コミックナタリー Power Push - 「制服ロビンソン」

小島秀夫&箕星太朗が語る“物語を作るしんどさ”とは

箕星太朗の初連載作「制服ロビンソン」の1巻が発売された。社会現象にもなった大ヒットゲーム「ラブプラス」のイラストレーターとして知られる箕星が挑むオリジナル作品は、荒廃した世界で目覚めた少年少女のサバイバルもの。空から飛来する補給カプセル、主人公が持つ謎の鍵、閉鎖空間での恋愛と、魅力的な要素がちりばめられている。

コミックナタリーでは1巻の発売を記念し、言わずと知れた「メタルギア」シリーズの生みの親・ゲームデザイナーの小島秀夫と、箕星の対談をセッティング。ゲーム業界の第一線で活躍してきた2人に、物語を作り出す苦労や小島から箕星への愛あるダメ出しなど存分に語り合ってもらった。

取材・文・撮影 / 三木美波

この場を借りてレクチャーしていただきたい(箕星)

小島 食っていけてるの?

(左から)小島秀夫と箕星太朗。

箕星 いやあ、ギリギリです(笑)。もっと「制服ロビンソン」を面白くせなあかんと思ってて、どうしたら面白くなるか、今日はこの場を借りてレクチャーしていただこうかと。

──おふたりは以前、同じ会社で働いていましたが、初対面はいつ頃なんでしょうか?

箕星 「ラブプラス」を作っていたときですから……。

小島 完成前の、2009年くらいですか?

箕星 そうですよね。(小島)監督が僕の席まで会いに来てくれたんですよ。

小島 当時、周りになかなか絵のことわかる人がいなかったんですけど、何かの会議で「ラブプラス」の絵を見て、「ついにすごいキャラデザが来た!」と。で、「どんな奴やねん」と思って、会いに行ったんです。そしたら、イケメンだったんでムカついたの(笑)。

箕星 イケメンではありませんが(笑)。監督が来られて、僕の部署はパニックでしたよ!

「制服ロビンソン」のヒロイン・三枝真理愛と主人公・零原息吹。

小島 絵にも流行があるじゃないですか。目の虹彩の描き方とか。箕星さんの絵は今風の、ちょうどいい頃合いのところに着地していて。初めて見たとき、外部の人が描いてるのかと思ったんです。それで聞いてみたら社内の人で、顔を見に行こう、と。

箕星 監督が来られると連絡があって、普段から問題児っぽいイメージがあるらしく「何かやらかした?」みたいな感じで問い詰められました。でも好意を持ってお越しいただいたんで、うれしかったです。

小島 それ以来、応援していましたね。

マンガ描くっていう行為はこの世で一番偉い(小島)

箕星 インタビューとか出るのが苦手だったのですが、監督から「自分から発信していった方がいい」とアドバイスされまして。それがなかったら今日の対談もなかったと思います。

小島 こういう場には出て、自分のハードルを上げないと。「すっごいおもろいよ、次のタイトルは!」とか、そんなに上げて大丈夫なのか?っていうくらい(笑)。

主人公・零原息吹。

──では、箕星さんも新刊のハードルを……。

箕星 なかなか言いづらいですね、まだ描くのに一生懸命で……。

小島 でも描いてったらうまくなるでしょ。マンガ描くっていう行為はすごいと思います。この世で一番偉いと思う。ストーリー考えて、世界観考えて、次はキャラ設定、メカ設定でしょ? それでネーム切って、セリフも考えて、背景も描くんでしょ? 全部でしょ。そんな仕事ないですよ!

箕星 マンガ家の先生っていうのは特別な仕事で、選ばれた人しかできないと思っているんです。

──今回、「制服ロビンソン」を執筆することになったのは、どのような経緯だったんですか?

箕星太朗

箕星 「ラブプラス」で講談社さんとコラボしてて、前の会社を辞めたときに「飲み行きましょう」となったんです。そこで「挿絵をやりませんか」というお話をいただいて。でも美少女ものイラストを描いても驚きがないので、お客さんがアッと驚く展開がいいとお話ししたら、「マンガを描いてみませんか?」て言われて……マンガとこられたらびっくりしますよね。僕がびっくりするんだから、お客さんもびっくりするなと思って。

小島 マンガ家ができる人は、なんでもできるはずですよ。まだ箕星さんは、マンガ家になったばかりだけれど、でもカッコいいと思いますよ。

箕星 あはは(笑)。

小島 キャラクターデザインをやった人は、最後はやっぱりマンガを描いてほしい。自分のオリジナリティを育てて、作品を売って、アシスタントを雇って、後に続く人たちを育成していってほしい。マンガ描くのって本当に大変ですから。「メタルギア」シリーズのアートディレクターだった新川(洋司)にも散々言ってるんですよ。僕が原作書いてネームまで切るって言っても、マンガ描くの断ってきましたからね。出版社まで決めて、やろうって言ったら「描きません」って。「なんで!?」って聞いたら「しんどいから」って。

箕星 わかります。ある程度キャリアを積んでからマンガ家に挑戦するのは一大決心でした。でもこれを逃したら一生来るか来ないかのチャンスだったので、失敗しても後悔しなきゃいいか!と。

小島 それはすごい!

箕星太朗「制服ロビンソン(1)」発売中 / 702円 / 講談社
「制服ロビンソン(1)」

荒廃した地球に残された少年少女。どこにも大人はおらず、物資は、たまに隕石のように飛来する補給ロケットに積まれているだけ……。大事なことは何ひとつ知らないけれど、僕らは笑顔で今日を生き抜いて、そして恋をする。社会現象にもなったあの国民的ゲームでおなじみのイラストレーターが放つ初のマンガ連載が単行本化。等身大の「未来」と「絶望」を描く、草食系青春サバイバル物語!!

第1話の試し読みはこちら

箕星太朗(ミノボシタロウ)

大阪府出身。国民的美少女ゲーム「ラブプラス」のキャラクターデザインを手がけ、6月には新作ゲーム「√Letterルートレター」が発売される。2015年よりマガジンエッジ(講談社)にて「制服ロビンソン」を連載中。

小島秀夫(コジマヒデオ)

1963年生まれ。ゲームデザイナー。「メタルギア」シリーズなどを手がけ、世界的ヒットを記録する。2015年12月にコジマプロダクションを発足。