中性的な感じと女の子らしさのコントラストを意識
──鈴木さんはアイビー役をドラマCD版から演じられています。まず、ドラマCD版の収録の際、作品に対してどういった印象を受けましたか?
アイビーが幼いということもあるんですけど、とても純粋でいい子なんですよね。でも、スキル至上主義の世界で“星なし”として生まれてしまったために、村から殺される勢いで追放されてしまう。そこから、生きるために旅を始めていくさまがとても強いなと感じていて。親が付けてくれたもともとの名前を捨てて、自らをアイビーと名乗って生きていくというのもカッコいいですよね。
──ドラマCD版で演じられた際には、どういった点を意識されたのでしょう。
ドラマCD版のシナリオは、原作小説に沿って描かれていたんです。現在と過去を行き来する構成だったので、読者でなくても世界観やストーリーを掴みやすかったんですよね。そのうえで、アイビーを中性的な感じで演じつつ、信頼できる人物と出会ったときは女の子らしさを出す、そんなコントラストを意識していました。
──ドラマCD版の収録時には、すでにアニメ化のお話も伺っていたんですか?
そうですね。アニメ化するよ、というお話は伺っていたので、ドラマCD版の収録時もアイビーを継続して演じることを前提に役作りをしていました。ただ、スケジュールの都合上、あまりソラ役の田村さんとはご一緒できなくて。1回だけご一緒できたのかな? そのときにソラのお芝居を間近で聞いて、こんなかわいい子と冒険できるんだ!と興奮したことを覚えています。
──そこからアニメ版の収録までかなりの時間が空いたと思いますが……。
1年ぐらい空いたかもしれません(笑)。だからこそ、アイビーのキャラクターを忘れないために、書き込みを入れたドラマCD版の台本をずっと残していました。
──音だけで演じるドラマCD版と、画のあるアニメ版とでは演じ方にも異なりが生じるように感じます。今回の収録でアプローチを変えたことはありますか?
音響監督の渡辺(淳)さんとも話し合って、アイビー像は大きく変えないことになりました。ただ、男の子を演じているときとソラとお話をしている素の状態とでは、何か区別を付けたいということで、はっきり演じ方を変えるようにしています。収録時、すでに映像に色が付いているエピソードもあったので、山内(重保)総監督からは「もう少し画に合わせてほしい」とか、別のアプローチができないか、みたいなことを伝えられた覚えもありますね。
──完成した映像を拝見させていただくと、ソラと出会うエピソードまでは、アイビーを演じる鈴木さんの一人芝居が多いですよね。
そうなんです! ずっと1人でしゃべっていたので、アフレコブースには私しかいなくて。でも、アイビーのセリフをつらつらとしゃべっていく中で、彼女が思っていることや境遇、ソラへの気持ちが自分の中にも自然と入ってきたんですよね。前世の記憶についても同じで、アイビーを構成する要素の1つではあるけれど彼女ではない、というところを1人で演じたからこそ、どういうように演じるのか、考える時間が取れたと思っています。時間と収録する話数を経ることに、アイビーをだんだん自分のものにできていったように感じますね。
──収録を重ねる中で、鈴木さんが特に意識されたことはなんですか?
序盤のアイビーは一人しゃべりがメインなので、ソラを含むほかの人と話すときにどうしゃべるのか、意識しながら演じました。お店で買い物をするにしても、最初は戸惑いがあるはずで、すぐに男の子を演じられるわけではないんですよね。アイビーの緊張感を最初は強くしつつ、いろんな信頼できる人と出会ってからはだんだん自然体でいられるようになっていく。その成長感を出したつもりなので、ぜひ作品をご覧いただきながら皆さんにも彼女の変わり様を確認してほしいですね。
──鈴木さんは原作小説も読まれているそうですが、それだけにアニメ版の序盤で描かれるアイビーの境遇に関してはつらいものがあったのではないでしょうか。
堀内監督もおっしゃっていたように、アイビーのことがとても心苦しくなる展開が描かれます。でも、その展開があるからこそ、のちのちのアイビーの成長が輝いていくんですよね。頭から血を流したり、親から「お前なんかいらない」って言われたりするのはかなりショックなことですが……。演じている私も役に入り込んでしまって、収録中に呆然としてしまうこともありました。
──もし鈴木さんがアイビーと同じ境遇になっていたら、あそこまで活発に冒険はできない?
今の私は「最弱テイマー」という作品に携わってアイビーを知っているからこそ、彼女みたいに強く生きようって考えられますけど、いきなりあの境遇に陥ったら挫折しちゃうかもしれませんね。
アイビーが成長していく様子を見届けてほしい
──鈴木さんは本作のオープニング主題歌「果てのない旅」も歌唱されています。この曲はどのような気持ちで歌われましたか?
「果てのない旅」はキャラクターソングではなく、鈴木愛奈としての楽曲なので、歌い方こそアイビーに寄せてはいないんですが、歌詞がとても彼女の心情に寄り添っているんですよね。アニメでは使用されていない2番なんて、とてもアニメ後半部のアイビーにリンクしていて……。その気持ちが伝わるように、気持ちを込めながらレコーディングに臨みました。
──レコーディングの際に、特に意識されたポイントはどこですか?
この曲は、どのパートも難しいメロディで構成されているんですよ。テンポも速いし、なかなか付いていくことができなくて。レコーディングでは何度も何度も繰り返しながら、どこか温かさのある歌い方を目指しました。もしかしたら、皆さんもカラオケで「果てのない旅」を歌ってくださるのかもしれませんが、もう私からは「がんばれ!」としか言えません。これからライブで歌うとき、毎回私は苦労するので、皆さんもカラオケでその大変さの一端をわかってくれるとうれしいな(笑)。
──先行上映会で披露されていた姿からは、そんな難しさが想像できませんでした(笑)。さて、鈴木さんから視聴者の皆さんに向けてアニメで注目してほしいポイントを教えていただけたら。
中盤からアイビーの前に屈強な大人たちが現れていきます。彼らは見た目こそ怖いけれど、アイビーには優しく接してくださるんですよ。そこからアイビーも、だんだん他者へ信頼ができるようになっていきます。そんなアイビーが成長していく様子を見届けてほしいですし、ソラたち彼女のそばにいてくれる味方との関わりにも注目していただきたいですね。
プロフィール
鈴木愛奈(スズキアイナ)
7月23日生まれ、北海道・千歳市出身。IAMエージェンシー所属。2014年に「アカメが斬る!」メズ役で声優デビュー。2015年から「ラブライブ!サンシャイン!!」小原鞠莉役を務め、Aqoursのメンバーとしても活動している。主な出演作に「邪神ちゃんドロップキック」(邪神ちゃん役)、「はてな☆イリュージョン」(星里果菜役)、「甘々と稲妻」(ちよ役)、「魔法少女サイト」(潮井梨ナ役)などがある。
鈴木愛奈公式Info (@ainasuzuki_info)|Instagram
飲み会での様子がアイビーと重なった
──まず、アニメ「最弱テイマー」のエンディング主題歌を務めることになった際の第一印象はいかがでしたか?
お話をいただいてすぐに原作小説を読んだんです。そうしたら、同作が転生もので、誰にでも優しい主人公・アイビーが冒険の道中でいろんな人たちの手助けをしていく物語だと知って。最初はアイビーに自分を重ねて、とても感情移入してしまいましたね。異世界転生ものも好きでいろいろ読んでいたので、お話をいただけたことがまずうれしかったです。
──アイビー目線で原作小説を読まれたとのことですが、すぐに主題歌の歌詞も彼女目線にすることを決められたんですか?
歌詞をアイビー目線で書くことはすぐに決めたんですが、そこからが長くって……。今回のエンディング主題歌「because」の制作にはとても時間がかかっているんです。いつもなら作曲が1日で終わり、レコーディングまで通しても1週間程度で終わるんですが、今回は4カ月かかって。というのも、現在のメロディが降ってくるまで、試行錯誤をし続けたからなんです。たぶん、10曲ぐらい没になったものがあるんですけど、その中には日本語詞の歌もあれば、今よりもハープの音色が強いものもあって。
──その突破口となったのはなんだったのでしょう。
知人に誘われた飲み会です(笑)。誘われて行った居酒屋で、いろんな人と話をしているときに、ふとみんなで飲んで食べてお話をして……という光景が、アニメ「最弱テイマー」の後半で描かれるアイビーの様子と重なったんです。この温かい雰囲気のような歌詞と曲にしたらいいのでは、と突破口を見つけてからは早かったですね。普段は家から出ない生活なので、珍しく外に出たことで生まれた楽曲になったと思っています。
──結果として全編英語詞になっていますが、作詞の過程で特に意識されたことはありますか?
アイビーがこれからも前向きに進んでいく姿を現した歌詞にしようと思っていたので、そんな彼女の背中を後押しするようなイメージで作りました。特に気に入っているのは、「The sound of water drops」から始まるパートです。実は第1話のシナリオをいただいて、冒頭で描かれているシーンがとても印象に残ったんです。そこからメロディも盛り上げられたら、アイビーの冒険がここから始まることが伝わるかなと。
──丁さんといえばハープの弾き語りでも知られていますし、これまでの楽曲でもハープを採り入れたものが多かったように感じます。今回の「because」では、ハープのパートが少ない印象を受けたのですが、これは何か意図があってのことだったのでしょうか?
もちろん最初は、ハープのパートがある楽曲を作っていたんですよ。でも、音楽プロデューサーさんと試行錯誤をする中でどんどんハープが減っていって……。もともと私が使っているハープは縛りの多い楽器です。そのことを音楽プロデューサーさんとも相談して、一旦ハープのことは忘れて曲を作ってみようとなったんですよね。
──その難産の結果生まれた「because」ですが、レコーディングも長時間かかりましたか?
録音していた時間は1時間くらいでした。今回の楽曲はとてもたくさん重ね録りをする構成なので、ほとんど家で録音したデータを使い、メインボーカルのみスタジオで録音しました。
──丁さんはエンディングアニメーションも含めて、「because」という楽曲のどこを聞いて、観てほしいですか?
TVサイズの「because」は、かなりTVアニメのエンディング主題歌らしいゆったりとした楽曲になっています。この先、この楽曲はどうなっていくんだろう?って視聴者の方は思われるかもしれませんが、実はフル尺で聞くととてもアグレッシブなメロディになっています。アイビーが冒険を続けるにつれて、どんどん成長していく、そんな様子を表現したので、ぜひ作品を観ながらどんな感じに彼女が変わっていくのか想像していただけるとうれしいですね。「最弱テイマー」という作品の“人生はもっと豊かになる”というテーマを、アイビーの持つ前世の記憶のようにちょっと離れたところから見守っている、そんな楽曲になっていると思います。エンディングのアニメーションも、ソラの表現がとても綺麗なので、毎エピソード欠かさず観ていただきたいですね。
プロフィール
丁(テイ)
シンガーソングライター。2023年に「ツルネ -つながりの一射-」のエンディング主題歌「ヒトミナカ」でランティスよりメジャーデビュー。中性的で透明感のある声が特徴で、主にミニハープの弾き語りをしている。活動のテーマは「優しく足元を照らす蝋燭の灯となる、暗闇の中の希望となる音楽を奏でる」こと。主にSNS上で活動し、オリジナル、カバーを問わず多くの楽曲を投稿している。
※記事初出時より一部表現を修正しました。