ぴたっとハマったとき、とても気持ちがよかった
──長月先生は、自分の作品のどんなところに「され竜」の影響が出ていると思いますか?
長月 話の好みもですけど、意外と文体ですかね。特にこの前参加させてもらった「され竜」のアンソロジーは、読んだ人から「初期の浅井さんの文体に似てる」って言われて。
カルロ 初期の浅井先生の文体って、今より結構コミカルですよね。
浅井 「汝、過去の災いを掘り起こしてはならぬ」と村の長老が。
──おふたりが参加された「されど罪人は竜と踊る オルケストラ」ですね。浅井先生はおふたりが書いた「され竜」のアンソロジーをお読みになっていかがでしたか。
浅井 大変よかったですよ。
カルロ 今の一言で終わりにしましょう。
長月 うん、詳しく聞くのが怖いから、さっと終わりましょう(笑)。
浅井 自著を語る苦行を私がしているのだから、おふたりも同じ苦行に耐えてください。長月さんは、とあるエピソードの裏側、ありえたかもしれない別の結末を書いてくれて、本編の補完にもなっている作品でした。アンソロジーの形式としては、満点の回答ですね。
長月 ありがとうございます。
浅井 長年この仕事をしてきても、なかなかぴったりハマる瞬間ってないのですけど、あれは本当によくできていたと思います。
長月 浅井さんともプロットの相談をさせてもらったんですけど、あれはもう思いついてぴたっとハマったとき、とても気持ちがよかった。すごくいいプロットになったからこそ、これが面白くならなかったら俺の責任だなって。
浅井 あれが満点でなかったら、何がアンソロジーの正解なのか不明なくらいです。さて、カルロさんなんですけど。
カルロ 浅井先生、ご寛恕のほどお願いします……。
浅井 ちょくちょく出てきて気付いていたけど、あえての先生呼びをやり返していきましょう。カルロさん、いやカルロ先生も、上手く「され竜」の舞台設定を扱ってくれているのですが、あれは完っ全にカルロ大先生の趣味の話ですよね(笑)。
──カルロ先生のお話は、ガユスがひょんなことから喫茶店でバイトする、というコメディでしたね。
カルロ 竜との死闘を書こうかとも考えたんですけど、ブラックな話を書くにはページ数も限られていたし、いろんな作家さんが参加されている中で、自分らしく好きなように書いていいって浅井超先生に言われたんで……。
浅井 聖カルロ先生神の作品はあれで良かったと思います。麻薬売買の輸送の話が書きたいと言われましたが、主人公が本当に悪人になるのは、ノワール小説にしてもひどいので! そして先生呼び戦争はもう休戦にしませんか? そろそろ恥ずかしさで死人が出ますよ?
Web作家はタフじゃないと続けていけない
──ちなみに長月先生とカルロ先生はWeb出身の作家さんですが、浅井先生はおふたりと違ってWeb連載の経験はないですよね。そうした世代の差は何か感じられますか?
浅井 げえ、コミックナタリーさんが第2次先生戦争を休戦させねえ。死の商人ですね。ええと、私は読者さんの感想をほぼ読まないほうですから、偉いなと思いますよ。
カルロ 僕はお客さんの感想や反応を見るのは好きですよ。ラーメン屋さんみたいに、カウンター越しにお客さんと会話する感覚でWeb小説を書いているので。
浅井 私は自分の作品すら読み返さないので、「今日はなんとかましなラーメンができたな、自分じゃ食べないけど!」と投げ捨てることをずっと続けています……狂人ですね!
長月 (笑)。Web作家はみんな読者の反応を見るのが好きでやってるんじゃないですかね。ラーメン作って出しとくから、ふらっと来て食って文句言ってけっていう。もちろん誰も食べに来ないってパターンもあるし、冷め切った頃に食べて古いって言われることもありますし。
浅井 そういう意味ではタフですね。
長月 タフじゃないとWeb作家は続けていけないですよ。
浅井 ハードボイルドですね。タフでなければならない。そして優しくなければならないなら、それは主に私に。
──フィリップ・マーロウですね(笑)。では最近のライトノベルの定石である、ハーレムものや異世界転生ものは書いてみたいと思われますか?
浅井 歴史ものや本格推理など、自分が絶対に超えられないと思う作品があるジャンルは挑戦しないですね。ハーレムものは、私なりに女の子の内心を書くとかわいいキャラクターにならず、負け戦にすぎます。その点、おふたりは上手くやっておられますよね。ちゃんと女の子がキャラクターグッズになりますし。
カルロ かわいい女の子を描くという点に関しては、ラノベも進化しているというか、先行研究が進んできましたからね。
長月 異世界ものといえば、最近の作品で、主人公が奴隷に優しくしてあげて「この人はなんていいご主人様なんだろう!」ってなる流れ、すごく多いじゃないですか。俺だったら、手枷を外した瞬間に奴隷に刺されて主人公が教訓を得る話にしてしまうなあ、っていつも思う(笑)。
カルロ 僕は逆に、手枷を外して甘やかした結果、労働者として使いものにならなくなる話にします。
浅井 私なら近代を呼び寄せて、頭脳労働社会における奴隷制度の非生産性を露わにし、破綻させてやりますね。異世界もだいたい現実と同じ道筋になってしまい、主人公も社畜になって、また別の異世界へ。
大きな嘘はつくけど、小さな嘘はつきたくない
──皆さん現実的ですね(笑)。今のお話にも表れていますが、「され竜」も「幼女戦記」も「リゼロ」も、ファンタジー的な世界観でありつつ、決して夢物語ではないですよね。ちゃんと戦って血が流れる話というか。
浅井 現実がそうですから。
長月 人は死にますからね。
カルロ 大きな嘘はつきますけど、小さな嘘はあんまりつきたくないですよね。
長月 そうだね。現実を飛び越える嘘はつくべきだけど、現実の中におさまる嘘をつくのは、単純に物語のスケールを縮めるだけというか。
カルロ 奇跡でみんなが助かるなら、がんばった必要がなくなってしまいますし。
浅井 設定は非現実的でも「そういう世界です」で終わりにできるので、大事にするなら心理的リアリティでしょうかね。実際に人がその場でどうするかの心理は、なるべく本当にしないと、人間ではないほかの存在の話になりますからね。
──一方でどの作品も、肉弾戦や魔法対決そのものより、いかに策略や作戦を立てて戦うか、というところに主眼が置かれている気がします。
浅井 グーで殴り合うと、結局力の強いほうが勝ってしまうので。
カルロ ゴリラと人間が素手で戦ってゴリラが勝っても面白くないですよね。
長月 小説で「ドラゴンボール」みたいな、強い奴同士の戦闘を魅力的に描写するというのは、なかなかできないですから。僕らは基本的にジャイアントキリング(番狂わせ)を書かないといけない。
浅井 「幼女戦記」が負けていく国家を主体にしているのも、そうする必要があるからですよね。
カルロ そうです。戦車と爆撃機をたくさん並べて勝つなら、その国家は延々勝ち続けて、最後はベルリンでソ連軍と肩を組んで終わりですよ(笑)。主人公にとってはハッピーエンドですけどね。
長月 頭を使って戦うというよりも、主人公の選択の結果で勝ってほしいんです。勝負の決着がつくまでに主人公が取った選択の1つひとつ、それが結実して勝利するって瞬間に気持ちよさがあるんじゃないかなと思いますね。
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異種族を出すのは、人間の性質を際立てやすいから
- テレビアニメ「されど罪人は竜と踊る」
- スタッフ
-
原作:浅井ラボ(小学館「ガガガ文庫」刊)
キャラクター原案:宮城、ざいん
総監督:錦織博
監督:花井宏和
シリーズ構成:伊神貴世
キャラクターデザイン:北尾勝、小倉典子
アニメ制作:セブン・アークス・ピクチャーズ
制作:「され竜」製作委員会 - キャスト
-
ガユス:島﨑信長
ギギナ:細谷佳正
ジヴーニャ:日笠陽子
ニドヴォルク:甲斐田裕子
モルディーン:土師孝也
レメディウス:杉田智和
ほか
©浅井ラボ・小学館/「され竜」製作委員会
- 「されど罪人は竜と踊る①」
- 2018年6月27日発売 / NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
-
初回限定盤 [Blu-ray Disc]
10260円 / GNXA-2031
- 「Re:ゼロから始める異世界生活 Memory Snow」
- 2018年10月6日(土)より劇場上映スタート
©長月達平・株式会社KADOKAWA刊/Re:ゼロから始める異世界生活製作委員会
- 浅井ラボ(アサイラボ)
- 2002年に雑誌連載開始。著作は「されど罪人は竜と踊る」「TOY JOY POP」「STRANGE STRANGE」など。
- 長月達平(ナガツキタッペイ)
- 2014年、小説投稿サイト「小説家になろう」に投稿していた「Re:ゼロから始める異世界生活」が書籍化しデビュー。同シリーズは本編16巻、短編3巻、外伝3巻が刊行されている。
- カルロ・ゼン
- 2013年、小説投稿サイト「Arcadia」に投稿していた「幼女戦記」が書籍化しデビュー。主な著作に「銃魔大戦 怠謀連理」「約束の国」「ヤキトリ1 一銭五厘の軌道降下」などがある。「幼女戦記」は2017年にテレビアニメ化され、現在劇場版新作アニメが制作中。