コミックナタリー PowerPush - よりぬきサザエさん
国民的マンガのベスト版が復刊! 長谷川町子の自由すぎる装丁をデザイナー大島依提亜と100%ORANGEが語る
「町子手帖」の表紙には、いちばんかわいいサザエさんを
──巻末ページは復刻版で新たに追加された部分ですが、ここだけ紙質が違いますね。
大島 アドニスラフという新聞っぽいザラっとした紙を使ってます。このページは新聞風にしようという意図があったので、文字も朝日新聞書体を使って。あと新聞に掲載された4コマをそのまま製版して使ったりしているので、粗くてちょっと読みづらいんですよ。だから本文部分と同じ紙にしちゃうと、続けて読んできたときに違和感が出てしまうかなと思ったので、すこし区切りをつけるためにわざとザラ紙を使いました。
及川 あれ、でも6巻と7巻の巻末ページだけ、ザラ紙じゃないね。
大島 この巻だけは新聞記事じゃなくて、長谷川町子さんのスケッチブックを載せてるので、本文と同じOKいしかりという上質紙を使ってます。
──特典の町子手帖はものすごく上等な作りですね。実物を見るまでは、もっと小冊子のようなものかと思っていました。
大島 まあ「手帖」というからには気軽なものが送られてくるだろうと思ったら、ちょっと豪華なものだったらうれしいかなと思いまして。
及川 表紙のサザエさん、かわいいね。
大島 これは持ってる資料全部のサザエさんの顔を全部洗い出し、いちばんかわいいサザエさんの顔を探したんですよ。ちなみにこれは「サザエさんえあわせ」というグッズに描かれてたイラストです。単行本1巻のサザエさんもいいけど、ちょっとカクカクしすぎな気がして。
──確かに、これはちょっと丸っこい顔ですね。
大島 そうですね。あとこの時期のサザエさんは鼻が大きかった。だんごっ鼻がかわいいんですよね。
──表紙の「町子手帖」のフォントはどこかから引っ張ってきたんですか?
大島 これは初期の長谷川町子自らが制作した便箋に「長谷川町子」と書かれていたので、そこから「町子」を取ってきて、「手帖」はそれに合わせて作りました。ちなみに見返しにあしらわれている「MACHIKO TECHO」の「TECHO」は「仲よし手帖」からです。
装丁家・長谷川町子は自由すぎる
──「サザエさん」も「よりぬきサザエさん」も、表紙のデザインは全部長谷川町子さん自身が手がけていたわけですが、みなさんからご覧になって装丁家としての長谷川さんはどんなイメージですか?
大島 いや、もう自由すぎますよ。装丁の仕事を専門にしている人の視点ではないですよね。5巻なんて、サンダルの色だけが特色(※通常の4色インクでは出すことができない色を表現するため特別に追加されるインク色のこと)だったりするんですよ。やっぱりデザインや装丁をやる人だったら、もっと効率的にやってしまうんです。「ここの色が沈んでるから派手にしよう」ってだけで特色使ったりは、普通しないですよね。かなり野蛮な使い方です(笑)。とはいえ、あれだけの画力がある人だからデザインも当然ものすごく上手いんですけどね。
及川 普通、マンガ家って自分で装丁しないじゃない。でも本人がやったら、意外と魅力的なものができそう。
大島 あ、及川さん、自分で装丁やるじゃないですか。マンガも描くし、書き文字も描くし、長谷川町子さんと共通項多いんじゃない?
及川 装丁やるけど、こんな風にはできないかな……。長谷川町子さんは姉妹社っていう出版社も自分でやって本を出してたわけだもんね。全部自分でやってる。
竹内 ある意味、考え方がすごくシンプルですよね。
──D.I.Y精神を感じました。あと表紙のロゴも全部手描きで、1冊ずつ違いますよね。今のマンガみたいに、一貫して決まったロゴがない。
大島 そうそう、長谷川町子さんってものすごいロゴフェチだったと思う。たぶんいろんなロゴを見て「このロゴ、なんかいいわね」って思ったらそれを吸収して、そのときの気分で描いちゃったんじゃないかな。
及川 あ、でもこの「サ」の払いの部分が丸くなくてカクっとしてるところは統一されてるよ。
竹内 本当だ、アニメ版のロゴみたいに丸みがないんだね。
サザエさんのある風景
──アニメの「サザエさん」を見たことがない人は少ないと思いますが、マンガを知らない人って多いかもしれないですよね。
大島 若い人って、4コママンガであったことすら知らない人も多いんじゃないかな。
及川 それ、ありうるな。昔は大体どの家にもあったけどね。病院の待合室とか、床屋とかにもさ。やっぱり当時売れてたんだよね?
──たぶん今で言う「ONE PIECE」みたいな感じだったんでしょうね。
竹内 でも手元にあったのって、もう私たちの世代で最後かもしれないですね。
大島 今回の復刻版は年配の方が当時持ってたけど手放しちゃったり古くなったから買い直してるっていう方も多いし、娘が母親に買ってあげたり、逆に母親が娘に買ってあげたりもしてるみたい。また床屋とかに置かれたらいいよね。
及川 それか、おしゃれなインテリアの上とかにさりげなく置かれるとかね(笑)。
大島 「サザエさんのある風景」の写真を全国に撮りに行くっていうのもいいね。
大島依提亜(おおしまいであ)
デザイナー。1968年、栃木生まれ。東京造形大学デザイン学科卒業。映画や展覧会のグラフィックを中心に、ブックデザインなどでも活躍。主な仕事に映画「かもめ食堂」「ル・アーヴルの靴みがき」「レンタネコ」「ルビー・スパークス」などの宣伝美術やパンフレット、書籍に100%ORANGE著「ひとりごと絵本」などがある。
100%ORANGE(ひゃくぱーせんとおれんじ)
イラストレーター。及川賢治と竹内繭子の共同名義。東京在住。イラストレーションを中心に、絵本、マンガ、アニメーション制作などを手がける。「新潮文庫 Yonda?」のパンダシリーズや「よりみちパン!セ」シリーズの一連のイラストレーションが広く知られる。主な著書に「ぶぅさんのブー」「思いつき大百科辞典」「よしおくんが ぎゅうにゅうを こぼしてしまった おはなし」「SUNAO SUNAO」など多数。
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長谷川町子(はせがわまちこ)
1920年佐賀県生まれ。14歳で田河水泡氏に弟子入りし、1935年、15歳でマンガ家デビュー。以降、西日本新聞社の編集局絵画課などを経て、1946年、夕刊フクニチに「サザエさん」の連載をはじめる。1951年から74年、途中休載を挟みつつ朝日新聞朝刊に「サザエさん」を長期連載。国民的人気マンガ家となる。1991年、第20回日本漫画家協会賞の文部大臣賞を受賞。1992年、心不全のため死去。直後に国民栄誉賞を受賞。その他の著書に「いじわるばあさん」「エプロンおばさん」「サザエさんうちあけ話」など多数。
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