹心の中臣鎌足とか。
哲夫 どっちかって言ったら、肌質がええのが中大兄皇子なんですよ。で、肌質がちょっとザラっとしてるのが鎌足なんですよね。
長谷川 (笑)。
哲夫 なんかそういうイメージがあるんですよ。で、実は喋ってみると、こいつめっちゃ気さくやな、と思うのは中臣鎌足のほうなんですよね。なんかちょっと気品があるんです。
長谷川 中大兄皇子は冷たい感じですか?(笑)
哲夫 冷たいんかなって思いきや、でも「こっちもええ奴やんけ」ってなるのが中大兄皇子です。肌感が良いがゆえに、近寄りがたいかなと思いきや、実はええ奴っていうのが中大兄皇子のイメージ。
長谷川 結局はどっちもいいやつってことですね。
歴史なのに予測不能の新“戦国”体験──!
本当の戦国は集団戦だけど、こっちはタイマン!
武将=超能力者が夢の対決を繰り広げる!
長谷川哲也(はせがわてつや)
1963年12月7日、長崎県生まれ。九州工業大学を卒業後上京し、マンガ原作者・小池一夫の主催する劇画村塾で学びデビュー。原哲夫のアシスタントを務めた後、歴史作品を数多く発表する。現在、ヤングキングアワーズ(少年画報社)にて「ナポレオン‐覇道進撃‐」、戦国武将列伝(リイド社)にて「セキガハラ」を連載中。
哲夫(てつお)
1974年12月25日、奈良県生まれ。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。2000年7月、西田幸治とお笑いコンビ・笑い飯を結成。2002年に無名ながらM-1グランプリ決勝戦に進出し脚光を浴び、9年の挑戦を経て2010年にM-1グランプリ王者に輝く。近年は著書「えてこでもわかる 笑い飯哲夫訳 般若心経」「花びらに寄る性記」を刊行。また2014年2月8日公開のアニメ映画「BUDDHA2 手塚治虫のブッダ—終わりなき旅—」では声優に初挑戦している。