「ソードアート・オンライン アリシゼーション」島﨑信長(ユージオ役)×川原礫(原作者)対談|ユージオへ贈る2人の思い

初めて島﨑さんのユージオを聞いたとき、なんの違和感もなかった

──川原さんは、島﨑さんの演じるユージオについては、どのような印象を受けましたか?

川原 僕は小説を書いてるとき、キャラクターの声は聞こえないんです。でも、アニメになって声がついたキャラクターは、書いているときに声が聞こえるようになるんですよ。初めて島﨑さんのユージオを聞いたとき、なんの違和感もなくスッと入ってきて。その後、Blu-ray1巻の特典小説で久しぶりにユージオを書いたのですが、そのときには島﨑さんの声でしゃべっていました。

島﨑 うれしいなあ。光栄です! 「SAO」のアニメが始まった最初の頃に、松岡から「話が進むと、ユージオというキャラクターが出てくるんだけど、信長にやってほしいな」という話を聞いていて。僕も原作を読み、すごくやりたいと思ったんです。でも、そういう願いって、ほとんどは叶わないんですよ(笑)。だから僕も変な期待は持たずにいたのですが、ずっと気にはしていました。そうしたら、ゲーム(「ソードアート・オンライン -ホロウ・リアリゼーション-」のDLC「深淵の巫女」)で初めてユージオに声がつくときに、指名でお話をいただけて! 「あ、あ……」ってなりながら、松岡にLINEを送りました(笑)。しかも、アニメも続けてやらせていただけるということで、本当にうれしかったです。

──ユージオを演じるとき、特に意識したことを教えてください。

アニメ第1話ではキリト、ユージオ、アリスの子供時代が描かれる。

島﨑 何はともあれ、まずは子供時代ですよね(笑)。

川原 そうなりますよね(笑)。

島﨑 松岡は、「キリ子さん」をやった実績があるから、子供時代も「松岡くんでいこう」という話になると思ったんですね。

──2期の《ファントム・バレット》編で、キリトが女性型アバターになったときも松岡さんが演じていましたね。

島﨑 だから、僕も子供時代のユージオをやることになるだろう、とは思っていました。それに、僕自身やりたい気持ちもあったんです。ユージオが最初に登場するのは子供時代ですし、なにより子供のときに「僕はまったく動けず、アリスを助けられなかった」というところから、ユージオの物語は始まっているので。その最初をやるのがほかの方だと、僕がその方に合わせることにもなってしまいますよね。それもあって、自分勝手な思いではあるのですが、可能なら、最初から最後までやらせてもらいたい気持ちがありました。

アドミニストレータには、心の隙間を突かれた

──実際に子供時代のユージオを演じる際、気を遣ったところはありますか?

アニメ第1話ではキリト、ユージオ、アリスの子供時代が描かれる。

島﨑 「こうやって演じたらどうかな?」とか研究もしましたが、現場に着いたときには、掛け合いの中で(キリト、アリスとの)3人のバランスが成立していれば、ちゃんと子供に聞こえるだろうと思っていました。第1話の最初は、ユージオとキリトが話しているところに、お弁当を持ったアリスが来るのですが、茅野さんが本当に絶妙なバランスで、僕ら2人に対して少しだけお姉さんな感じのアリスで入ってきてくれたんです。そのおかげで、子供時代の3人がいい形で成立したと思います。

川原 確かに、アリスが「こらー!」って入って来たとき、カチッと3人の関係が成立した気がしました。

島﨑 まず2人でやっているときも大丈夫そうだという感覚はあったんです。でも、そこに茅野さんのアリスが来てくれたときの僕と松岡の救われた感はすごかったですね(笑)。やっぱり掛け合いというか、お芝居ってすごいなと感じました。

川原 僕はお芝居の素人ですが、《アリシゼーション》編では抜き録りのときと、実際に掛け合いができるときの違いも感じました。実は、アドミニストレータ役の坂本真綾さんは、最初のうちはスケジュールが合わず、ずっと抜き録りだったんです。でも、最後の2話(第23話と第24話)は、皆さんと一緒の収録に参加していただけて。そのとき、(アドミニストレータの)迫力が一段上がったんですよ。「怖!」って思いました(笑)。

島﨑 すごかったですよね。お話的にもちょうど、アドミニストレータがガチで動き出したタイミングだったので。アフレコ中も鳥肌が立ちました。

川原 もちろん、その前からも坂本さんのアドミニストレータはすごくて。実はWeb版では、ユージオはアドミニストレータの誘惑をはね除けたので、《整合騎士》にもならなかったんですね。

──アニメは、ユージオが誘惑に負けて洗脳されてしまう電撃文庫版と同じ展開で描かれています。

アニメ第19話より。アドミニストレータの言葉巧みな誘惑によって、シンセサイズを受けてしまうユージオ。

川原 電撃文庫で、そういう展開になったのは、担当編集者の三木(一馬)さんから「どうしてもキリト対ユージオが見たい!」「キリトがユージオに『いつか抜かされるかも』と思っていたという伏線をここで回収したい」と、すごく熱を込めて言われたのがきっかけなんです。自分も納得して書いたのですが、「ユージオはそこまで弱いやつじゃない」という気持ちも少しあったんですね。でも、坂本さんのアドミニストレータを見て、「これは誘惑に負けても仕方ないな」と思いました(笑)。

島﨑 言葉を投げかけられる側としても、すごく説得力がありました。ただ、アドミニストレータは言葉巧みでとても蠱惑的ですが、ユージオは性的に誘惑されたわけではないんですよね。

川原 そうなんですよ。

島﨑 異性愛も含まれてはいるとは思うのですが、家族愛、兄弟愛といったいろいろな愛情の欠けたところ、心の隙間があったから、そこを突かれたんです。アニメだとユージオの家族とのエピソードは描かれてないんですけれど……。

──原作では、ユージオが両親や兄たちからの愛にあまり恵まれていなかったことも描かれていますね。

島﨑 だから、あのシーンでは原作の地の文に書かれている、ずっと1人で、仕事をしたお金も家族に取られて、みたいなエピソードを思い出しながらやっていました。それに何よりも、子供の頃のキリト関係の記憶が抜かれていて、そこに隙間があったというのも大きいでしょうし……。

川原 きっと、3人で過ごした子供時代の記憶がちゃんと全部残っていれば、誘惑されなかったと思います。

島﨑 ですよね! 僕も、はね除けられたと思うんです。