「ボクのマンガは道徳マンガだよ」
──動物の話ばかり聞いてしまいましたが、「ランペイジ 巨獣大乱闘」に出てくる人間たちについて、印象に残ったキャラクターはいましたか?
主人公の学者(デイビス)を演じているプロレスラーの……ドウェイン・ジョンソン? 彼はいかにも正義感が強そうだしさ、表情から愛情を感じられるし頼もしさがありました。あの人が出ている映画をあまり観たことなかったんですけど、あんなにいい役者だったんですね。
──「ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル」など、主演映画も多いですからね。
最初は嫌なヤツかと思っていた人間をデイビスが助けて、信頼関係を築くじゃないですか。そうやって友情が芽生えるシーンはマンガでもすごい大切な要素なんだよね。強いヤツが敵で、そいつが味方になるとブワッて人気が出るんですよ。
──「昨日の敵は今日の友」的な要素はジャンプでは定番ですよね。「映画とマンガ作り」ということに関してもう少し伺わせてください。先ほど「トランスフォーマー」がお好きというお話もありましたが、普段どのくらい映画を観られますか?
家にいるときはスカパー!の映画チャンネルをずっとつけてますよ。本を読むより楽しいですね。今の映画って映像がすごいじゃないですか。ストーリー展開もマンガ的というか、どんどん速くなってきて、最初はそのスピード感についていけないこともあったけど、だんだん慣れてきましたね。昔は「そこで助かるなんておかしいだろ」みたいなこともあったけど、今はそういう細かいことを気にしないのが世間の基準なのかなとは思います。
──「ランペイジ 巨獣大乱闘」も話の展開は速いですよね。
うん。次から次へといろんな事が起こって、楽しかったです。
──マンガを描くにあたって、影響を受けた映画はあるんでしょうか。
映画というよりは、ボクらの世代はテレビでやってたアメリカの西部劇で育っているので、その影響が強いかな。「ボナンザ」とか「ララミー牧場」とか「ライフルマン」とかね。そういった作品って道徳観が強かったんです。
──確かに高橋先生のマンガは、友情や信頼関係を大切にされている印象です。残酷なシーンもあるにはありますが……。
うん。動物が死ぬシーンもあるけど、むやみやたらに死んでいくみたいなことはなるべくないようにしてますから。なんだろうな……正義の心を持って死んでいけばいいんじゃないかみたいな。だからどんないい死に方をさせようかなって、いつもそれで苦労するんです。子供たちが読んで何かを吸収してくれるようなね。「ランペイジ 巨獣大乱闘」も動物が暴れるだけじゃなくて、そういう友情とか愛情といった部分が描かれているのがよかったですよ。どんな作品にもそういう部分は大事だから。迫力だけじゃなくてね、「いい映画だったな」って思える部分。
──確かに、迫力だけだと観た後に何も残らないかもしれませんね。
マンガでも、怖いだけじゃなくて愛情や友情がしっかり描ければ読者はついてきてくれるんです。そういえば「銀牙伝説ウィード」が週刊漫画ゴラクで始まるときに、編集長にも「ボクのマンガは基本、少年マンガだし道徳マンガだよ」って言ったんですよ。ゴラクって青年マンガ誌だし、大人向けのマンガもいっぱい載ってるじゃない?
──確かに。エッチなマンガとアウトローなマンガも多いですね。
「ここに道徳マンガが載っても大丈夫かな」って思ったんだけど、編集長からも「大人にも通じますよ、いいじゃないですか、やりましょう」って言われて。結果的には大ヒットしたんだけどね。
自分では描けないものがすべて入っている映画
──「銀牙ー流れ星 銀ー」からスタートした「銀牙」シリーズは、「銀牙伝説ウィード」「銀牙伝説WEEDオリオン」「銀牙~THE LAST WARS~」と続き、そのほかスピンオフも数多く生まれています。長く愛される秘訣はなんだと思いますか?
やっぱり動物が怖いというだけじゃなく、優しい部分を表現してるところじゃないのかな。「銀牙」に出てくる犬たちをいつの頃からか擬人化させたっていうか……犬同士の会話を人間の言葉で描くようにしたんですよ。
──犬なのに、時には時代劇のような口調で熱いことを言いますよね。「己の身がかわいくて泣く男など…奥羽の戦士に一匹もおらんぜ」みたいな。
人間が言うとクサくなっちゃうようなセリフでも、犬に言わせるとスッと受け入れられたりするんですよ(笑)。
──確かに、先ほどおっしゃっていたような道徳的なセリフも自然に読める気がします。
今のボクの読者はお父さん、お母さんになった子育て世代が多いんです。子供たちからもファンレターが来るんだけど、親から「これ読め」って言われるらしいの。子供が犬の絵を見て「これ読みたい」って言うと「じゃあ最初の『流れ星 銀』からだな」って勧められるんだって(笑)。子供が読めるマンガって少なくなってる気がするので、そういった意味では、子供が読んでも安心なものなのかなとは思いますね。
──乃木坂46の西野七瀬さんも、まだ23歳なのに「銀牙」ファンを公言していて、赤目さんが好きって言っていましたね。テレビ番組で直筆サインをもらって号泣しているのを観ました。
急にテレビ番組のスタッフの方から「サインを送ってくれないか」と頼まれて、送りましたね。
──子供や西野さんのような若い世代にも「銀牙」が読まれているというのはやはりうれしいですか。
若い子に読まれても特別何かがあるわけでもないからなあ(笑)。でも好き勝手に描かせてもらっているだけなのに、まだ自分が通用しているのかなっていうのは思いますね。だからこれからも自分なりに愛情のあるエピソードを入れながらね、あんまり反道徳的な方向には行かないようにしようとは思います。悪役が主人公になるっていうことは、ボクのマンガではまずないです。
──現在ゴラクで連載中の「銀牙~THE LAST WARS~」は、犬とクマが争っているだけではなくて、犬の中に「戦いをやめて話し合いで解決しよう」「復讐の連鎖を断つ」という派閥が出てきているのが面白いです。
そのあたりは世界情勢を反映させました。なるべく戦争しないようにというメッセージも込めて。「ランペイジ 巨獣大乱闘」も、ワニは無理そうだけど、ゴリラだったら話し合って和解することもあるんじゃないですか(笑)。
──最後に、改めて「ランペイジ 巨獣大乱闘」を「銀牙」ファンの読者にアピールしていただけますか?
自分では描けないものがすべて入ってる映画だから、ボクのマンガの読者にもぜひ観てほしいですね。正直、ボクのマンガじゃ、この映画に敵わないもんな(笑)。
──いやいや(笑)。
本当に「どうしたらあんなにうまく描けるんだろう?」ってうらやましいぐらいだから。これを観てからボクのマンガを読むと迫力が足りなく感じるかもしれない(笑)。でも動物たちの迫力だけでなく、実は愛情や友情といったテーマも描かれてる作品だと思います。本当に面白かったから、今度出る単行本巻末のコラムにもこの映画のこと書こうかな。
- ストーリー
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巨大化が、止まらない。遺伝子実験の失敗により、ゴリラのジョージ、オオカミのラルフ、ワニのリジーが巨大化、そして凶暴に。シロナガスクジラやチーター、カブトムシなどさまざまな生物の遺伝子を備えた3体は、人類には制御不能の特殊生物に変貌を遂げた。そんな中、霊長類学者のデイビスは人類代表として、街中で大乱闘を繰り広げる巨獣たちの制止を試みるが……。
- スタッフ / キャスト
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- 監督:ブラッド・ペイトン
- 出演:ドウェイン・ジョンソン、ナオミ・ハリス、マリン・アッカーマン、ジェイク・レイシー、ジョー・マンガニエロ、ジェフリー・ディーン・モーガンほか
© 2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
- 高橋よしひろ
「銀牙~THE LAST WARS~⑯」 - 発売中 / 日本文芸社
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コミックス 640円
モンスーンとの共生、それが唯一、戦いを避ける手段だと信じてモンスーンのもとへ自ら赴いたシリウス。
しかし、モンスーンとの対話はうまくいかず、傷付くだけのシリウス。シリウスとは考えを異にするオリオンは、モンスーンを殲滅することが平和へのただ一つの手段であるとして赤目より託された技を磨く!!
割れる奥羽軍に未来はあるのか!? 熊との異種格闘を描く最新第16巻発売!!
- 高橋よしひろ(タカハシヨシヒロ)
- 1953年秋田県生まれ。1972年に「下町弁慶」が週刊少年ジャンプ(集英社)に掲載されデビューを果たす。その後月刊少年ジャンプ(集英社)で1976年より「白い戦士ヤマト」、週刊少年ジャンプで1983年より「銀牙ー流れ星 銀ー」を発表しともにヒット作となる。「銀牙」シリーズはその後も「銀牙伝説ウィード」「銀牙伝説WEEDオリオン」など数多くの続編が制作されており、現在週刊漫画ゴラク(日本文芸社)にて、「銀牙~THE LAST WARS~」が連載されている。
2018年5月17日更新