一番エポックメイキングだったのはバルキリーかな(河森)
河森 ロボットの場合はデザインもとても重要です。ロボットもののデザインは本当に難しくて、今までにないものを作ろうとすると、ユニークだけれどまったく売れないだろうなというデザインになっちゃう。まあ自分は、周りから「絶対に売れない」って言われるようなものをあえて作って通してきたような人間ですが(笑)。
上町 (笑)。
河森 でも「絶対に売れない」って言われるくらいでないと、本当に新しいものにはならないんじゃないかと思いますよ。まあ本当に売れないときもありますが(笑)。「エウレカセブン」も、デザインを依頼されたときのオーダーは「自動車から変形したロボット」だったんですが、「それだけだともう何度もやってるから!」って(笑)。
上町 同じ発想で考えていてはダメですよね。
河森 何かいいアイデアはないかと考えたときに、トラパーによって船が粒子で浮いてるという設定を聞いてサーフィンを思いついたんですよ。もしそれが出てこなかったら地獄でした。何を描いても「これ何かに似てるぞ」というのをやり続けることになる。それでも今と比べれば昔は楽でしたよ。ネット時代になって、少し検索したらなんでも出てきて「もうほかの人がやってるんだ」って諦めちゃうじゃないですか。だからよく「井の中の蛙力も大事だよね」という話をしますよ、大海を知らないから思いつけることもあるぞと。
上町 考えすぎると作れなくなると。
河森 そうそう。もうどこかで見たからと諦めるか、気にせず突っ走るか(笑)。
上町 ちなみにご自分で作ったメカの中で、何が一番お好きですか?
河森 うーん、好き嫌いは言いにくいんですよね、どれも作っている最中は一番好きだと思って作るので。でも一番エポックメイキングだったのはバルキリーかな。
上町 バルキリーのデザインは画期的でしたよね。
河森 まだ他でやられてなかったことをやれたっていう実感が一番大きいです。むしろ、それ以上に画期的なことを思いつけていない自分が情けないと思うくらいで(笑)。
次も2人組でと言われて。そんなの意地でもやらないぞ(河森)
──「マクロス」のようなシリーズものだとコンセプトを大きく変えるというのは難しいのかなと思うのですが、「マクロスF」や「マクロスΔ」などシリーズを続けていく中で、どういった考え方で制作されていたんでしょうか。
河森 「マクロスF」が、宇宙戦闘に歌姫が登場して、その歌が武器になることがだんだんわかってくるという流れだったのに対し、「マクロスΔ」では最初から歌が有効だったというようにロジックを変えました。でも「マクロスΔ」のときは、クライアント側から「マクロスF」で2人組の歌姫がうまくいったから、次も2人組でと言われて。そんなの意地でもやらないぞと(笑)。
上町 (笑)。
河森 「次はチームでやるから」と言っていたのですが、なかなかゴーサインが出なくて。そのうち「AKB0048」を作っていたら、その後グループアイドルもののアニメがどんどん増えてしまって……。チームで歌う「Δ」を準備している中でしたので、すごく悔しかったです。
上町 河森監督の「ノブナガ・ザ・フール」は、時代ものとロボットの組み合わせですよね。
河森 戦国ロボットものというジャンルにしたのは、ぶっちゃけて言うと近未来では人間はもうロボットに乗りゃしないよな、AIで動かせばいいんだしと思って(笑)。
上町 (笑)。
河森 乗って戦うのが似合うのは、近未来じゃなくて過去なんじゃないかと思って、試してみたわけです。
上町 たしかに現実でAIが発達して、無人機化がどんどん進化していく中で、今後は有人である必要性は明確に求められるでしょうしね。
河森 そうそう。数年後、自動運転化が当たり前になったとき、操縦することに喜びを見出さない子供たちが増えてくる可能性が高いので。もうロボットはSFじゃなくて歴史ものになるんじゃないかって(笑)。
上町 「昔はみんなロボットに乗ってたんだぞ」みたいな(笑)。
河森 「へー操縦なんかしてたんだ」って(笑)。
──4月からスタートする新作の「重神機パンドーラ」は、特撮作品のテイストが多く盛り込まれ、ロボットものとヒーローものの中間を狙っているとお聞きしました。
河森 そうですね。「パンドーラ」は、変身ヒーローものをやりたいという話をしてたいたところに「どうしてもロボットを出してほしい」と頼まれて、人型に変形する「MOEV(モーヴ)」という搭乗機を考えました。ヒーローものとか特撮映画って専用の乗り物に乗るじゃないですか。「007」だったらボンドカーに乗り、「バットマン」だったらバットモービルに乗る、みたいな。そんなイメージでしたね。
日本のアニメの価値をどう出して行くか(上町)
──最後に、とても答えにくい質問かなと思うのですが、Project ANIMAから生まれた作品がテレビアニメになっているであろう2020年代のアニメ業界はどうなってると思いますか?
河森 それ、ものすごい難しい質問ですね。
上町 明言できる人がアニメ業界にいるのかな(笑)。
河森 正直、あまりにも世界が加速しすぎていて、このままだと日本は取り残されていくだろうなという印象ですね。アニメ業界がというよりは、日本の情報の出入りそのものがあまりに偏っていて、世界の動きに比べて鈍い。海外のイベントを周ったり、海外と共同でやってるプロジェクトと比べたときに、何に対しても日本の出遅れ感が非常に気になっています。
上町 スピード感が全然違いますよね。
河森 そう。特に今勢いのある中国なんかは、とにかく「決めたら即GO」っていうスピード感なので(笑)。日本は、根回しして法律があって規律があってなんだこうだやってるうちに、完全に取り残されている。今はまだ大丈夫なんですよ。今すぐ負けてると言ってるわけじゃないんですけど、このままだと2年後は危ない。
上町 日本でのんびり座組がどうとか契約書がどうとか話し合っている間にもう作り始めてるみたいなレベル。競い合うわけじゃないですけど、危機感はかなりありますよね。
河森 丁寧にやらなきゃいけないことも当然あるんですが、エンターテインメントに関して言うと速度勝負なところもあるのでね。速い分精度が劣るというのは確かにあるんだけど、でもそんなのお金さえあればすぐに向上しちゃうんで。日本は勢いが落ちてきてるっていう自覚を持たないとヤバいでしょうね。
上町 中国原作、中国制作のアニメを中国の国民が観てるという状況で、日本のアニメの価値をどう出していくか。間違いなく岐路に立たされていますよね。
河森 中国のバイオテクノロジーの分野では、大学が無料で遺伝子編集技術の講座を開いて若者たちにどんどん教えて、実際の研究に結びついている。もうアニメのSFに現実が追いつき追い越してもおかしくないわけです。海外に目を向けるのは大事だと思いますね。「Project ANIMA」も奨学金制度じゃないですが、「受賞者は海外を回ってきていいよ」と言えるようなことができたらいいですね。
上町 いいですね、本当に留学してもらいたいぐらいです。
- 河森正治(カワモリショウジ)
- 富山県出身、1960年2月20日生まれ。サテライト所属。1982年にアニメ「超時空要塞マクロス」の可変戦闘機バルキリーのデザインで注目を浴び、1984年に劇場アニメ「超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか」で監督を務める。以後、「新世紀GPXサイバーフォーミュラ」「機動警察パトレイバー」「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」などでメカデザインを手がけるほか、「創聖のアクエリオン」「マクロスF」「マクロスΔ」など監督代表作も多数。2018年4月より「重神機パンドーラ」が放送開始。
- 上町裕介(カミマチユウスケ)
- 大阪府出身、1985年1月16日生まれ。株式会社ディー・エヌ・エー所属。「Project ANIMA(プロジェクトアニマ)」総合プロデューサー。アニメ、ゲーム、ラジオと様々なコンテンツの立ち上げを担当しているほか、音響監督や声優志望者向けのワークショップなど幅広く活躍。その他元カメラマンや元コピーライターなどの経歴を持つ。現在、「豊永・小松・三上の真夜中のラジオ文芸部」が文化放送にて放送中。
特集一覧
第1弾「SF・ロボットアニメ部門」募集要項
- テーマ
- SF・ロボット(メカ)をテーマとした作品であれば、世界観やコンセプトは自由。
- 募集期間
- 2018年2月1日(木)~4月15日(日)
- ※作品募集は終了。
- 賞金
- 「小説・脚本選考」「マンガ選考」「企画書・イラスト・動画選考」それぞれで金賞・銀賞を決定。金賞は賞金15万円、銀賞は賞金5万円を贈呈。更に最終選考にてアニメ化作品として選ばれた作品には賞金100万円を贈呈。
※アニメ化作品は各選考の金賞・銀賞以外から選ばれる場合もある。
- 募集形式
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- 小説形式
- 1万字以上の小説本編(未完結でも可)、もしくは3000文字以上のプロット(完結必須)
- 脚本形式
- 800字程度のあらすじ、300字以上の登場人物紹介に加え、1万字以上の第1話の脚本
- マンガ形式
- 800字程度のあらすじ、300字以上の登場人物紹介に加え、連載作品としての冒頭1話分以上(20ページ前後)の完成原稿、もしくは同程度のページ数のネームおよび作画見本。
※商業誌での掲載がないオリジナルの同人作品についても上記要件を満たしていれば応募可能。 - 企画書形式
- 800字程度のあらすじ、300字以上の登場人物紹介に加え、作品の世界観やプロットのわかる企画書。
- イラスト形式
- A4もしくはB4サイズのイラスト1点から5点。作品の世界観、キャラクターデザイン、メカデザインなど主題は不問。モノクロ、カラー、CGなど様式は不問。
- 動画形式
- 60秒以上のアニメーション動画。
※YouTubeへ限定公開で動画をアップロードし、URLを応募フォームより投稿。
- 審査員
- DeNA、創通、文化放送、MBS、サテライト
- 結果発表
- 各選考中間発表:2018年6月
各選考入選発表:2018年7月
大賞発表:2018年8月
2018年8月6日更新