1980年代に発表されたアーケードゲーム「RAMPAGE」を題材にした実写映画「ランペイジ 巨獣大乱闘」が、5月18日に全国公開される。同作は遺伝子実験の失敗により巨大化したゴリラ、オオカミ、ワニが大暴れするパニックアクションだ。
本作の公開を記念し、ナタリーではコミック、映画、音楽の3ジャンルで特集を展開。コミックナタリーでは「銀牙」シリーズや「白い戦士ヤマト」などを発表してきた高橋よしひろにインタビューを実施した。長きにわたり犬たちのドラマを描き続け、動物マンガの第一人者とも言える高橋。映画鑑賞直後、「あんな描写は自分じゃできない」と興奮する高橋に、作品の魅力や見どころについてたっぷりと語ってもらった。
取材 / 宮津友徳 文 / 松本真一 撮影 / 小坂茂雄
あんな描写は自分にはできない
──今「ランペイジ 巨獣大乱闘」をご覧になっていただいたばかりですが、率直な感想をお伺いできますか?
見入っちゃいましたね。やっぱり動物ものだから(笑)。本当はね、あまり期待してなかったというか……映画は好きで最近のも観ているんですけど、「トランスフォーマー」シリーズみたいにCGがすごい作品っていっぱいあるじゃないですか。「ランペイジ 巨獣大乱闘」のCGが「トランスフォーマー」のような作品のCGを超えられるかなって思っていたんです。でもお世辞を言うわけじゃないんだけど、「ランペイジ 巨獣大乱闘」はほかの作品ともまた違うすごい迫力があって、びっくりしましたね。
──どのあたりに迫力を感じました?
最後のほうで、動物たちが大きなビルに登ったり、動物に襲われた街がめちゃくちゃなことになったりするシーンのリアル感とかですね。あれはマンガじゃとても表現できないですよ。
──CGだからこそ、より説得力が増す描写かもしれません。
たとえばビルの窓ガラスが割れて落ちるシーン。「ああ、実際に落ちたらこうなるんだ」っていう、そういう表現がすごい細やかで、あんな描写はボクに描くことはできない(笑)。自分がそこにいるぐらいの迫力だったし、驚きました。制作時間がどれだけかかってるのかと思うと、恐ろしいものがあります。
──作る側の目線で観てしまうと。「ランペイジ 巨獣大乱闘」はその邦題通り、ゴリラのジョージ、オオカミのラルフ、ワニのリジーという巨大化した動物が暴れまわる作品です。「銀牙」シリーズなどの動物マンガを数多く描かれている高橋先生から見た動物描写はいかがでした?
ゴリラの表情がよかったです。あれだけ怖いゴリラの表情がね、ニコッと笑って柔らかくなったりするじゃない。ああいう表情の変化ってマンガで描写しようとするとすごい難しいんだけど、この映画はものすごく自然にできてるなと思ってね。勉強になりました。
──もしも巨獣3体の中でどれかをマンガに描くなら……という質問をしようと思っていたんですが、そこはやはりゴリラのジョージになりますかね。
そうですね、描いてみたいです。映画の序盤にはジョージの幼い頃のエピソードも回想シーンとして盛り込まれているから、感情移入もしやすかった。さっきも言いましたけど、表情とかの描き方も俺なんかじゃ描けないぐらいすごく上手かったし、あのゴリラを主人公にした物語でも全然売れるんじゃないですか。
物語に大事なのって結局は「敵」なんですよね
──「銀牙」に登場するキャラクターたちとはイヌ科という共通点がある、オオカミのラルフはいかがでした?
オオカミが最初に登場するシーンがあるでしょ。森で特殊部隊に撃たれるところ。あそこはオオカミがはっきり映ってないから、「どんなのが出てくるのかな」って楽しみにしてたんですよ。特殊部隊の隊長に背後から近づいてくるあたりで、その全貌が明らかになるじゃないですか。ヘリに飛びかかるシーンは、想像以上に恐怖を感じました。……いやあ、オオカミって怖いよね!
──「銀牙」でオオカミを描かれている高橋先生から見ても、怖く感じるような存在だったと。
でも言い方は難しいけど、オオカミとワニは怖くてもただ凶暴なだけだな、とは思いましたね。ゴリラは知能的に多少は人間と意思の疎通ができるじゃないですか。それと比べるとただ暴れるだけの悪役っていうのかな。
──「銀牙」の熊たちのようにセリフがあるわけでもないから、感情移入はしにくいかもしれないですね。
うん、でも悪役だからそれでもいいんですけどね。性格がわからないなりの不気味さっていうのもあるから。「ランペイジ 巨獣大乱闘」のワニもオオカミもちゃんと怖かったですし。軍隊が銃とか手榴弾で攻撃しても復活してくるじゃないですか。
──セリフがないから、攻撃が効いているかどうかわからない怖さっていうのはあるかもしれません。
うん、怖かった。あれに「銀牙」の犬たちならどう立ち向かうか、みたいなことを考えながら見ちゃいますよね(笑)。
──(「銀牙」シリーズに登場する)赤カブトやモンスーン以上の敵ですね。
結局ね、物語に大事なのって「敵」なんですよね。ボクのマンガの場合も、ひとつの話が終わるときって敵がいなくなるときなの。そうすると新しい話を始めるとき、次の敵を作るのにはやっぱ苦労するよね。
──「銀牙」シリーズは敵側の動物が個性的ですよね。赤カブトは人間の撃った弾丸が脳に損傷を与えた影響で10メートル以上の巨大熊になりますし、ほかにもホッキョクグマと他種のハイブリッド種が出てきたり、オオカミの軍団が出てきたり。
やっぱりありきたりの動物だと面白くないから、苦労して考えますよ。
──「銀牙伝説ウィード」には、製薬会社の遺伝子操作によって生まれた巨大な怪物犬が出てきますね。改めて読むと「ランペイジ 巨獣大乱闘」と似ている設定で驚きますが、あの怪物はどうやって生まれたんでしょう。
動物を大きくする研究をしている機関があるっていうのを何かで見たんじゃなかったかなあ……。あとは想像で。「ボクなら何を大きくするかな、チワワかな」とかそういうことも言いながらね(笑)。
──人を襲う巨大チワワ、嫌ですね(笑)。
結局「ウィード」では怪物という人間を襲う犬を登場させたけど、怪物が生まれたのは人間のせいなわけだから、一概に怪物が悪いという描き方にはしませんでしたね。
動物を描くときに大事にしているのは……
──もし「ランペイジ 巨獣大乱闘」に続編があったら、どういう動物が出ると面白いと思いますか?
虎とかライオンが好きだからそういった動物ですかね。あるいは各国を代表するような神話の怪物みたいなのがいるじゃない。ああいう怪物同士が戦うのも面白いかもね。
──「ランペイジ2」にはヤマタノオロチやドラゴンが出てほしいと。スケールが大きいですね。
昔、週刊少年ジャンプ(集英社)で連載していた頃にね、巨大化した昆虫の話を描きたいなーって思っていたことがあったんですよ。でも絵で表現するのがすごく難しくてやってないんですけど。
──昆虫版「ランペイジ」も面白そうです。そういえば「銀牙」は犬の話だけではなく、いろんな動物の短編を続けて連載する予定だったそうですね。
そう。サメとかね、牙のあるいろんな動物ならなんでも描けるっていう意味で「銀牙」なんですよ。「銀牙ー流れ星 銀ー」の「流れ星 銀」っていう部分だけを変えて別の動物で続けていくという。ジャンプっていうのは、人気が衰えるとすぐに終わっちゃうからね。シリーズにすれば、犬の話がたとえ10回で終わってもまた次の動物を出して新しい話を始めようっていう感じで考えていたわけ。幸い最初の「流れ星 銀」が続きましたけど。
──ちなみに高橋先生が、マンガで動物の怖さを描くときに大切にしているのはどういう部分になるんでしょうか。
ビジュアル的な面だと、動物が呼吸している息の描き方ですかね。映画でいうとエイリアンなんかは、よだれをすごい垂らしてるじゃないですか。ああいう生暖かさや、臭いがしてくるような描写ってすごく大事だと思います。
──「生きている」と思わせる描写ということですね。
外国人の「銀牙」マニアの人からは「犬の周りにあるこの白い丸はなんですか?」って聞かれたことあるけどね。息だってわからなかったみたい(笑)。
──小さい頃からマンガに触れてないと、記号的な表現がわからないのかもしれないですね。
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「ボクのマンガは道徳マンガだよ」
- ストーリー
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巨大化が、止まらない。遺伝子実験の失敗により、ゴリラのジョージ、オオカミのラルフ、ワニのリジーが巨大化、そして凶暴に。シロナガスクジラやチーター、カブトムシなどさまざまな生物の遺伝子を備えた3体は、人類には制御不能の特殊生物に変貌を遂げた。そんな中、霊長類学者のデイビスは人類代表として、街中で大乱闘を繰り広げる巨獣たちの制止を試みるが……。
- スタッフ / キャスト
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- 監督:ブラッド・ペイトン
- 出演:ドウェイン・ジョンソン、ナオミ・ハリス、マリン・アッカーマン、ジェイク・レイシー、ジョー・マンガニエロ、ジェフリー・ディーン・モーガンほか
© 2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
- 高橋よしひろ
「銀牙~THE LAST WARS~⑯」 - 発売中 / 日本文芸社
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コミックス 640円
モンスーンとの共生、それが唯一、戦いを避ける手段だと信じてモンスーンのもとへ自ら赴いたシリウス。
しかし、モンスーンとの対話はうまくいかず、傷付くだけのシリウス。シリウスとは考えを異にするオリオンは、モンスーンを殲滅することが平和へのただ一つの手段であるとして赤目より託された技を磨く!!
割れる奥羽軍に未来はあるのか!? 熊との異種格闘を描く最新第16巻発売!!
- 高橋よしひろ(タカハシヨシヒロ)
- 1953年秋田県生まれ。1972年に「下町弁慶」が週刊少年ジャンプ(集英社)に掲載されデビューを果たす。その後月刊少年ジャンプ(集英社)で1976年より「白い戦士ヤマト」、週刊少年ジャンプで1983年より「銀牙ー流れ星 銀ー」を発表しともにヒット作となる。「銀牙」シリーズはその後も「銀牙伝説ウィード」「銀牙伝説WEEDオリオン」など数多くの続編が制作されており、現在週刊漫画ゴラク(日本文芸社)にて、「銀牙~THE LAST WARS~」が連載されている。
2018年5月17日更新