TVアニメ、OVA、実写映画、ミュージカルなど、これまでにもさまざまなメディアミックス展開が行われてきた和月伸宏の「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」。そんな同作を“再構築“した新作TVアニメの放送がいよいよ7月6日にスタートする。
コミックナタリーでは放送を記念し和月と、「るろうに剣心-明治剣客浪漫譚・北海道編-」をはじめ和月の近作にストーリー協力として携わり新作TVアニメの一部話数で脚本も担当している黒碕薫の対談をセッティング。これまでのファンを大事にすることを念頭に置いていたというアニメ化決定時の裏話や、斉藤壮馬のキャステング理由など、原作に沿った形での映像化を目指しているという本作について語ってもらった。なお今年連載開始20周年を迎え、黒碕が初めて和月作品にストーリー協力として携わった「武装錬金」についても話を聞いているので、同作のファンもチェックしてほしい。
取材・文 / 小林聖
プリミティブなファンを裏切らない作品を
──いよいよ7月から新アニメがスタートしますが、最初にアニメ化プロジェクトの話が来たのはいつ頃だったんですか?
和月伸宏 もう正確な時期は覚えてないんですが、コロナが流行する前でしたね。実写映画(2021年公開の「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」)も撮影が終わっていた頃で、その後ミュージカルもありましたが、「剣心」のメディアミックスはそれで一段落だと思っていたのでびっくりしました。
黒碕薫 もうないだろうなってね。
──そんなときに改めて原作を最初からTVアニメ化しようという話が。
和月 令和ならではの「剣心」を作ろうということで。
黒碕 今はセルアニメでなくデジタルが主流になっているし、技術的にもずっと進化している。そういう時代の新しい「剣心」を、という話でしたよね。
和月 そう。もちろん最初のアニメの「剣心」のよさというのも絶対あるし、今観ても面白いと思うんです。だけどその当時の作品って、今の若い子はなかなか観るきっかけがない。だから、改めて今の技術で新しい「剣心」を作ってもらえれば、そこから知ってくれる人も出てくるし、前のアニメを観てくれていた人も改めてイチから楽しんでもらえるんじゃないかな、と。
──今回は和月先生の完全監修という形になっていますが、せっかく新作を作るならこうしたいというイメージはあったんですか?
和月 どちらかというと、変えるポイントと変えないポイントをしっかり見極めようと思っていました。やっぱり原点となる原作や最初のアニメを好きになってくれた人がいるからこそ「剣心」って作品はここまでつながってきたわけです。だから、プリミティブなファン……当時原作を読んでくれていた人、それこそ1巻初版を手に取ってくれたような人や、最初のアニメを第1話から観てくれた人たちを裏切るようなものにしてはいけない。マンガ家ですから、まずマンガのファンを大事にするというのが自分の役目。なので、新しいものを作るからといって原作を変えてしまうような形で再構築するとか、キャラクターデザインをイチからやり直すみたいなのは違う。原作に沿ったものにしようと。原作が完結している状態の今の時代にアニメ化できるというのもポイントですね。原作の内容を最初から最後までしっかりと見つめ直したうえで制作していけるので。
黒碕 そうですね。原作完結後のメディアミックス作品ということだと、映画やミュージカルもそれにあたりますが、どうしても尺の関係で調整が必要になってくる。今回のアニメは贅沢に時間を使える感じになっていて、1話1話原作の内容を丁寧に盛り込んでいただいています。
30年マンガ家をやってきた目線から改めて原作を調整
──その中で変えたポイントというのはどういうところだったんでしょう?
和月 「剣心」はデビューしたてで未熟だったこともあって、今見ると気になるところもある。そういうところを逐一調整している感じです。例えば、(石動)雷十太編なんかは今でも思うところがあったので、大筋は変わらないですが、細かい調整を加えて表現し直しています。あれから30年、マンガ家をやって培った目線で見直してここはこうしたほうがいいかなと思うところに手を入れています。
黒碕 実は今回の雷十太編は私が脚本を担当している回があるんですが、書いた端からワッキー先生(和月)が文句を言ってくるという(笑)。
和月 修正をね……(笑)。
黒碕 ご指導をいただきました(笑)。特にバトルシーンはね。
和月 バトルシーンは……こればっかりはなかなか難しいから。
黒碕 で、「ワッキー先生、バトルシーンのこだわりすごいなあ」と思っていたら、シリーズ構成の倉田(英之)さんや山本(秀世)監督からも「ここはこうしたほうがいいんじゃないですか?」とか「こうできないか」って提案が来たりして。私はアニメの脚本を書くのは20年ぶりだったので、「できるかなあ……?」ってドキドキしてたんですが、意外となんとかなりました(笑)。
和月 皆さん毎回ああでもないこうでもないと、すごくしっかり作品に向き合ってくれて。
黒碕 質の高い打ち合わせをさせていただいて、本当に勉強になりました。あと、倉田さんが考えてくれて新しくなったパートですごく印象に残っているところもありますね。左之助の赤報隊の回想シーンなんですが、別キャラクターからの視点も加わっているんです。これは先ほど話に出たような、原作の内容をしっかり見つめ直したうえで制作できる、今回のアニメならではのシーンかもしれません。
和月 あそこ、素晴らしくいいよね。そうやって補完してくれていっている。