コミックナタリー PowerPush - 楽園 恋愛マンガの楽園が、ここにある。

年3回刊、俊英ぞろいの極上アンソロジー 執筆作家17人が参加した総力特集

勝手にクラスメイトみたいな親近感を(明日美子) いや、軍隊?(沙村)

中村 飯田さんは結構ほかの楽園作家さんの話をするじゃないですか。だから私は、クラスメイトみたいな親近感を勝手に抱いてるかも。なんかこう、「楽園でがんばってるよね俺たち」っていう、ゆるーい連帯感がある気がします。

中村明日美子が描き下ろした、座談会の風景。画:中村明日美子

沙村 なんていうんですかね……クラスメイト……いや、軍隊?

一同 えええー!?

中村 そんなの思ってるの沙村さんだけですよ!(笑)

木尾 連帯感はあると思います。アフタヌーンには、それはあんまりない気はしますね。

中村 アフタはしのぎを削ってる感がすごいんじゃないですか?

かずま ライバル関係っていうか。

中村 そうそうそう。

沙村 それは雑誌の立ち上げから関わってるかどうかもあると思う。アフタは自分が入ったときすでに出来上がってる雑誌だったから、その中で自分に何ができるか試されてる感じがある。楽園はどうなるのかまだ全然わからないところからやってるから。

中村 すみません、さっきの沙村さんの軍隊発言が頭から離れないんですけど……沙村さんは「楽園軍」で言うと、どのポジションなんですか。軍曹?

沙村 みんなと会ったわけじゃないから何ともだけど、まあ、俺は衛生兵みたいなもんですよ!

中村 えー、いちばん後方じゃないですか。

沙村 そう、後方支援で(笑)。

中村 全体の中のポジションということで言うと、私はまとまったページ数を求められてるなって気はすごいする。32ページ以上は描かなきゃとか、まあまあ意識します。

木尾士目「Spotted Flower」第1回(楽園第4号掲載)の扉イラスト。

木尾 僕とまったく逆ですね。ほっとくとページ数増えちゃうんですが、増えないようにしてるんですよ。それは雑誌のバランスを考えてとかじゃなくて、単純に描くのが面倒くさいからなんだけど(笑)。できるだけ背景を描かないようにしようと思って、「Spotted Flower」の舞台はすごい新築っぽいマンションにしてるんです。

かずま まだ物がないから(笑)。

木尾 でも今度の11号に載る回は(オタクの)旦那の部屋の中の話になっちゃって。ほぼ全ページ全コマに、ごちゃごちゃと物を描かなきゃいけない状態になってしまって、キツかったですね。

中村 木尾さんとか沙村さんは、アフタで結構しっかりしたページ数描いてるから、楽園でもガッツリ描いてたらふたりがすごい痩せちゃうかなって(笑)。だから私ががんばんないとと思ってるんです。

一同 あはははは!

中村 私が軍曹ですかね?(笑)

──以前ある作家さんが、自分の描いてる雑誌を「ショートばっかりいる野球チームみたい」と例えてたんですが、それで言うと、楽園は各ポジションがバランスよく配置されているという感じなんでしょうか。

中村 編集さんが1人っていうのはやっぱり大きいでしょうね。

沙村 マンガ雑誌は、だいたいどこもショート過剰ですよ。それはどうしてかって言うと、編集者はみんな、自分の担当してる作家を看板作家にしたいと思うものだから。だから少なくとも編集者の数だけショートが増えてしまうのではないかな。

木尾 楽園は台割とかも全部飯田さんが決めてるから、いわば打線を揃えてる監督ですもんね。いま思ったんですけど、楽園だと、掲載順がどこになっていようが別に気にならないんです。アフタヌーンだと「こんな後ろか、大丈夫かなあ」とか気にするんですけど。

沙村 楽園はアンケートとらないって最初に聞いてるしね。基本的には放任主義で描かせてもらえてる感じがします。

12作家からの描き下ろしイラスト「あなたにとって、楽園とは?」[4]
二宮ひかる
平方イコルスン
林家志弦

若い人がどんどん単行本を出せてるいい雑誌(明日美子)

──お話は尽きないですが、それでは最後に楽園をアピールするメッセージをそれぞれお願いします。

かずま 私のマンガを気に入ってくださった方だったら、楽園を読めば絶対好きなマンガが見つかると思うし、逆に私のマンガがあまり面白くなかったとしても、ほかに面白いマンガが必ず載ってるので。単行本を買って下さるのもうれしいですが、どうか本誌に手を出してみてほしいなって思います。

中村 細く長く生きられる雑誌になるといいですよね。ここから初めて単行本を出したって人も多いし、若い人がどんどん単行本を出せてるというだけですごくいい雑誌だと思う。

沙村 今年は恋愛マンガを描きます! ……のでどうぞひとつ。自分の今までの読者の人たちに「変わっちまったな」って思われて、板挟みで苦しむかもしれないけど、うまくやりますんで(笑)。よろしくお願いします。

木尾 沙村さんはたぶん単行本が出るんでしょうけど、俺は載ってるのが本当に数ページなので、まだちょっとよくわからない感じで(笑)。いつか単行本を出せることはとても楽しみですが、ひとまず本誌のほうでは、このまま続けていきますのでよろしくお願いします。

かずまこをが描き下ろした、座談会の風景。画:かずまこを
楽園 第11号 / 2013年2月28日発売 / 880円 / 白泉社
楽園 第11号
掲載作品

中村明日美子「いっしょに帰ろう楽園くん(仮)」「楽園くん(仮)あるいは猫」「遅れ馳せの楽園くん(仮)」、かずまこを「ダーリング」、沙村広明「殺し屋(ヒットマン)リジィの追憶」、木尾士目「Spotted Flower」、水谷フーカ「14歳の恋」、シギサワカヤ「お前は俺を殺す気か」、黒咲練導「ユエラオ」、宇仁田ゆみ「こうかん法則2」、二宮ひかる「かみさま」、ハルミチヒロ「夜をとめないで」、売野機子「しあわせになりたい」、鶴田謙二「ひたひた」、志摩時緒「あまあま」、kashmir「てるみな」、犬上すくね「アパルトめいと」、あさりよしとお「小惑星に挑む」、仙石寛子「夜毎の指先」「真昼の果て」、西UKO「コレクターズ」「アップ&ダウン」、竹宮ジン「想いの欠片」、平方イコルスン「以後」「ノン察知」、大月悠祐子「彼女達の最終定理」、鬼龍駿河「乙女ループ」、竹田昼「王様の寝床」、武田春人「ろみちゃんの留守番」

中村明日美子(なかむらあすみこ)

1月5日神奈川県生まれ。2000年、マンガF(太田出版)にて「コーヒー砂糖いり恋する窓辺」でデビュー。以降、官能的なストーリーから青春もの、ボーイズラブまで多彩な作品を送り出している。代表作に「Jの総て」「同級生」「卒業生」「ウツボラ」「鉄道少女漫画」など。

沙村広明(さむらひろあき)

1970年2月千葉県生まれ。1993年、アフタヌーン夏の四季大賞にて「無限の住人」が四季大賞を受賞し、月刊アフタヌーン(講談社)に掲載されデビュー。翌年、連載が開始された同作で、1997年に第1回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。高いデッサン力に裏打ちされた迫力ある殺陣と奇想天外な設定で、ネオ時代劇と評される。その一方、竹易てあしの変名で「おひっこし」などコメディタッチの短編を執筆するユーモアを持ち合わせる。2008年、「無限の住人」がTVアニメ化された。

かずまこを

2月19日兵庫県生まれ。2007年、コミック百合姫(一迅社)にて「パジャマ夜話」でデビュー。以後、コミック百合姫や楽園 Le Paradis(白泉社)にて青春少女マンガを発表している。代表作に「純水アドレッセンス」「ディアティア」など。

木尾士目(きおしもく)

1974年生まれ。1994年に「点の領域」で月刊アフタヌーン(講談社)の四季賞を受賞し、同誌に掲載されデビュー。2002年、大学生のオタク系サークルを取り上げた「げんしけん」の連載を開始。オタクブームの立役者となった。同作は作中作「くじびきアンバランス」とともにTVアニメ化され、2010年からは続編となる「げんしけん 二代目」の連載がスタート。そのほかの作品に「四年生」「五年生」「ぢごぷり」などがある。