海崎新太(27歳)は、新卒として入社した会社を3カ月で退職。その後の就活もうまくいかず、親からの仕送りも打ち切られ田舎に戻ることを迫られる。悩みを打ち明けられる友達も彼女もいない……途方に暮れる海崎の前に現れたのは謎の人物・夜明了。夜明は海崎に、ニートを対象にした社会復帰プログラム“リライフ”への参加を持ちかける。その内容は、謎の秘薬で見た目だけ若返り、1年間限定で高校生活を送るというものだった──。
リライフ中に出会った女子高生・日代千鶴への恋心を自覚し始める海崎。しかし日代も、実は海崎と同じリライフ被験者であることが視聴者に明かされたところでテレビシリーズは幕を閉じた。その続きを収めた待望の「ReLIFE 完結編」がついに発売。どうなる海崎と日代の“リライフ”!?
日代も被験者とバラす、それしかテレビシリーズの締め方はなかった
──「ReLIFE」完結記念対談ということで、今日は原作・アニメと両サイドのお話が聞けたらと思います。完結編のBD / DVDが3月21日に発売となり、マンガもそのタイミングに合わせて最終回を迎えるという試みは話題を呼びました。この展開はどういう経緯で決まったのでしょうか?
小坂知 確か、アニメの製作委員会から提案されたんでしたっけ?
夜宵草 ずっと「原作はいつ頃終わりますか?」「ちょっとまだわからないです」といったやり取りを繰り返しつつ、お互いにすり合わせて2018年3月の卒業シーズンに合わせて終わらせるのがキレイなんじゃないかというところに落ち着きました。1年くらい前から残り話数を考えつつ原作のストーリーを展開していたので、しっかり狙い通りに着地できてよかったという安心感が今は強いです。
小坂 アニメは2016年9月にテレビ放送の終了を迎えて、それほど間を空けずに完結編の制作を始めました。2017年の上半期にはもう完成していましたね。
──2016年1月1日に公開された原作111話「会心のドストレート」の一部要素が、テレビ放送最終話(同年9月放送)となる13話に取り入れられていますよね。制作期間を考えると、テレビアニメも完結編もどちらも先に夜宵さんからプロットをもらって作り始めたのでしょうか?
小坂 アニメ「ReLIFE」はテレビ放送もされたのですが、それに先がけて全話を配信で観られるという作品だったので、かなり前の段階からプロットを最後までもらって制作を進めていました。だから111話の内容を先に知ってしまい「知らないままだったら楽しかっただろうに。読者が羨ましいな」と思いました(笑)。
──テレビアニメ制作時に、原作ではどの辺りのエピソードが公開されていたのでしょうか。
小坂 アニメ8~10話の狩生と玉来のエピソードは原作と同時進行で作っていて「長くなりそうだから3話構成にしよう」と判断したのは覚えていますね。あと海崎が先輩の墓参りに行く話をアニメオリジナルで作ろうかという話をしていたその週の更新で、原作でも墓参りが始まって、「やった、方向性が一緒だ」と喜びました(笑)。
夜宵 「原作で日代のネタバレをするより先に、アニメでネタバレしないでほしい」とお願いしたのは覚えています。
小坂 そうでした。でもテレビ放送が13話で終わるためひとまずお話に区切りを付ける必要があって、海崎のリライフを終わらせるという案は原作が続いているから無理。だとすると、もう1つの山場である日代がリライフ被験者だと判明する展開を入れないと絶対に締まらないと思い、そこが着地点になるようテレビ版13本は構成しました。111話で1クール分ということにすれば、もし2期があっても112話から222話でもう1クール作れるし。
夜宵 ちょうどいい計算(笑)。
小坂 わりと制作の初期段階から、テレビシリーズ13話と完結編4話で終わらせるというボリューム感は決まっていたんですけどね。「テレビで放送されて大人気になって話数が増えないかな」という気持ちも少しありつつ(笑)。でも、こうして改めてきっちりと完結まで作らせてもらえるのはありがたいです。
動きの派手さはない会話劇だからこそ、心地よい空間を作ろうと思った
──先ほどアニメ制作のため先に最後までのプロットを渡したという話がありましたが、夜宵さんはほかにどんなふうにアニメに関わられていたのでしょうか?
夜宵 最初に、ストーリー全体のスケジュールを作ってお渡ししましたよね。海崎が何月に夜明に声をかけられて、だとか。
小坂 どこで日代の正体が明らかになるだとか。そのスケジュールとプロットで全体の流れを把握しつつ、キャラクターをしゃべらせる際にはプロットだけだと台詞がわからないので、その都度お話を深く聞かせていただきました。
夜宵 ものすごい長文メールを何度も往復して(笑)。私が大分に住んでいるので、シナリオ会議に出られなかったんです。
小坂 だからシナリオ会議で話し合い、疑問が生まれたらまたメールを送るというのを繰り返していました。
──そのように原作者の協力を得て進行したアニメ化ですが。小坂監督は本作をどのようなアニメにしようと思い描いていたのでしょうか? 「ReLIFE」のように会話劇中心の作品だと、キャラクターが派手に動くシーンがあるわけでもなく、アニメならではの見どころを作るのは難しそうですが。
小坂 会話がメインな分、背景美術や音楽で心地よい空間を作るように心がけました。背景美術はスタジオパブロさんにお願いしたんですけど「うちは手描きに重きをおいているので、デジタル処理しないほうが綺麗に見えます」とおっしゃっていて。「ReLIFE」はデジタル作画のマンガだったので、そういった手描きのぬくもりがある画面はイメージしていなかったんですけど、パブロさんのその話を聞いたときに「やさしい空間が作れるんじゃないか」と感じ、彼らにお願いすることにしました。
夜宵 普通のマンガってモノクロで描かれているので、アニメになったとき色が付いているだけでもずいぶん印象が違うと思うんですが、comico作品は元々フルカラーなんです。だからアニメ化でどれくらい変化を感じるのかなとは思っていたのですが、確かに監督が工夫されたという柔らかい雰囲気は画面から感じられました。あとは動きや声、音が付くとやっぱり世界が違って見えて、キャラクターもいきいきしていましたね。アニメ化される前は全然キャラクターの声なんて想像していませんでしたけど、もう今は声優さんの声で脳内再生されるようになりました。
──夜宵さんはアフレコ現場にも何度か足を運ばれたと伺いました。特に思い出深いことはありましたか? 「ReLIFE」の現場は特に仲が良く、毎週のようにスタッフとキャスト陣で飲みに行っていたと、3月18日に行われたファンミーティングでも明かされていましたが(参照:「ReLIFE」ファンミに小野賢章がサプライズ登場、夜宵草に“卒業証書”授与)。
夜宵 飲み会の話は、いろんなところでしゃべったからもういいかな(笑)。
小坂 私たちが飲んでばかりだと思われちゃう(笑)。アフレコでは、自主リテイクを出す人が多かったですね。「ReLIFE」は心境の変化や二面性があるキャラクターが多く、声にも微妙なニュアンスが求められるので。茅野愛衣さん演じる日代は、成長したという過程がストレートでまだわかりやすい。でも小野賢章さん演じる海崎や、木村良平さん演じる夜明は表でしゃべっていることと心の中で思っていることがかなり違うので、それを表現するのに「こうじゃないですか?」という役者さんからの提案がありました。
──アドリブなども役者さんにお任せで?
小坂 途中からそうなりました。当初はアドリブで言うようなことも台本に書いていたんですけど、3話で日代と海崎の登校シーンをお任せしてみたら、すごく面白いやり取りを小野さんと茅野さんがされたんです。
──「(樋口)一葉さんでターバン折ってみたんだけど~」と、お札のユニークな折り方について雑談している2人を狩生が目撃するところですね。
小坂 そうそう、それからはお任せが多くなりました。
生きた音楽を作る劇伴プレイヤーは、役者と同じくらいに重要
──アニメ版は音楽面へのこだわりを強く感じました。まずジャズピアニストの坪口昌恭さんが作られた劇伴。ピアノソロがキャラクターの心情と連動するように激しくなったり静かになったり、演出と絡む非常に効果的な使われ方をしていたのが印象的です。
小坂 坪口さんの起用は、プロデューサーから提案をいただきました。音響監督のはたしょう二さんと打ち合わせしたところ、彼も「ReLIFE」では生きた音楽を入れたいと言っていたので、それならと坪口さんにお願いしました。
夜宵 「アニメではなかなか聴かない感じだな」というのが第一印象でしたけど、観ていると会話とうまく絡んでいましたよね。会話が止まったときに音楽も止まったり、再開するとまた鳴り始めたりして、すごくハマっていました。
小坂 それはかなり意識したところで。「ReLIFE」は会話劇なのでその会話が心地よく聞こえるよう、うまい具合に曲が絡むよう編集してもらいました。それくらい劇伴は重要な要素になっているので、エンディングのテロップでも役者さんの次に劇伴のプレイヤーの名前を掲載しています。
──エンディングで毎回異なるJ-POPが流れたのも印象的でした。「海崎が17歳のときにMDに入れて聴いていそうな曲を流す」というコンセプトが裏にあると聞きましたが、実際の選曲作業はどのように行われたのでしょうか?
小坂 まず使えそうな曲のリストを出してもらい、そこからエディットしないでも1分30秒の尺に合うようなもの、歌詞的にストーリーに合いそうなものを私がセレクトしました。それを夜宵先生にもチェックしていただいて。
夜宵 L'Arc-en-Cielがとても多かった(笑)。
小坂 ちょうど彼らがたくさん曲を出していた時期が、海崎が17歳の頃と被っていたせいです。シングル3枚同時リリースとかもしていましたし。そんな流れで、エピソードごとにハマる楽曲を選んでいきました。
視聴者を驚かせる役目を「HOT LIMIT」に託した
──花火大会に行こうとする12話でWhiteberryの「夏祭り」を流す、といった具合に上手くエピソードと絡む選曲になっていましたね。
夜宵 私は2話の「HOT LIMIT」(T.M.Revolution)が好きでしたね。あのイントロが流れるだけですごいインパクト(笑)。1話と違うエンディング曲が流れるというだけでもその仕掛けを知らなかった人は「おっ」となるのに、そこに「HOT LIMIT」が来たとなったら今後への期待も高まりますよ。
小坂 それは狙いました。1話の「イージュー★ライダー」は採用された曲の中では少し古めだったと思うんですけど、海崎の“おっさん感”に一番合っているので採用して。そこから毎回エンディングが変わるんだというのを視聴者に伝える役目を「HOT LIMIT」に託しました(笑)。シーンとも上手くマッチして、本当にいい曲をいただけました。
──小坂監督のお気に入りは?
小坂 中島美嘉さんの「雪の華」を使った8話のEDは好きですね。
夜宵 やばかったです。泣いているほのかに朝地と犬飼が駆け寄るところで曲が流れ始める、というタイミングが抜群によかった。
小坂 やっぱり前奏がうまく入ってくる曲はありがたいですね。