水上悟志のマンガ「惑星(ほし)のさみだれ」は、平凡な大学生・雨宮夕日の前に“騎士”を名乗るトカゲが現れ、「地球を滅ぼす悪の魔法使いから姫を守り、世界を救え」という荒唐無稽な依頼をしてきたことから始まるバトルファンタジー。多くのファンに愛され、長年映像化を熱望されていた同作が、連載完結から12年という歳月を経てついにTVアニメ化を果たし、7月よりMBS/TBS系「アニメイズム」枠ほかにて放送されている。
コミックナタリーでは、TVアニメ「惑星のさみだれ」のオープニングテーマを担当するHalf time Oldのボーカル・鬼頭大晴(きとうまさはる)、同じくエンディングテーマを担当するSpendyMilyのボーカル・松永瀀(まつながゆう)にインタビューを実施。この日が初対面だったという2人に、楽曲を制作するにあたり読み込んだという「惑星のさみだれ」への思いや、どのようにしてマンガから音楽を生み出していくのか、両バンドのアプローチの違いなどを語ってもらった。
取材・文 / 籠生堅太
アニメの主題歌を歌うのが夢だった
──「惑星のさみだれ」のアニメが7月から放送中です。実際に動く「さみだれ」をご覧になって印象に残った場面を挙げるなら?
松永瀀 やっぱり1話のさみだれが屋上から飛び降りるシーンですね。
鬼頭大晴 言われてしまった(笑)。
松永 「私のものになりなさい」と言って飛び降りたさみだれを、夕日がとっさに、反射的な感じで助けて、そのまま膝をついて「御意」と。これからなんか始まるって感じがして印象に残りました。鬼頭さんは?
鬼頭 僕も一番はそこですね。
松永 後で調べたらやっぱそのシーンが好きな読者の方が多いらしいですね。
──「惑星のさみだれ」は2005年から2010年にかけて連載された作品ですが、当時からの読者と同じ部分が、完結から12年経って、現在20代のおふたりにも刺さったと。
鬼頭 ほかのシーンだと、2話ぐらいから夕日の過去がだんだんわかってくるじゃないですか。割と特殊な性格をしている主人公が、なんでそうなったかの背景が見えてくるところには引き込まれました。
松永 暗い作品を好きになることが多いんです。そういう自分に夕日のおじいさんの「人を信用するな」ってセリフは刺さりましたね。
──普段からアニメやマンガをご覧になったりは。
松永 すごく好きです。
鬼頭 僕もそうですね。昔から好きなのは「金色のガッシュ!!」。最近続編も始まりました。すごい好き。
松永 「ガッシュ」いいですよね。僕は挙げだしたらキリがないんですけど、パッと出てくるのはやっぱり「エヴァンゲリオン」。アニメもだけれど、マンガももちろん大好きで何回も読み返しました。最近だと「チェンソーマン」。あとは「笑ゥせぇるすまん」。
──「笑ゥせぇるすまん」はだいぶ渋いチョイスですね(笑)。
鬼頭 松永さんのあげた3作品はどれも読んだことなくて……。すみません、勉強不足で。
松永 全然そんなことはないです! じゃあこれをきっかけに読んでみてください。どれも本当にめちゃくちゃいいですから。
鬼頭 さっき「暗い作品が好き」って言ってましたよね。僕は読み終わった後にモヤモヤしない作品が好きなんですけど。
松永 じゃあ「笑ゥせぇるすまん」はダメだ!(笑)
──アニメがお好きということですが、アニメソングでいうと記憶に残っているものはありますか。
松永 ありますあります。「コードギアス」を4周くらい観たと思うんですけど、FLOWの「COLORS」がすごく前向きになれるので、シンプルに好きです。僕の中のポジティブになれる曲っていう感じで。
鬼頭 サンボマスターやアジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)なんかの好きなバンドが担当していたんで「NARUTO」関連の曲は印象に残ってますね。アニメのオープニングってこんな感じっていうイメージもそこらへんから来ている気がします。
松永 後は宇多田ヒカルさんが好きなので、やっぱ「One Last Kiss」や「Beautiful World」「桜流し」、全部よかったです。
──「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」の主題歌ですね。
松永 「ヱヴァンゲリヲン」の主題歌は歌詞がすごいこう……僕の中でなんですけど、碇ゲンドウとかキャラクターの人となりと重なる部分があって、そこがすごいグッときましたね。
──今回、Half time Old、SpendyMilyともにアニメの主題歌を担当するのは初めてということですが、実際にアニメの映像に合わせて自分たちの楽曲が流れてくるのをご覧になっていかがでしたか。
鬼頭 昔から「アニメのオープニングをやりたいなあ」っていうのが夢ではあったので、自分の名前がクレジットとして出てきたときはすごいうれしかったですね。
──アニメの主題歌を歌うことは、アーティストとして何か特別なものなんでしょうか。
松永 僕もですけど、アニメ好きな人ってやっぱ多いと思う。僕は音楽で携われてうれしいですけど、どんな職業でもアニメに携われたらすっごいうれしかっただろうなって。
「さみだれ」は名言がいっぱい、キャラに共感しながら読んだ
──ずっとアニメの主題歌を担当してみたかったということですが、うれしさの反面プレッシャーを感じることはありましたか。特に「惑星のさみだれ」はアニメ化を待ち望んでいた熱心な読者も多いと思うので。
鬼頭 そうっすね、いい意味でのプレッシャーはありましたね。「惑星のさみだれ」には「ビスケットハンマー」や「ブルース・ドライブ・モンスター」のように、大先輩のバンドであるthe pillowsの曲から名前をとったものが出てくるじゃないですか。それなのに俺らで大丈夫かなっていうのは正直ありました。だからこそ選んでいただいたからにはがんばんなきゃなとも思えましたし。
松永 プレッシャー……いやあ、僕、ちょっと馬鹿すぎてプレッシャー感じてたかわかんない。
鬼頭 (笑)。
松永 覚えてないって言うほうが正しいですけど、とにかく必死に作ったので。そういう意味ではプレッシャー感じてたのかなとも思うんですけど、でも楽しくやらせていただきました。
──普段からあまりプレッシャーを感じるほうではない?
松永 いやいや! 感じるほうではあるんです。ただ本当に賢くないので、プレッシャーを感じていてもアレコレ考えられずに「うおおおっし!」とか言って、勢いとかパッションだけで乗り越えようとしてしまうというか。
鬼頭 割とプレッシャーってポジティブなものなんです。それを感じるってことはその分ステップアップをしようとしてるからなんで。モチベーションにつながりますよね。
──プレッシャーをネガティブに感じる人も多いと思うので、その考え方はとても意外でした。
鬼頭 プレッシャーで潰れたら、たぶんもうバンドはやってないですね。
──オープニングの「暁光」、エンディングの「Reflexion」ともに「惑星のさみだれ」を読み込まれて書き下ろされた楽曲とのことです。おふたりの思う「惑星のさみだれ」の魅力や好きなキャラクターなどお聞かせください。
鬼頭 周りに人が増えていくことによって、だんだん夕日の内面が変わっていく、成長していくみたいなところが「惑星のさみだれ」の筋だし、テーマだと思うんです。僕自身にも重なる部分があるし、これだけ多くの人から愛されている部分でもあるのかなって。
松永 あと名言も多いですよね。さっき夕日のおじいさんのセリフの話をしましたけど、ほかにもいろいろグサグサ刺されました。半月の「大人が笑うのはな 大人は楽しいぜって子供に羨ましがられるため」「人生は希望に満ちてるって教えるためさ」ってセリフが特に好きですね。
鬼頭 セリフで言うと、地球の命運を賭けた戦いをしてるけど、でもなんかみんなユーモアがある会話をするじゃないですか。日常の中で。そういう何気ない会話も好きです。
松永 キャラクターだと僕は茜太陽くんが好きですね。
──“フクロウの騎士”の。
松永 太陽くんは最初、大人なんて信用できないみたいなスタンスで。僕もまだまだ子供な部分があって、彼ほどトガッてはいないけど、「わかる」みたいに感じるところが多くて。
──自分自身と重なる部分があると。
松永 騎士って願いごとを1個叶えられるじゃないですか。それを使って最後の戦いで大きな役割を果たす。たぶん、それまでの大人嫌いなだけの太陽くんだったら絶対そんなことしなかったけど、物語を通して大人っていう未来に対して希望を抱けるようになったのが、あの瞬間に描かれているんですかね。読んでいて「よかったなあ、おい!」って。僕もお仕事する中で、たくさんの方たちに助けてもらって、やっぱり変わった心境もあったので、そういうところも重なりましたね。
鬼頭 僕は、登場回数は本当多くないんですけど、“カジキマグロの騎士”の秋谷稲近が好きです。
──師匠!
鬼頭 ですね。もうけっこう全知全能な感じじゃないですか。
──ラスボスであるアニムスが目指した“すべてを知りたい”という願いに到達しているわけですからね。
鬼頭 それは師匠が生きた500年があったからこそですけど、全然周りを下に見てないところ、すごいカッコいいなと思うんですね。自分にない魅力を持ってるキャラクターほど好きになることってありません?
松永 絶対なられへんっていうところでは南雲さんが好きですね。僕はどう育っても南雲さんみたいにはなれない。
鬼頭 獣の騎士団がギスギスしてないのは、南雲さんの力によるところも大きそうですよね。なんか抜けてるところもあるけど、でもちゃんと締めるところは締めるみたいなことがちゃんとできる人。
松永 そういうキャラ、大好きです。
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2人の音楽家が「惑星のさみだれ」から受け取ったもの