ヤマシタトモコが手がけるサスペンスホラーBL「さんかく窓の外側は夜」。原作は昨年末に完結し、今年3月には最終巻となる10巻が発売予定だ。幽霊を祓える男・冷川理人(ひやかわりひと)、霊が視える男・三角康介(みかどこうすけ)を中心に巻き起こる人間模様は、読む者の内側を深くえぐる。
コミックナタリーでは、映画「さんかく窓の外側は夜」公開を記念し、監督を務めた森ガキ侑大と、原作ファンで、ヤマシタトモコ作品をこよなく愛するハライチ・岩井勇気の対談を実施。過去にあるドラマでタッグを組んだこともある2人が、映画の見どころと、「さんかく窓」の抗いがたい魅力を語り合う。
取材・文 / 的場容子 撮影 / 佐藤類
冷ややかで、ドロっとした世界観が魅力
──「さんかく窓の外側は夜」は、冷川と三角という2人の霊力がある男の関係を中心に描く、斬新なホラー要素のあるBLです。森ガキ監督は、今作では「人間さえしっかり描くことができれば、見たことのない映像表現にチャレンジできる余白を感じた」とおっしゃっていましたが、制作にあたり肝だと感じたポイントを教えてください。
森ガキ侑大 冷川、三角、そして非浦英莉可の3人が、望まない能力を持ったことにより、まわりから理解されずマイナスからスタートする。だけど、通じ合える人たちと出会い、変わっていく――。ヤマシタトモコ先生の原作では、その3人の葛藤がすごく新鮮に描かれているのが印象的でした。同時に幽霊や除霊、あるいは宗教団体について、かなりエンタメっぽく描かれている。そこがいい意味でアンバランスで大胆で面白くて、まずはそこに惹かれたんです。映画では特に、3人の関係性に注力して作っていきました。
──なるほど。一方、岩井さんは原作ファンとしても知られており、コミックス6巻発売時には推薦コメントを寄せられていました(参照:ヤマシタトモコ「さんかく窓」6巻、ハライチ岩井「読んでるだけで逝っちゃう感覚」)。「気付けばこの世界観の沼にズブズブハマっている。読んでるだけで逝っちゃう感覚味わいました」とありますが、この“沼にハマっちゃうような世界観”の魅力をもう少し詳しく教えてください。
岩井勇気 かなりニュアンス的な表現になるんですけど、読んでいると、「冷ややか」なんですよね。つめたーい、仄暗い感じがする。そして人の、外から見えている部分の向こう1枚挟んだところに、どろどろしたものがある。そういうストーリーだなと俺は思いました。
──その1枚奥を描いていて、読んでいるうちに、そこにずぶずぶハマっていくみたいな感覚、でしょうか。
岩井 そう。いろんな意味で、ズブズブという表現がしっくりくるなと思っていて。
──実際に、冷川が三角に「入っていく」描写も、「ずぶっ」という感じですよね。
岩井 はい。それと、液体の表現がドロっとしているんですよね。沼は沼でも、粘度の高いドロっとした感じのイメージなんですよ。
──まさに天才の表現というか、とても感覚的ですね。でも、わかります。本作が実写映画化されると聞いたとき、率直にどう感じましたか?
岩井 まず、両側面がありそうな作品じゃないですか。ホラーでも、ワッと脅かすような怖さじゃない、“そこにいる不気味さ”が際立った日本的なホラーにするのか。それとも、人間関係に焦点を当てた作品にするのか。受け取り手にもよるけど、言ってみれば原作はすごくエロさもある作品だから、そっちに振ることもできますし。逆にその面を一緒に描くのも難しいだろうなと思いました。
映画でも、原作の「ずぶずぶ」「ドロっ」を再現
──映画を観て、岩井さんはどう感じましたか?
岩井 まず、全体を通していいなと思ったことがひとつあります。ホラーなので血が出てくるシーンはあるんですけど、俺、けっこうヤなんですよね、血(笑)。
──そうなんですか?
岩井 いつもは映画で血の表現があると、「痛い痛い……!」ってなっちゃうんですけど、森ガキ監督が描いている血はけっこうキレイだったから、そうならなくて。色彩表現のひとつとして伝わってきたのが、すごくいいなと思った。
──花や水などと同じように、血が背景やビジュアル的効果として捉えられるということですね。
岩井 そう。だからヤな感じがなかったですね。エグく表現することもできる作品だと思うんですけど、すごくキレイだなあと思いました。
森ガキ ありがとうございます。テーマとして、血が飛び散るのは避けられないけど、グロすぎても離れていくお客さんがいるので(笑)、そこのバランスは気を付けました。
岩井 そうですよね。原作も、「血プシャー!」じゃなくて「だらー……」っていう感じじゃないですか(笑)。そこと、僕がさっきから言っている、原作の「ずぶずぶ」とか「ドロっ」としたような表現が、映画ではすごく再現されている。僕は原作をずっと読んでいたから、そこはよかったなと思いましたね。
──岩井さんがおっしゃっているとおり、ヤマシタ先生の描く霊は「“いやーな感じ”が物質化したらこうなる」というような、すごく微妙な表現です。原作でも印象的なおどろおどろしい死者たちの、「そこに存在しているけれど、明らかに異様な雰囲気」を醸し出すために、ビジュアルや演出でどのような工夫をされたのか教えてください。
森ガキ 岩井さんの言う通り、マンガはドロッとした液体的な表現が特徴でしたが、それを映画にする際に、いかにも「CGでオバケつくりました!」みたいになるのは避けたかったんです。このマンガのよさというのは、自分の半径30cmくらいの身近なところに幽霊がいる、そのリアリティだと思っていて。それを表現するためには絶対にCGでやりたくないなと思い、なるべくリアルな幽霊の造形を、衣装のBabymixさんにお願いしてやってもらったんです。
岩井 ああ、そういうことだったんですね。すごくおしゃれでした。(英莉可の父親役の)マキタスポーツさんですらおしゃれだったなと、俺は思います(笑)。
──(笑)。そういえば、森ガキ監督と岩井さんは以前、2018年にNHKで放送されたドラマシリーズ「満島ひかり×江戸川乱歩」第二幕「算盤が恋を語る話」でご一緒されたときからのご縁なんですね。
森ガキ そうです。その際の衣装もBabymixさんが担当してくれたんです。
岩井 主要キャストとして自分が演技するのは、その作品が初でしたね。演技は素人なので、わからないままやっていたんですけど、森ガキ監督がうまく乗せてくれました。で、乗せてくれていることで、さらにちょっと不安になったり。
森ガキ いやいや(笑)。生のままの岩井さんがすごくいい味だったので、多少は「こんな感じでやってみてほしい」とはお願いしましたけど、ほんとに素晴らしい演技だったんです。
岩井 (笑)。そのときBabyさんが僕に用意してくれた衣装も、めっちゃくちゃ洒落ていたんですよ。
森ガキ 1960~70年代の古い服を、「これ、絶対似合うから!」って岩井さんに着てもらったんですが、ほんとにカッコいいんですよ。
岩井 ほんとに、作品が舞台にしている当時の世界観ですよね。なのに、今見てもすごくおしゃれな服装なんです。
森ガキ 当時の本物の衣装に加えて、さらっとGUCCIとかが入っているんですよね。
──なるほど、めちゃくちゃおしゃれですね。原作にも出てくる宗教団体の衣装もすごく印象的でした。
森ガキ そうそう、あれも全部手作りで用意してもらいました。
岩井勇気と幽霊「僕なら非浦英莉可に何か言われても大丈夫」
──ちなみに岩井さんは、幽霊を見たことはありますか?
岩井 僕はねえ、少し前まで住んでいた家が墓場の隣だったんです。だけど、一切見えない。僕なら非浦英莉可に何か言われても大丈夫。
森ガキ あははは!
──超自然的なものは一切見えないという、半澤刑事と同じタイプですね(笑)。
岩井 はい。
森ガキ (笑)。(霊障で)頭が痛くなったりすることもなかったですか?
岩井 ひとつもなかったです。だからかえって、少しでも怖い思いをしたい、臨場感を味わいたいという気持ちになっちゃって。前の家のときは、夜中に窓から外の墓地を見ながら、イヤホンで怖い話を聞いていました。僕はこれをVRと呼んでいます。
森ガキ まさに……!(笑) それ、めちゃくちゃ面白いですね!
岩井 それくらい霊の感覚を味わったことがないので、今回の映画の世界観を通して、ぞっとさせてくれるのは楽しいっすね。
──先程の話では、血が激しく飛び散るようなスプラッタはイヤということでしたが、こうしたホラーは歓迎なんですね。
岩井 エグいのはイヤなんですけど、ぞっとしたり、幽霊的な怖さは、全然いいんです。「廃墟行け」って言われたら行けます。
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「すごいな! 岡田将生」対極にある冷川を演じ切っていた