コミックナタリー Power Push - Fellows!
入江亜季「乱と灰色の世界」 - Fellows!発、作画プロセス動画第2弾はアナログ着彩の名手がノウハウを初公開
最初に力を入れたら、あとはスッと抜いていく
入江 どうしよう……途中だけどペン入れしちゃおうかな。行き詰まったときは、途中でペン入れをして画面を引き締めてみたりします。よし、そうしよう。
──入江さん、ペンタッチが独特ですよね。軽やかなタッチといいますか……。
入江 私、最初にペンを置いたらあとは力を抜いて描いちゃうんですよ。コミックナタリーの森薫さんの動画を観たんですが、森さんはペンを紙に置いてから抜くまでずっと力を使って描いてますよね。たぶんペンの入りから抜きまで意識して描いてると思うんですよ。でも私は最初力を入れたら、あとは勢いで描いちゃうんです。おかげで線のコントロールはあんまりうまくできないんですけど(笑)。
──でもそれが「味」になってますよね。
入江 不思議となっちゃってますかね……。最初はちゃんと描こうとしていたんですけど、力を入れて描こうとすると歪んじゃったりして。それを隠すため……隠すため?(笑)。
──適度に力を抜いて描いたほうが歪まない?
入江 いや、歪むんですけど、歪んでも人体も小道具も記号としてある程度は伝わるし、勢いでごまかせみたいな(笑)。もうどうせ歪むなら描いていて気持ちのいいほうで。
──今の描き方になって、一時期絵柄がガラッと変わりましたよね?
入江 そうかもしれません。あるときからザクザク描くようになって……。昔の同人誌とかを見ると、もうちょっと線も細くて丁寧に描いてるんですけど、あの頃どうやって描いていたのかも思い出せないです。青年誌を意識していたのと、早くたくさん描かなきゃいけない時期とかを経て、こういう描き方になったんじゃないかな。雑に見えませんかね……。
──雑とは思いませんが、個性的なタッチになってきてますよね。
入江 うーん(笑)。最近Gペンに変えたんですけど、前に使ってた丸ペンよりコントロールが難しくて、頭よりペンが先に動く感じなんですよね。ちゃんと入りから抜きまで意識してコントロールされた線は1本でも存在感があって、説得力があって美しいので憧れています。
アナログの「戻せない」ところがいい
──最近はパソコンで着彩する方が増えていますが、入江さんは興味あります?
入江 うーん……便利だとは思うんですけど、パソコンって絵から手までの距離が遠いんですよね。筆だと直に紙に触れられるので、絵から手までの距離が短い。その作業が楽しいので筆でやってるんだと思います。筆の手触りとか、塗っていく感触もすごい好き。モノクロのマンガでは使えたらいいなとか思うことあるんですけどね。
──仕上げだけパソコンでやってみよう、みたいなことは。
入江 実はデジタルで色塗りをやってみた時期もあったんですけど……結局アナログに戻ったんです。あの、パソコンって「戻る」ボタンがあるじゃないですか。でもアナログは、当たり前だけど「戻る」ボタンがない。でもその戻せない感じがいいんですよね。
──戻せないことを不便に感じる人のほうが多そうですけど。
入江 アクリルは絵の具を塗り重ねていけるので、失敗してもやり直せるんですが、「戻る」ボタンみたいに消せるわけじゃないんです。失敗したものに色を重ねれば、前の色が残っていく。でもそれも魅力になるなと思ったんですよ。失敗すら人の目に留まる大事な情報のひとつになるんじゃないかなと。アナログで色を塗ると、1色だけ塗ってもまだらになったり、紙の目が見えたり毛羽立ったりしますが、デジタルは良くも悪くも汚れがないじゃないですか。そういう微細な情報量の多さがアナログの絵を手触りのあるものにしてると思うんです。
あらすじ
父と兄の3人で暮らす元気いっぱいの小学生・乱。しかしその正体は靴を履くとセクシーな美女に変身してしまう魔法少女だった!
短編連載「群青学舎」で、圧倒的な画力と独特の世界観でファンを魅了した、入江亜季による初長編連載作。
作者コメント
魔法少女が描きたかったというか、小さい女の子が大人に変身できる話が描きたかったんです。形だけ大人になっても、ホントに大人になるってそういうことじゃないんだ、大人って見かけじゃないんだっていうことに気付いてゆく、そんなお話です。初めての長編というのもあって、まだ手探り状態で描いているんですけども(笑)。
まだ今は乱の話くらいしか出ていませんが、乱、陣(兄)、静(母)、全(父)の家族4人の物語なので、これからあと3人分の話も楽しみにしていただけたらと。あと今後は小学生の男の子がちょっと出張ってきます。読んだ方には自由に楽しんでもらえたらうれしいです。
入江亜季(いりえあき)
香川県生まれ。2002年、ぱふ(雑草社)にて入江あき名義で掲載された「フクちゃん旅また旅」でデビュー。2004年、月刊コミックビーム(エンターブレイン)にて「群青学舎」の連載を開始。卓越した画力と、バラバラな物語がひとつの作品世界を紡ぎ出す魅力的な短編で人気を博す。2006年、同人時代の作品をまとめた単行本「コダマの谷」をエンターブレインより刊行。現在Fellows!(エンターブレイン)にて初の長編作品「乱と灰色の世界」を連載中。