コミックナタリー PowerPush - よりぬきサザエさん
国民的マンガのベスト版が復刊! 長谷川町子の自由すぎる装丁をデザイナー大島依提亜と100%ORANGEが語る
大島依提亜×100%ORANGE(及川賢治・竹内繭子)座談会
財布や鞄は持たず、「サザエさん」1冊だけ持って
──大島さんが100%ORANGEのおふたりに姉妹社版「サザエさん」全68巻セットをお借りしたというお話を聞きまして、それなら実際に制作に携わった大島さんと、竹内さん・及川さんに「サザエさん」を語っていただこうと思いまして。
大島 そうそう。「よりぬきサザエさん」の装丁を手がけることになったはいいんですが、恥ずかしながら僕、その時点で「サザエさん」に関する知識があまりなく、どうしようと思っていたときに、竹内さんが……。
竹内 最近どんな仕事をしてるかお話ししていたときに、大島さんが「今度『サザエさん』の復刻をやるよ」っておっしゃったので、資料として全部お貸ししたんです。
大島 それで全巻揃ったのを初めて見たんですね。以前から数冊はチラチラと見たことはあったんですけど、全部まとめて表紙を見てみると、装丁のすごさに圧倒されて。そこからハマっちゃったんですよね(笑)。古本で「別冊サザエさん」とか「仲よし手帖」「町子たんぺん傑作集」も買っちゃった。
竹内 私もこの全68巻セットは古本でまとめて揃えたんですよ。なんか急に欲しくなっちゃって、衝動買い。
及川 君、普段そんなことしないのにね。
竹内 本当だよね(笑)。子どものころに数冊しか持ってなかったから、どうしても全部欲しくて。でも買ったことで満足してしまって、全巻読んだかって言われると読んでないんだけど……。
及川 逆に僕がハマっちゃって。毎日1冊ずつ、全部読んだよ。
竹内 山手線でもカバーしないで読んでたもんね。財布や鞄は持たないで、「サザエさん」1冊だけ持って(笑)。
及川 なんかもう面白くて、手放したくなくてさ。大好きになっちゃった。
カバー用紙に引いてあるニスのズレまで完全再現
──「よりぬきサザエさん」復刻版の装丁は、30年前に発売されたオリジナル版とまったく同じですね。デザインを変えるという案はなかったんですか?
大島 最初は同じにするか変えるかでちょっと迷ったんですけどね。でもオリジナル版が発売されてから30年という時が経っているわけだし、やっぱりオリジナルの強さがありますから。例えばカツオ編とかワカメ編みたいな再編集版を作るんだったら割と自由にやってたと思うんですけど、今回は内容が完全復刻ということなので。だったら装丁もまったく同じに再現することを目指そうと。
及川 紙も全部同じなの?
大島 完全に同じ紙です。例えばこれ、コート紙にニスが引いてあるんですけど、オリジナル版ってこのニスがかなりズレズレなんです。(カバーのそでを開いて)ほら、ここニスが色付きの部分からはみ出してるでしょ。このズレまで無駄に再現してます。
及川 (表紙をめくって確認し)本当だ、アホだ!(笑)
大島 そういう意味のないこだわりもあったり。ちなみにこの帯の「復刊!」っていうアオリを囲んでるマルは、単行本47巻の表紙に描かれている太陽を引っ張ってきて、使ってるんですよ。
及川 確かに本人が描いたマルじゃないと、違和感が出てくるもんね。
大島 うん、そういう違和感をすっかり排除しようと思って。
竹内 よかった、この全68巻はちゃんと役に立ってたんだ(笑)。貸したはいいけど「よりぬき」の復刻なんだし、役に立ってるのか不安だったんですよ。
大島 いやもう、めちゃくちゃ助かりましたよ。
竹内 もし完全復刻じゃなくて、デザインを変えるとしたらどうしてました?
大島 オリジナルをベースに利用してデザインを加えていたかもしれないですね。例えば6巻表紙のロゴはちょっと立体風になってますけど、ここをエンボスの箔押しにするとか、今の印刷技術を使ってできることをやってたんじゃないかな。
及川 そうするとデラックス感が出るよね。
大島 そんな感じ。そもそも「よりぬきサザエさん」がハードカバーなのって、当時のリビングにあるキャビネットの上に置かれるのを想定していたからだって聞いたんですよ。
及川 (「よりぬき」は)家具に合うよね。
竹内 当時は「よりぬき」がリビングに置かれて、並製の単行本はもっとカジュアルに、子供部屋の本棚とかに入れられる感じだったんだろうね。
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長谷川町子(はせがわまちこ)
1920年佐賀県生まれ。14歳で田河水泡氏に弟子入りし、1935年、15歳でマンガ家デビュー。以降、西日本新聞社の編集局絵画課などを経て、1946年、夕刊フクニチに「サザエさん」の連載をはじめる。1951年から74年、途中休載を挟みつつ朝日新聞朝刊に「サザエさん」を長期連載。国民的人気マンガ家となる。1991年、第20回日本漫画家協会賞の文部大臣賞を受賞。1992年、心不全のため死去。直後に国民栄誉賞を受賞。その他の著書に「いじわるばあさん」「エプロンおばさん」「サザエさんうちあけ話」など多数。
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