コミックナタリー PowerPush - るーみっくわーるど35~SHOW TIME & ALL STAR~

全作品のカラー画集&圧倒的データ量の大事典! 自宅訪問、35年の軌跡追うロングインタビュー

永井豪の描く女の子のボディラインにハッとした

──デビュー以来、途切れることなく少年マンガの一線で活躍されてこられましたが、少年マンガというジャンルへの思い入れみたいなものもお持ちではないかと。

それはありますよ。子供のころ、少女マンガも読んではいましたが、やっぱり一番のめりこんで憧れたのは少年マンガの世界だったから。

高橋留美子

──特に愛読していたマンガを教えてください。

小さい頃は「おそ松くん」(赤塚不二夫)、「オバケのQ太郎」(藤子・F・不二雄、藤子不二雄(A))、それから手塚治虫先生の「どろろ」や「W3(ワンダースリー)」。中学の時に出会った池上遼一先生のマンガは衝撃的でしたね。池上先生の「スパイダーマン」が欲しくて古本屋を探し回ったり。高校生になると「野球狂の詩」(水島新司)とか「あしたのジョー」(高森朝雄、ちばてつや)とか……。王道の少年マンガ誌だけでなく、ガロのようなちょっとマニアックな雑誌も取り寄せて読んでいました。

──描き手として影響を受けたと思うのは?

いま挙げた作品からも多大な影響は受けていると思うのですが、永井豪先生の存在はけっこう大きいかも。「ハレンチ学園」、それから「デビルマン」に夢中になりました。当時、ストーリーマンガとギャグマンガってものすごく乖離した存在だったんです。仮に同じ作家さんが描くとしても、まったく違うタッチで描くものだった。それが永井先生は、ほぼ同じ頭身の絵でギャグもシリアスも描かれていて……「こんなことがやれるんだ!」と憧れましたね。

──作家としてのあり方という意味で、影響を受けているんですね。

もちろん絵柄の上でも、影響があるかもしれません。「ハレンチ学園」の女の子のなめらかなボディラインは画期的だと思いました。

──なるほど、高橋先生の女性キャラはグラマーすぎず、それでいてセクシーですが、ルーツはそこにあったのですね。実在の女性を参考にしたりは?

ないですね。あ、ラムの名前をいただいたアグネス・ラムの胸のラインはきれいだなあと思いましたけど。

──70年代に人気だったグラビアアイドルの草分けですね。グラビアの世界は巨乳化がインフレを起こすまでに進んでしまいましたが、そこはどう思われますか?

さすがに叶姉妹を見たときはびっくりしましたっけ。よくマンガで描かれてきたスイカのようなバスト、あれは嘘だと思ってきたのですが、実際に存在した!と(笑)。かたや私の描くキャラは、逆にどんどん胸が小さくなってきてるような気がします。

──絵を描かれていて、一番楽しいのはどんな作品のどんなシーンですか?

「SHOW TIME」に収録されている「人魚シリーズ」のカラーカット。

シリアスものでは「人魚シリーズ」とか……。あれは読者みたいな気分を持ちながら、物語にのめりこんで描いていましたね。

──「人魚シリーズ」は「犬夜叉」にも連なる伝奇的な好みが表れていますね。

「人魚シリーズ」はドロドロした不気味な感じ、「犬夜叉」は奇想天外さを出したいなあと。「犬夜叉」のときちょっと調べたんですけど、日本の妖怪ってけっこうのどかなんですよ。人を食べちゃったりしないの(笑)。私はもっとおどろおどろしいのが描きたかったので、「犬夜叉」に出てくる妖怪はオリジナルです。もう、のびのびと手の向くままに。

──高橋先生の妖怪は、不気味な妖怪が出てきたかと思えば、巨大だけどどこかかわいい妖怪が出てきたり、自由度が高いと思ってました。

あ、描いて楽しいといえば、「らんま」の格闘シーンも。私、カンフーコメディが好きなのよ。特に大好きなのがジャッキー・チェンの「ドランクモンキー 酔拳」という映画。あんな楽しいアクションを描きたいと思って!

「るーみっくわーるど」誕生の秘密に迫る

──ドタバタからシリアスまで幅広い作品を手がけてこられましたが、その高橋留美子作品群を総称した「るーみっくわーるど」という言葉は、いつできたのですか?

高橋留美子

これはもともと「うる星」につけられたキャッチコピーだったんですよ。最初のころは「爆笑モンスターギャグ」というキャッチコピーで、それも好きだったんですけど(笑)、二人目の担当編集の方が「るーみっくわーるど」というコピーを考えてくださって。ちなみにその方は、一緒に「めぞん」を立ち上げた編集者でもあります。

──どんなきっかけで生み出されたのでしょう。

きっかけらしいきっかけは特になかったと思いますが……何かそういうオリジナルな言葉を作って読者に印象づけようとしてくれたのかな。最初聞いたときはうれしかったです。自分の名前も入ってるし、読者のみなさんがこれで覚えてくれたらいいなと。

──確かに、「うる星」の世界は「SFコメディ」みたいな言葉では言い尽くせないと思います。「めぞん」も「恋愛ドラマ」だけではくくれないし。高橋先生の未来を見越したような素晴らしいネーミングです。

本当に。いいまとめの総称を作っていただいたなあと思います。たとえば「高橋留美子劇場」みたいにサラリーマンが主人公でも、ちょっとファンタジー要素が入ってきたりしますしね。それが「るーみっくわーるど」ということなのかもしれません。

──逆に「るーみっくわーるど」という世界観を意識して執筆されることは?

それはあんまりないです。所詮1人の人間が描くものだし、私がやる限り、コンセプトはそんなに変わらないと思っていますから。

──「るーみっくわーるど」に流れる通奏低音を強いて挙げるとしたら、コメディの要素だと思うのですが、先生の笑いのルーツはどこにあるのでしょう。

パッと思いつくのは、子供のころ観ていた「大正テレビ寄席」という、落語家や漫才師が出てくる番組ですかね。そこでノリツッコミの形式を覚えたのかも。

──コメディシーンといえば、今日はぜひお聞きしたかったことがあるのですが……おどけたシーンでよく登場する、両手の中指と薬指を曲げたポーズありますよね。あれは高橋先生しか描かれない表現だと思うのですが、何か特別な意味があるのでしょうか。

高橋留美子本人による“あの手”の再現。

これね(と言って実際にポーズを取って下さる)。あんまり考えずに描いたんですけど……、なんだろう、たとえばドタバタシーンでブン殴られるでしょう? そのままぶっ飛ばされると、ややもすれば「痛そう」「酷い」って印象を持たれてしまうかもしれないんだけど、この手になってると不思議とちっとも深刻にならない、という(笑)。余裕あるな、大丈夫なんだとわかるだろうと思って描いたんですよ。

──最初に描かれたのは?

「うる星」で、ですかね。そういえば、あとから読者の方の手紙で、この手の形には「I love you」という意味があると教えてもらって。それはまったく知りませんでした。そんなにいいポーズだとも思ってなかったですよ。

──いやいや、あのポーズこそ、「るーみっくわーるど」のひとつの象徴だと思います。あとドタバタシーンでは「ちゅどーん!」という擬音も印象的ですが。

あ、いろんなところで言ってますが、これは私の発明じゃないんですよ。「ちゅどーん!」は、「うる星」と同時期に週刊少年サンデーで「できんボーイ」を連載されていた、田村信先生が作ったんです。田村先生はすごい! 私は後発ですから、その当時サンデーを読んでいた読者はわかってたと思います。

    
「るーみっくわーるど35~SHOW TIME&ALL STAR~」 / 2013年6月18日 / 9800円 / 小学館
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高橋留美子(たかはしるみこ)

高橋留美子

1957年10月10日新潟県生まれ。日本女子大学卒業。大学在学中の1978年に「勝手なやつら」で第2回小学館新人コミック大賞少年部門佳作を受賞し、同作が週刊少年サンデー(小学館)に掲載されデビューとなった。同年、同誌にて連載を開始した「うる星やつら」で、1981年に第26回小学館漫画賞、1987年には第18回星雲賞コミック部門を受賞。同作はテレビアニメ化もされ大ヒット、ヒロイン「ラムちゃん」は時代を超えて愛され続ける人気キャラクターとなった。また、劇場版となる「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」は押井守監督の出世作としても高い知名度を誇る。以降も「めぞん一刻」「らんま1/2」など歴史に残る人気作を数多く生み出し、代表作の殆どが映像化され、いずれも不動のヒットを記録している。2002年、「犬夜叉」にて第47回小学館漫画賞少年部門を受賞した。2009年より最新作「境界のRINNE」を執筆中。