コミックナタリー PowerPush - 中道裕大「放課後さいころ倶楽部」
アナログゲーム×女子高生マンガ登場! 作者によるおすすめゲーム紹介も
3話目は最初、壁を登ったり茶道をやったりしてました
──では、こういうゲームを題材とするマンガが生まれて、連載に至るまでの経緯を伺ってもよろしいでしょうか。
実は結構、紆余曲折を経たんですよ。最初は探偵ものをやりたかったんです。
──それはまた、ずいぶん趣きが違いますね。
けど、トリックを作るのが難しいなって思って、早々に諦めちゃった(笑)。で、僕には妄想する力がないから、現実にあるものをテーマに、自分で体験したことを元に描くマンガにしようっていうことを考えたんです。それだったらネタにも困らないなと思って。だからいろんなホビーを、前の連載が終わったあとに試しまして。その中のひとつとして、アナログゲームが挙がったんです。
──ホビーというと、ほかにはどういったものが?
ボルダリングとか、あとは踊ったり川を下ったり……とにかくいろいろやりましたね。その中ではやっぱり、アナログゲームが一番グッと来たからマンガでやりたくなって。編集部と話をしたんですけど、知名度がないからってあまりいい顔はされませんでした。
──あ、そうなんですか。
それでアナログゲームの連載は一旦ボツになったんですよ。じゃあ、そのホビーというカテゴリーの中で、女子高生たちがいろいろやっていくマンガはどうだろうという話をしたら、ではそのネームを作ってみてという感じになって。それが作品のスタートですね。
──じゃあ1話目のネームができたときは、特にアナログゲームをやっていくとは決まっていなかったんですか?
そうですね。だから1話目では実はゲームをしていなくて。あれはこれからいろんなホビーをやっていくよっていう1話目だったんですよ。あれ以降はアヤがとにかくいろんなものに興味を持って、何を見ても「やりたい!」ってなるという。だから毎回、新しいホビーを持ってる人と出会っては、「私もやらせて」みたいな感じで飛び込んでいって、それに引っ張られて内気なミキもやる、というふうに進んでいく予定だったんです。
──確かに1話目には、全くゲームが出てきません。
で、2話目でボードゲームをするところまではうまくいったんですが、3話目がつまらないってゲッサンの編集長にずっとダメ出しをされて。
──じゃあ3話目は、もともとアナログゲームの話ではなかったと。
そうなんです。だから3話目は、本当にいろいろやりました。それこそ壁を登ったり、茶道をやったり、ただ単にカラオケに行こうっていうのもあったんですが全部ダメで。それで編集長から、「君はアナログゲームが好きなんだから、それ1本でいけばいいんじゃないか」って言われて。こっちもそれが一番やりたいことだったから、願ったり叶ったりでありがたかったです(笑)。
──それでやっと、女子高生たちがアナログゲームをどんどんプレイしていくという枠組みが決まったんですね。じゃあ3話目までは「放課後さいころ倶楽部」っていう……。
そう、タイトルも決まってなかったです。仮題すら付けてなかった。「さいころ倶楽部」はそれから、当時の担当さんが付けてくださったんですよ。
店長はよく「シティーハンター」の海坊主って言われるんですが
──舞台に京都を選んだ理由もお聞きしたいんですが。
これも担当さんの意見ですね。僕は一応、超山奥だけど京都出身だから。東京でやるよりは地方のほうがいいんじゃないかって言われて。
──ミキちゃんの京都弁がかわいくて、すごくいいと思います。
影が薄いと言われるかと思ったら、意外とそう言ってくださる方が多くて……まぁ、影は薄いんですけど(笑)。内気な京都弁キャラっていう。
──ミキたちが通っている学校に、モデルはあるんですか?
モデルは僕の母校です。木造建築の三角屋根という、面白い形をしている学校で。学園ものをやるってなったときに使いたいと思って、母校に連絡をとって取材させてもらいました。
──実在するんですね。こんなにいい雰囲気の学校が。
実物は相当古びてはいるんですけどね、絵で描くと綺麗(笑)。
──なるほど。で、ミドリちゃんが歩いている、お店までの道のりは四条の繁華街が描かれていて。ゲームショップは……。
これは協力していただいているゲームショップの「すごろくや」を、ほぼそのまま描いてます。
──実際の「すごろくや」さんって、どんなお店なんでしょう。
東京の高円寺にあるんですが、もともと「風来のシレン」や「MOTHER2」などの、コンシューマーゲームを作っていた方が店長をやられているお店で。伊集院光さんがよく行かれるというのをラジオで聴いて、僕も足を運ぶようになりました。
──店長って実際にこういう感じなんですか?
いや、もっとクールでしゅっとした方です。マンガに出てくる店長は、周りからはいつも「シティーハンター」の海坊主って言われるんですけど……。
──確かに似ていますね(笑)。なぜこのような造形に……。
深い理由はないんですけどね。軍人っぽくしようと思ったんですよ。
──外国人ぽくしようと思ったってことですか?
いや、外国人というより……以前どこかで、「僕は米軍にいたときにゲームを覚えた」というハーフの方とお会いしたことがあって。その設定は使えるなと。まだ店長の過去ははっきり描いてないんですが……。
──なるほど。軍隊でもゲームは普及してるっていう……。
聞くところによると軍隊って、演習後の夜とか、することなくて超ヒマらしいんですよ。だからインドアな軍人はゲームをするっていう(笑)。もうそれだけで面白くって。マンガにも登場するアレックス・ランドルフっていうゲームデザイナーがいるんですけど、その人の「ハゲタカのえじき」っていうゲームも、彼が軍隊にいたときに遊んでいたゲームが元になっているんですよね。それはもう、いわゆるギャンブルとしてやっていたんだと思うんですが。
春の京都─────
見知らぬ街に引っ越してきた女子高生の綾。
ひょんなことから彼女と友達になった、引っ込み思案な同級生の美姫。
ある日の放課後、2人がクラスの委員長の翠の後をこっそりつけて辿り着いたのは、
アナログゲーム専門店…その名も「さいころ倶楽部」!!
思わずやってみたくなる、本場ドイツのボードゲームも満載。
「楽しい」を探す少女たちと、心躍るゲームの世界へようこそ!!
中道裕大(なかみちひろお)
京都府北桑田郡出身。AB型。2002年、「風」にて第50回小学館新人コミック大賞を受賞し、同年に少年サンデー超8月号(小学館)に同作が掲載され、デビュー。2006年より週刊少年サンデー(小学館)にて「ハルノクニ」を連載開始。その後、ゲッサン(小学館)に移籍し2009年より「月の蛇~水滸伝異聞~」を連載。「放課後さいころ倶楽部」がゲッサン移籍後、2作目の連載となる。