読者さんへの愛は蒼士くらいにドチャクソ重い
──読者から一番人気があるキャラクターは、やっぱり蒼士ですか?
ダントツで蒼士です(笑)。でも最近は「蒼士と凪沙の2人が好き」という感想も多くて。私としても凪沙が輝いたり成長したりするときは蒼士といるときで、蒼士も一番魅力が出るのは凪沙の前だと思ってるので、それが伝わっているのはすごくうれしいですね。
──凪沙、物語の中ですごく成長してますよね。
そう言っていただけてうれしいです! 物語の最初のほうは読者の方に好かれないような性格になってしまっているんじゃないかとすごく心配でしたし、悩みました……。でもこの先で成長を見せていけたらいいと編集さんにアドバイスをいただけて。蒼士というすごくヤバい男が、凪沙とともにいることによって変わっていく、どんどん絆されていくビジョンは最初から浮かんでたんですよ。でも今は凪沙も蒼士といることで変わっていくところも描いていけたらと思ってます。
──主人公たちの変化や成長がじっくり描けるのは連載の醍醐味ですね。
そうですね。実は私、企業でデザイナーとしても働いているんです。だからスケジュールの都合で長期連載は尻込みをしていて。でも「恋タチ」のときに「もっと長く読みたかった」というご意見をいただいて、「漣蒼士」の連載に踏み切れました。
──そうだったんですね。2021年3月にスタートした連載ももうすぐ3年目に突入しますが、「漣蒼士」の印象に残っているエピソードを3つ選ぶとしたら?
やっぱり長期連載をスタートさせたという意味で、1話は印象深いですね。実は2話で描いた、「ヤクザをヤリ捨てるなんて、いい度胸ですね」というセリフまでは、もともと1話に入れるつもりだったんです。今の読者さんには展開が早いほうが読まれると考えていて、できるだけ最初の段階でぎゅうぎゅうに面白さや魅力を詰め込もうと。でもさすがに24ページではそこまで行けず……(笑)。
──確かに1話は展開がスピーディで、ページをめくる手が止まりませんでした。開始2ページ目には蒼士と凪沙がマカオで出会い、4ページ目には「私の妻になっていただけませんか?」と妻のフリを提案し……。
物語の展開も、私の大変さもかなり凝縮されているので(笑)、1話はすごく大切と言うか、「よくやったな、自分!」と思ってる話です。
──2つ目の印象深いエピソードはどこですか?
凪沙が蒼士に自分の気持ちを伝える回です。
──2巻に収録されている12話ですね。周りの反対意見に流されずに自分の意志で決断する、凪沙の成長が伝わってくるエピソードでした。
長期連載ということもあり、凪沙と蒼士のじれったい状態がもっと続いたほうがいいんじゃないか……とかいろいろ悩んでたんです。でも凪沙の成長が、私が思っていた以上に早くて。その前後のエピソードでも、凪沙の強さや健気さを描けたと思うので思い出に残ってますね。
──3つ目は?
3つ目は……3つ目はなんだ……。大ちゃんの告白……? いや、でも……。
──頭を抱えて悩んでる(笑)。
大ちゃんが大好きで幸せにしたいと思ってるんです。「お前を絶対幸せにしてやる!」と思ってるんですけど、幸せにするやり方がわからないんですよ……。
──凪沙はもう蒼士に決めちゃいましたもんね。
蒼士の存在がなかったら、大ちゃんは凪沙のことをずっと妹的存在だと認識していると思うので、難しいですね……。「漣蒼士」の世界線ではもう無理なので、大ちゃんには異世界転生をしてもらわないとダメかもしれない。
──あはは(笑)。蒼士と出会わない凪沙のいる世界線への転生スピンオフに期待ですね。
あ、3つ目は豪華客船のエピソードかもしれません。3月発売の3巻に収録されるんですが、客船の写真を撮ったり、カジノを見学したりと取材に行かせていただいたんです。凪沙と蒼士の服装、マンガの背景、演出とかなり豪華になってると思うので、見てほしいシーンが満載で。私としてもすごくいい経験になりました。しかも豪華客船で“闇オークション”を描けたんです。本当にずっと描きたくて、ようやく実現できました。
──闇オークション、いいですね! ヤクザやマフィア、アラブの大富豪が出てくる物語じゃないと描けないですからね。
そうですよね(笑)。手を上げて「何億!」みたいなのを描きたくて。「このタイミングだ!」と思って盛り込みました。
──3巻にはアクリルスタンドが付く特装版があるんですよね?
はい。本編ではやらないであろうペアルックをさせているので、ぜひ見てほしいですね。蒼士は絶対やらない……解釈不一致なんですけど、グッズは本編とはまた別軸だと思って2人で手でハートを作るポーズにしたり(笑)。読者さんの日常に、隙間でもいいので入れてもらえたらうれしいなと。
──村上さんが読者をすごく大切にされているのが伝わってきます。
読者さんへの愛がドチャクソに、蒼士くらい重いんです。読者さんがいなかったら今こうしてマンガを描くことはできてない。本当に大切な方々だと思っていて。私、読者さんとマンガを作ってるという感覚がすごくあるんですよ。
──というと?
お手紙で「こういう下着を描いてほしい」とあったら、それを作中に反映させたり。豪華客船のエピソードではチャイナ服を描いたんですが、それも読者さんからのお手紙にあって。チャイナ服は1巻のカバー裏に書いた“蒼士が見たい凪沙のファッション”の伏線回収でもあって、単行本派の方にも楽しんでもらえたらと。もちろん読者さんの意見でストーリーを作っていく、ということではないんですが、できるだけ読者さんに楽しんでほしいという思いで試行錯誤しながら描いてます。
心だけでなく、体のつながりまで深く描けるTLの面白さ
──「漣蒼士」はティーンズラブに分類されますが、TLを描いていて面白いところはどこですか?
少女マンガのその先が見られる……というのがTLの一番の魅力だと思います。
──少女マンガのその先?
私の考えですが、2人の心と体のつながりの両方をTLでは深く描くことができる。少女マンガでは「きっとこの先、こうなっていくんだろうな」に留めておくことが多い部分を、TLではガッツリ描けるんです。それはすごく素敵なことだと思っていて。
──近年TLがかなり盛り上がっていますが、そういうところを読みたい人に刺さったのかもしれないですね。
ええ。私がデビューした当時より作品数はすごく多くなってるんですが、まだTLを知らない人もたくさんいるので、もっと広まってほしいですね。なるべくいろんな人に楽しんでもらえる作品を私も描きたいですし、そういう活動をしていきたいと思っています。
──活動と言えば、村上さんはTwitterやInstagram、ゲーム配信なども積極的に行っていますよね。
そうですね。私は自分の手がコンプレックスだったんですが、読者さんにキレイって言っていただけたのでインスタでネイルを投稿しようとか、私の取り留めのない話で元気が出たと言っていただけたので「じゃあ配信しよう」とひたすら「スプラトゥーン」のゲーム配信をしたりとか(笑)。「漣蒼士」も私も、読者さんの日常のちょっとした息抜きや、ちょこっとだけでも生活を彩る一部になれたら……という気持ちです。少しでも楽しんでもらえたら、本当にうれしいです。
プロフィール
村上晶(ムラカミアキ)
8月24日生まれ、北海道出身。マンガ家・イラストレーターとして活動する傍ら、企業内デザイナーとしても働く。執筆ジャンルは少女・女性向け、TL、BLなど。2021年より連載している「漣蒼士に処女を捧ぐ~さあ、じっくり愛でましょうか」はTVアニメ化され、4月よりTOKYO MX、BS11、AnimeFestaほかで放送・配信される。