コミックナタリー PowerPush - 入江亜季「乱と灰色の世界」
主人公と歩み成長した7年を語る 完結記念ロングインタビュー
描けば描くほどキャラクターが定着して壊せなくなるんです
──これはお世辞じゃなく、ラスト本当によかったです。ひとつには単純にいいセリフで終わってよかった、っていうのと、あと1話目で振った話がちゃんと回収されたーっていう。
それは(「群青学舎」で)いっぱい短編作ってきたから、最初と最後はもう間違わないんです。途中はね……、3、4巻くらいかと思ってたら7巻かかりましたから(笑)、どんだけ迂回したんだっていう。もともとは変身する話を描きたいって言ってたんですよ。少女が変身する話。
──その変身を描きたい、っていう動機はどのあたりに。
大人の見かけの中に素直な少女が入ってる、って状態を描きたかったんです。素直っていうのは、親切を邪推しないというか、鏡のような態度というか。良心をそのまま受け取る。こっちが好意を示せばちゃんと喜んで返してくれる。そういう、ちょっとバカだなってくらい素直な女の子がいいなって思ったんです。
──見かけは大人で。
そう。でもそんな大人なかなかいないじゃないですか。
──まあ、そうかもしれません(笑)。
けど、少女が変身して大人の見かけになってるってことなら、それが描けるなーと思って、それで魔法少女だってことになったんです。乱は早く大人になりたいから魔法を使って大人になる。だけどそれじゃ本当に成長したことにならないと気づく出来事があって、ちゃんと成長するために魔法を使うことをやめる。それが7年前の構想でした。そこから長い長い旅が……。
──その長い旅路での難所というか、どこが難しかったですか。
描けば描くほどキャラクターが定着して壊せなくなるんですよ。成長させて変化させると、それまでの魅力も一緒に壊してしまうことになるので「どうしたらいいんだ」と思って。それでだいぶ手が止まってしまいましたね。
──それって何巻くらい?
えー、言わせないでくださいよー。これだけ長くなってるんだからわかるじゃないですかー(笑)。
毎日毎日コツコツやるしかないんですよね。めんどくさいんですけど
──そのパートも、凰太郎が死ぬことで、すべてが動き出しましたね。
キャラクターの役割というだけなら、凰太郎はあんないい奴にならなくてよかったというか、むしろ悪い奴で生き続けてもよかったんです。でもキャラクターを壊してでも、お話を進めなくちゃならなくて。
──乱が成長する、という大きなお話のために。
そうですね。それで真剣に殺す展開になるって打ち合わせで決まったときに、じゃあ凰太郎がどう死んだら美しいかと思って、前後関係なくそればかりを考えてしまったんですね。それが私がマンガを描くときのいちばんの欠点なんだってよくわかりました。流れをぶったぎってしまうという。それで話の流れとかを忘れて……。
──すごく時間をかけて、がんばって殺しちゃったんですね。
うん、どうせ死ぬなら綺麗に死んでもらおうと思って。「マンガですごくカッコよく理想的な死に方をするのって誰かな」ってまわりに聞いたら、冨(明仁)さんが「ラオウだ」って言うから。だから最後まで凰太郎らしく、でも自分が悪かったことも悔いたりして、乱にふさわしい自分になって死ぬんです。
──あれラオウでしたか(笑)。でも聞いてると、入江さんの中でキャラクターとかシーン単体への思い入れより、ストーリーというか、物語を紡ぐことの重要度がある時期に上回ったんだなってわかりました。そこには葛藤もあったんでしょうけど。
そう言われるとうれしいですね。それこそが今回の作品で一番できるようになりたかったことですから。
──いいですね。乱を成長させるために乗り越えたことが、作者である入江さん自身も成長させてくれた、という。
成長かー。したのかなあ。うーん。まあセンスだけだとやっぱり、行き詰まるのが見えるので。毎日毎日コツコツやるしかないんですよね。本当はめんどくさいんですけど、そうするしかない。
──すごい。いま入江さんが言ったの、ラストシーンの乱のセリフじゃないですか。
そうだ。うわー。でもそうなんですよ(笑)。じゃあ取材もそのセリフでおしまいにしましょう。7年間お付き合いくださって、ありがとうございました!
オトナになりたかった魔法少女の成長物語、完結。
これまでのストーリーに出てきた、すべてのキャラクターが再び登場。乱と、家族と、灰町の人々を取り巻く大人気連載作品が、いよいよ完結。最新7巻は内容ぎっしり、特厚296ページ!
入江亜季(イリエアキ)
香川県生まれ。2002年、ぱふ(雑草社)にて入江あき名義で掲載された「フクちゃん旅また旅」でデビュー。2004年、読切シリーズ「群青学舎」を連載。2006年、個人誌の作品をまとめた単行本「コダマの谷」を刊行。2008年より連載を開始した初の長編作品「乱と灰色の世界」は7年間にわたり執筆され、2015年に完結を迎えた。豊かな想像力と、魅力的なペンタッチから描かれる数々の作品は男女ともにファン多し。
2015年8月21日更新