劇場アニメ「囀る鳥は羽ばたかない The clouds gather」特集 新垣樽助(矢代役)×羽多野渉(百目鬼役)対談|ドラマCDから演じて7年、作品を知り尽くした役者2人が語り合う劇場版の魅力

レストランがザワついた「囀る」打ち上げの真相

──「囀る」の舞台となっているヤクザ社会も、ある種の非日常だと思います。ヤクザ社会独特の空気感を出すうえで、工夫した点、楽しかった点はありますか?

新垣 基本的に非日常なシーンや、悪いことをしている役を演じるのって楽しいです(笑)。普段の生活ではできないことばかりだし、自分の日常では絶対に発することのないセリフを話せるのはすごくワクワクします。

──普段はできないことを楽しむという意味では、演じる側も見る側も同じ興奮があるんですね。

新垣 そうですね。それと、絆や仁義、約束で強く結ばれている世界って、普段目に見えない分、自分たちが暮らしている街がまたちょっと違って見えてくるような魅力はあります。その意味で、いつもは見えていない社会の側面を演じるのはすごく楽しいですね。

羽多野 「囀る」では、ヤクザ社会の怖いおじさんたちを錚々たる大先輩方が演じていらっしゃるんです。三角役の大川透さん、竜崎役の三宅健太さん、平田役の高瀬右光さんなど……。

新垣 皆さん、(芝居が)怖いですよね(笑)。

羽多野 めちゃくちゃ怖いんです。軽く「あいつ処理しとけ」とか言ったり、笑いながら人を殴ったり(笑)。それこそ竜崎とか、すべてのセリフが振り切れていて、常に感情のメーターが130%とか150%を超えちゃってるんですよ。

新垣 そして、竜崎はすべてのセリフで殴られるという(笑)。

羽多野 (笑)。でもああいう怖いお芝居される役者さんって、皆さんピュアで優しい人たちなので、現場はめちゃめちゃ和やかなんです(笑)。このギャップがたまらないですね。

新垣 大川さんとか、軽く発した言葉がめっちゃ怖くて、「おい」って一言声を掛けられただけで「ああ! すみませんっ!!」ってなるのに、テープが回ってないときは本当に穏やかで。

羽多野 収録が終わった後に一緒にご飯食べに行けたりするとうれしくて。皆さん、ギャップが最高ですよね。

新垣 高瀬さんなんて、ドラマCDのときからずっと、収録にスーツ着て来ますからね。それがまたハマってるんですよ(笑)。

羽多野 そうそう、体格がいいから。

新垣 カッコいいんですよ。髪も短いし、その筋の方と言われればそう見えなくもないくらい、真に迫っています。

──現場が締まりますね(笑)。

羽多野 劇場版の収録が終わった後、打ち上げでレストランを貸し切っていただいて、みんなで行ったんです。会の途中、大川さんが先に帰られるということで「お疲れさまでした」って挨拶されたら、みんな立ち上がってドスの利いた声で「お疲れさまでした!」って(笑)。

新垣 本職の方がやるように、みんな膝に手をついている(笑)。

羽多野 自然とそうなっちゃってね。

新垣 厨房のほうがちょっとザワついてましたからね。「あの方たちってもしかして……?」みたいな(笑)。

羽多野 新垣さんが最後に挨拶をお願いされたときにも、「真誠会若頭の矢代です」っておっしゃった瞬間、また厨房がザワついて(笑)。

新垣 やっぱりザワついてましたよね(笑)。

羽多野 「えっ?」「そちらの方々?」みたいな視線でみんな見てましたから(笑)。

──物々しすぎるBLの収録打ち上げです(笑)。

制作陣の作品愛あふれる“男と男とタバコと煙の話”

──「囀る」には熱烈なファンも多いですが、ファンからの声で印象的だったことは?

新垣 ファンの方からお手紙をいただくこともありますし、海外の方から「この作品が好きです」という声が届くこともあるので、この作品の魅力は国境を超えるんだなと感じています。

羽多野 僕はTwitterをやっているので、「囀る」に関する新しい情報が出るたびリツイートさせてもらっているんですが、皆さん本当に情熱的で。リプで作品愛を綴ってくださいます。読んでいると本当に元気が出るし、自分自身も「劇場版では皆さんの想像を超えられるものをチームワークで作ろう!」と、エネルギーをいただいていました。

──アフレコ現場にはヨネダ先生が見学に来ることもあったとお聞きしていますが、先生と話した中で印象的だったことはありますか?

新垣 ドラマCDも劇場版も、収録のときには毎回来てくださいます。初めから気さくに声を掛けていただいて、すごくフランクにおしゃべりをさせていただいていますね。とりとめのない世間話がほとんどなんですけど、それができるのがうれしいです。そんなくだけた雰囲気の中で、「今日ここのシーンがめちゃくちゃ難しいです」みたいなことも言いやすいし、先生の方も「そうですよね。ここはですね……」と、ご自身が描いたときの印象などを教えてくださって、それがまた演技のヒントになったりする。本当に僕たちが作るドラマを尊重してくださっているありがたさがあります。信頼していただいて、任せてくださっている分、そこにお応えしたいなという思いになりますね。

羽多野 ヨネダ先生は、僕が別のお仕事をしていてもTwitterで話題にしてくださったり、気に掛けてくださるのがうれしいです。それと新垣さんがおっしゃったように、作品作りに関してもすごく自然体なんですよね。自分たちが表現したものに対しても「なるほど、このキャラクターにこんな面もあったのね」と柔軟に受け止めてくださっているのをひしひしと感じています。

──貴重な交流の様子を教えていただきありがとうございます。では最後に、読者にメッセージをお願いします。

「囀る鳥は羽ばたかない The clouds gather」より。

新垣 今回の劇場版は、言うなれば“男と男とタバコと煙の話”です。アニメーションは、タバコの煙がめっちゃカッコよくてセクシーなので、注目してください!

羽多野 今回、音楽もスタッフさんたちがすごく大切に作っているので、音楽と我々のお芝居と絵で作り上げる世界観をぜひ体験していただきたいです。この作品を表現するうえでは、すべてのセクションに作品愛がないと成り立たないと思います。そのくらい、スタッフ全員がものすごい覚悟を持って制作しているので、完成した作品をぜひ目撃していただきたい。映画館に足を運んでいただければ幸いに思います。