「プロメア」今石洋之(監督)×中島かずき(脚本)インタビュー&TRIGGER潜入レポート|オイシイ要素は全部入れた。これは老若男女が観られるTRIGGER映画だ!

「プロメア」の制作現場に潜入!
絵づくりへの挑戦と、そのこだわりに迫る

2019年4月初旬。劇場公開まで50日を切ったスタジオはまさに大詰め。ギリギリまで作品を作り込む作業が続けられている中、アニメスタジオ・TRIGGERを訪れ、制作現場の様子を見学させてもらった。

監督自ら手を入れる3DCGチェック

この日は今石洋之監督とキャラクターデザインのコヤマシゲト、3Dディレクターの石川真平、クリエイティブディレクターの若林広海が集まって3DCGチェックが行われていた。4人が見ているのは3DCGのバトルシーン。マッドバーニッシュの激しい攻撃を受けて、主人公・ガロが搭乗するパワードギア・マトイテッカーの腕が吹っ飛んでしまう。

3DCGチェックは、制作途中の映像でキャラクターの動きやポーズ、エフェクトなど、アニメーションの仕上がりを確認していく作業だ。どうやら今石監督はガロの表情が気になるよう。攻撃を受けたガロの目がぐるぐるの渦巻きで表現されていたのだが、「どうも(ぐるぐるが)目に残るな……」と液晶ペンタブレットで修正を描き入れていく。「プロメア」では「TVPaint」というソフトウェアを使って、監督が3DCGカットに直接フィードバックを書き込むスタイルを取っているそうだ。

オリジナリティのある色味を徹底的に追求

コヤマシゲト

ここからは絵づくりのポイントについて紹介していこう。「プロメア」のルックを特徴づけている要素のひとつが「色」だ。作品全編を通して、カートゥーンアニメのようなポップなカラーリングが基調になっている。その色の秘密に迫るべく、コヤマシゲトに話を聞いた。キャラクターデザインとクレジットされているコヤマだが、実際は作品トータルでの絵づくりや、色のコンセプト作りから関わっている。

「僕も今石さんも海外のアニメや実写作品が好きなんですが、それらのアートブックに収録されているコンセプトアートのような、デフォルメされた抽象的な絵が好きなんです。でも映画の最終的な画面ではもっとリアリスティックな表現になっていることが多くて、僕らはむしろ写実的にせず、コンセプトアートのような絵のまま動かしたいなと」(コヤマ)

「プロメア」より。リオの手のひらで燃えているのがバーニッシュフレアだ。

コンセプトアートのような抽象的な表現で、いかにリアルに感じられるものを描くか。それが「プロメア」で目指した方向性だ。そこからシンプルな面と軽やかな色で構成した、グラフィカルな画面ができあがった。

色についてまず印象的に感じられるのが、エフェクトだ。例えばバーニッシュの放つ特殊な炎(バーニッシュフレア)は、ピンクとエメラルドブルーという普通の炎ではあり得ない色彩で描かれている。

「“この世のものではない炎”とは一体どんな色なのか、今石監督とずっと考えて、赤、黄色とかオレンジ、温度が上がれば青とか、リアルな炎やほかの配色もいろいろ試した上で決めました。赤とかオレンジの炎だと、照り返しを受けたキャラクターもその色に染まってしまうので、どんどん画面が普通になっていくんです。炎はこの作品のキーになるものでもあるので、このくらい変な色じゃないと、ぶっ飛んでる感が出ないんですよね」(コヤマ)

「プロメア」より。影の色味に注目してほしい。

ほかにも興味深いのが、明るく鮮やかにすら感じられる影の色だ。通常、影を素直に表現するためには色の明度を暗くしていくが、当然ながら色は明度を上げると白に、下げると黒に近づく。「プロメア」ではあえてそれを避け、明度で差をつけるのではなく、彩度と色相を効果的に調整することで、くっきりとコントラストのついた影を表している。

「そうすることで、白と黒を使わずに陰影が表現できます。なぜ使わないようにしているかというと、その2色こそがこの作品の中で重要な意味を持つ色だからなんです」とコヤマ。その役割は作品の中で明らかになるので、ぜひ鑑賞する際に注目してみてほしい。

コヤマは制作終盤になっても、細かいカラーモデル(色味)のチェックに参加している。

「あまりにも色の設定が複雑なので、例えば煙の色が間違ってるとか、誰も気が付かなかったりするんです(笑)。線画にも体や髪、パーツごとに違う色が入っているし、それがシーンによっても変わっていくので、もはや僕と色彩設計の垣田由紀子さんしか細かな色を把握しきれていない。めちゃくちゃ大変なんですけど、色には徹底してこだわった作品になっています」(コヤマ)

3DCGならではのアクションとこだわりのエフェクト

石川真平

次は、3Dディレクターの石川真平に、3DCGの見どころについて聞いてみよう。作画のイメージが強い今石監督作品だが、これまでの作品でも3DCGを使ったアクションに積極的に挑戦している。特に石川が3Dメインアニメーターとして参加した「キルラキル」は、空間をダイナミックに使った演出で今石監督のオーダーに応えてきた。

「『天元突破グレンラガン』からいくつかの作品を通して、監督自身がCGに何ができるのか探りながら取り組んでこられたと思います。今石さんは映画が好きで、それこそハリウッド作品のようなカメラワークの効いたアクションをやりたいと。CGならそれができるんじゃないか、という期待もあって、だんだん大変なカットを作ることが多くなってきました」(石川)

「プロメア」より。

「プロメア」でも3DCGならではのアクションが存分に生かされている。注目どころのひとつは、カメラワークで魅せる長回しのバトルシーンだ。例えば作品冒頭、ガロとマッドバーニッシュのリーダー・リオが火災現場の屋上で戦うシーンは、1分間ほどの激しいアクションを、カメラをダイナミックに動かしながらワンカットで作り上げた。

「普通ならカットを割るシーンを長回しにすることで、テンションが高い状態をキープし続けてほしいというのがあります。ずっとアクションが続いて、まだやってるのか!と。作るのは大変なんですけどね(笑)」(石川)

石川いわく、ほかにCGでこだわったところは「エフェクト」。できる限りシンプルで幾何学的な表現を目指したという。「CGは本来、破片を増やしたりディテールを細かくしていくほうが得意なんです」と言うように、シンプルな形での表現は簡単ではなかったようだ。ディテールを足す代わりに、面にグラデーションをかけることで単調さを回避し、グラフィカルで華やかな画面を作っている。

「バーニッシュの炎は三角形をベースに組み合わせています。リオが操る炎の龍は、動きで龍らしく見えるように工夫したり、シンプルさと、それらしく見せるバランスも難しかったところです」(石川)

制作が大詰めに差しかかり、冒頭のようなチェック工程に入りつつある。今石監督からは3DCGパートに対してどのようなフィードバックがあるのだろうか。

「動きとかシルエットやポーズ。あとタイミングですね。ここは1コマでとか、こうしたほうがメリハリがつくよね、と、TVPaintで直接タイミングに手を加えて、参考として担当の3Dアニメーターに渡しています」(石川)

3DCGチェック中の今石監督。

今石監督が追求してきたリミテッドアニメの感覚も反映され、勢いのあるアニメーションが完成しつつある。最後に「テンションの高いアニメになっているので、期待してください」と石川。今回話を聞いたのはアニメ制作工程のごく一部だ。迫力のある芝居、かつてないルック、そしてパンチのあるアクション。すべての工程にこだわりが盛り込まれたアクション活劇に仕上げられている。期待してスクリーンでの上映を待とう。


2019年5月20日更新