コミックナタリー Power Push - さいとうちほ×幾原邦彦対談
さいとうちほの絵が醸し出す“官能”と“陶酔感”
さいとうちほの15年ぶりとなる画集「NEE LA ROSE-薔薇に生まれて-」が刊行された。この画集には別冊ハーモニィRomance(宙出版)の表紙を彩った美しい装画を中心に、キャラクターデザインを務めた「少女革命ウテナ」のイラストなどを多数収録。また海外ロマンスの女王バーバラ・カートランドの小説を原作としたマンガ「伯爵と果敢な乙女~ノーフォークの古城~」も、画集と同時に発売された。
これを記念し、コミックナタリーでは「少女革命ウテナ」の幾原邦彦監督とさいとうの対談を実施。さいとうが1枚の絵にかける思いや、幾原監督が感じるさいとうのイラストの魅力についてたっぷり語り合ってもらった。
取材・文 / 平松梨沙 撮影 / 三木美波
さいとう先生のイラストには夢がある(幾原)
──さいとう先生、2冊同時刊行おめでとうございます! 画集には「ウテナ」のイラストも入っているということで、今日の対談では幾原監督にお越しいただきました。
さいとう ありがとうございます。ファンの皆さんが「ウテナ」を忘れないでいてくださるおかげで、監督ともこうやってお話できますね。
幾原 「ウテナ」がここまで残るものになるとは、思ってなかったですよね。
──そのあたりのお話も、あとでたっぷりお伺いできればと思います。
幾原 (「NEE LA ROSE」を眺めながら)いやあ、すごいですね、この画集。100ページにわたって、先生の美しいイラストが。
さいとう 宙出版さんで描いてきたロマンス作品系の扉絵やピンナップを中心に、小学館のプチコミックの表紙、そのほかライトノベルの挿絵なども掲載したんですが……15年ぶりのイラスト集ということで作品点数が多すぎて、セレクトが大変でした。104点掲載しています。
──画集のタイトル「NEE LA ROSE」は「薔薇に生まれて」という意味のフランス語だそうですが、これはさいとうさんが考えたんでしょうか?
さいとう いえ、編集部で考えてくださったんです。表紙のイラストに薔薇があったので、それで薔薇をイメージしたタイトルになったという流れですね。
担当編集 先生ご自身を薔薇に例えたと、編集長が申していました(笑)。
──たしかに、さいとうさんには薔薇のイメージがありますね。
さいとう 薔薇はほかの花と違ってパパッと描いてもそれっぽく見えるし、画面が華やかになるので、ついつい描いちゃうんです(笑)。
幾原 先生はもともとロマンス小説が好きだったの?
さいとう いわゆるロマンス小説を愛好してきたわけではないかな。でも、「嵐が丘」とか「風と共に去りぬ」とか、ロマンス小説の原型といえるような古典には小さいときから親しんでいたし、宝塚歌劇団も好きだったので、こういう土壌に親しんできた歴史は長いですね。
幾原 僕は正直ロマンスを積極的に読んでいるわけではないんですが、それでも、さいとう先生はきっとこのジャンルでは日本のなかでも最高峰、センターなんじゃないかと思いますね。80~90年代の頃に主流だった少女マンガのニュアンスをきちんと表現されているというか。イラストに“夢”がある。ある種の陶酔感が立ち昇ってくるんだよね。
「命をかけてことに当たってくれる人」がヒーローの条件(さいとう)
──今回の画集の表紙は、女子の夢の1つですよね。お姫様としての道を歩み始めたヒロインが、男性にかしずかれている。シンデレラに憧れていた頃の気持ちがよみがえるような気持ちになります。
幾原 単純な大人の恋愛ということではなく、「着飾りたい」「お人形さんのようになりたい」という、ある種幼い女の子の欲求を満たすような世界を表現しているなと思いますね。その世界に入りたいと思えるビジュアルとかディテールって、お話が面白い・面白くないとはまた別の力量が必要になる。それは、さいとう先生がもともと持っていらっしゃる個性だよね。
さいとう ありがとうございます。夢や憧れが感じられるように、というのはいつも意識して描いていますね。でも、私がマンガ家になった頃って、ロマンスは夢や憧れ、手が届かないものとして愛好されていた気がするんだけど、今は比較的“癒やし”として見る傾向が強まっている印象がある。ヒーローも、カッコいいだけじゃなくて、優しいとかかわいいとか、一緒にいてなごめるとか、そういうタイプが求められている気がする。
幾原 それでいうと、さいとう先生の描くヒーローは、ちょっとピカレスク的な雰囲気が強いよね。普通にいい人も出てくるけれど、相手役としては野心があったり悪いことをしようとしたりしている人のほうが好きでしょ?
さいとう そうですね。私は「何事にも命をかけてことに当たってくれる人」というのがヒーローの第一条件だと思っているんです。あと個人的には頭のいい人が好きで、それはつまり悪事をたくらむ程度の能力があるってことなんですよ。だからこの画集の表紙の男性も、ちょっとたくらんだ表情になってるの。
──言われてみれば、単にヒロインに忠誠を誓っているのとはちょっと違うニュアンスが感じられます。
幾原 最近のロマンスには癒やしが求められているとはいっても、やっぱり、ヒロインが男性の復讐とか、政変とか、たくらみの渦中に巻き込まれるのは王道の展開でしょう。そしてヒロインが、例えばその復讐の道具にされてしまいそうになるところを、結果的に彼女の価値でたくらみごと自体を変えてしまう、というスリリングさが醍醐味ではあるよね。
さいとう そうそう。だからヒロインについては、自然体だけどまわりに影響を及ぼせる、みたいなタイプが魅力的だなと思っていますね。ウテナがまさにそうなんだけど。
- さいとうちほ画集「NEE LA ROSE-薔薇に生まれて-」 / 2016年5月11日発売 / 1728円 / 宙出版
- さいとうちほ画集「NEE LA ROSE-薔薇に生まれて-」 / 1728円
- さいとうちほ画集「NEE LA ROSE-薔薇に生まれて-」 / Kindle版 / 1728円
絢爛豪華なイラスト満載!ドラマチックロマンスのカリスマ・さいとうちほ珠玉のイラスト集。宙出版刊行物の全カラーイラストのほか、懐かしのイラストや、本邦初公開のイラストも収録の大ボリューム。
- さいとうちほ「伯爵と果敢な乙女~ノーフォークの古城~」 / 2016年5月11日発売 / 宙出版
- さいとうちほ「伯爵と果敢な乙女~ノーフォークの古城~」690円
- さいとうちほ「伯爵と果敢な乙女~ノーフォークの古城~」Kindle版 / 540円
19世紀英国。祖父の代に失った、一族ゆかりの古城を心のよりどころに家族とつつましく暮らすミネルヴァ。貧しいながらも平穏な日々は、突然終わりを告げる。新たに城の主となった放蕩者の伯爵が兄を賭けで窮地に追い込み、家族を守るため、ミネルヴァは伯爵と対決する意思を固める。その出会いは思いがけない事件を呼び込んで──?
- さいとうちほ 既刊作品の電子書籍も同日発売! 2016年5月11日発売 / Kindle版 各540円 / 宙出版
- 「青い悪魔のセレナーデ」
- 「誘惑のシーク」
- 「バルターニャの王妃」
- ※5月11日から期間限定で半額セール実施中
さいとうちほ×宙出版の最新NEWSはこちらから!
さいとうちほ
1982年にコロネット(小学館)でデビュー。テレビアニメ「少女革命ウテナ」のキャラクターデザインを担当し、同作のマンガ版も手がける。現在「とりかえ・ばや」「VSルパン」など連載中。別冊ハーモニィRomance(宙出版)の表紙イラストや、海外ロマンス作品のコミカライズも務める。
幾原邦彦(イクハラクニヒコ)
12月21日生まれ。徳島県小松島市出身。テレビアニメ「少女革命ウテナ」「輪るピングドラム」「ユリ熊嵐」などの監督を務める。